ザ・クインテッセンス ダイジェスト見本誌2024
4/12

4the Quintessence 2024 ダイジェスト見本誌 日常臨床を行うなかで,歯の破折にはしばしば遭遇する(図1,2).そして,歯の破折への対応の意思決定は,時として苦慮することがある.歯に起きた亀裂の程度とその場所,症状の重症度に応じて,経過観察,コンポジットレジンなどの接着技法を用いた修復,クラウンによる補綴処置などの対応を行う.また,歯髄や根尖周囲組織に障害をきたした場合は,歯内療法の介入とそれに続く咬頭被覆冠による補綴処置,さらには抜根や抜歯まで,その対応は多岐にわたる. 歯に破折が起きて,その破折線が歯根に及び期間が経過すると,破折線に沿って歯周組織の広範囲に破壊が進行する.歯周組織の広範囲に破壊をきたした歯根破折を認める場合,接着技法を用いた保存的治療も試みられるが,歯根にまで及ぶ破折を認めた歯の多くは保存不可能となり抜歯が避けられなくなる.このような場合でも,複根歯であればルートアンプテーションやヘミセクションなどを行うことができるかもしれないが,臨床ではその適応や予後について限定的な症例にのみ有効であるという状況もしばしば経験する(図3). 実際,2018年の(公財)8020推進財団による『第2回永久歯の抜歯原因報告書』においては,永久歯の抜歯原因において,歯の破折が全体の17.8%を占めていると報告されている*1.この事実は臨床医としては無視することができない. 歯の破折は稀な症例ではなく,日常臨床で散見する厄介な問題である.そして,上述したように,一言に“歯の破折”といっても,日常臨床を行ううえでは,その重症度によって経過観察から抜歯まで,とても幅広い対応が求められる. 歯の破折は既根管治療歯のみに起きるわけではないが,日常臨床では既根管治療歯に歯の破折が生じている症例に遭遇する機会が比較的に多いであろう.はたして,既根管治療歯に起こる歯の破折は避けることのできない不慮の事故なのであろうか?  もちろん,避けることができなかったであろうと推測される既根管治療歯に起こった歯の破折も経験するが,避けることができたであろうと感じる既根管治療歯の破折も経験することがある. ひとたび,歯の破折が起こるとチャレンジングな処置を強いられたり,保存不可能となったりする可能性があるからこそ,事前に可能な限りの予防策を講じることが重要となる. このようなことを背景に,本稿では既根管治療歯に起こる歯の破折,なかでも垂直性歯牙破折をいかにして予防するかについて,歯内療法の視点で考察してみたい.*1.(公財)8020推進財団.第2回永久歯の抜歯原因調査報告書.2018;https://www.8020zaidan.or.jp/pdf/Tooth-extraction_investigation-report-2nd.pdf(2021年9月30日アクセス).神戸 良京都府開業 良デンタルクリニックはじめに歯牙破折はなぜ生じる?破折を防ぐことはこのようなできる?既根管治療歯の垂直性歯牙破折〜歯内療法的視点からその予防を考える〜保存歯科(歯内療法)2022年4月号掲載

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る