ザ・クインテッセンス ダイジェスト見本誌2024
5/12

2特 集ababacbdefgaabbab52特 集58the Quintessence. Vol.41 No.4/2022̶0792the Quintessence. Vol.41 No.4/2022̶07935962the Quintessence. Vol.41 No.4/2022—0796the Quintessence. Vol.41 No.4/2022—0797632-1)クレーズライン(craze lines) エナメル質に限局した破折線である.臼歯部では辺縁隆線や頬側,舌側の表面に認められることが多く,前歯部においては垂直方向に伸展する破折線として認められる.2-4)スプリットトゥース(split tooth) 歯冠からはじまり,歯肉縁下に伸展する完全破折である.多くの場合,破折線は近遠心両側の辺縁隆線につながり歯根の隣接面に及ぶ.スプリットトゥースはクラックトゥースによる破折線が伸展した“成れの果て”の状態である.歯根に及ぶ破折線は,歯根中央部もしくは根尖1/3付近で舌側に伸展することが多い.2-2)咬頭破折(fractured cusp) 歯冠からはじまり,歯肉縁下にまで伸展する完全または不完全な破折様式である.通常,破折は近遠心と頬舌方向に伸展し,1つの咬頭が影響を受けることが多い.2-5) 垂直性歯根破折(vertical root 2-3) クラックトゥース(cracked tooth) 歯冠からはじまる不完全破折で,通常は近遠心的に片側もしくは両側の辺縁隆線を通り,隣接面から歯肉方向に伸展する.破折線は歯冠部のみに位置する場合や歯根に及ぶ場合もある.隣接面間において,破折線は歯の中心に位置していることが多い.歯質を保存したが,根尖性歯周炎を治癒させることができず保存不可能となっては本末転倒である. これらを踏まえたうえで,根尖性歯周炎の歯内療法における歯質の保存を,歯冠側と根尖側に分けて考察してみたい.1-1)歯冠側の歯質の保存①ミニマルアクセス窩洞の種類 歯根破折に対して,歯の構造を可能な限り保存する低侵襲なアクセス窩洞は,トラディショナルアクセス窩洞(traditional endodontic access cavity,TEC)と比較して有利であるのであろうか?  ミニマルアクセス窩洞を示す類似の用語は,ニンジャアクセス窩洞(ninja endodontic cavity)やトラス窩洞(truss access cavity)など20以上あり,破折抵抗性を増す可能性が議論されてきた(表2)15. ミニマルアクセス窩洞の種類は,先述したTEC,コンサバティブアクセス窩洞(conservative endodontic access cavity,以下,CEC),超コンサバティブアクセス窩洞(ultra conservative endodontic access cavity,以下,Ultra CEC),トラスアクセス窩新しい概念でのNi-Tiロータリーファイル洞(truss access cavity,以下,Truss AC),う蝕除去後の窩洞や修復物除去後の窩洞を利用したアクセス窩洞(caries-driven access cavity,以下,caries AC/Restorative-driven access cavity,以下,Resto AC)の,おおむね5つの窩洞外形に大別される(図6)15.②低侵襲なアクセス窩洞とTECの比較 低侵襲なアクセス窩洞形成が,歯の破折抵抗性にどの程度,影響を及ぼすかを調べた研究をひも解いてみると,低侵襲なアクセス窩洞形成の破折抵抗性がTECと比較して大きかったと示す研究がある13~17一方で,TECと比較しても破折抵抗性は同等であったと示す研究もある18~26.このような結果の相違は,それぞれの研究の実験系に起因するものであると推測されている12,27.すなわち,実験に用いる歯の厚み,保存方法,破折実験の際の力のかけ方などが結果に影響を及ぼしている可能性があり,単純にアクセス窩洞の大きさのみが破折抵抗性に影響する因子ではないということである. さて,前述したように,垂直性歯牙破折が一度生じると,残念ながら予後不良となりチャレンジングな処置を強いられたり保存不可能となったりすることが多い.それゆえ,このような状態を引き起こさないための対策を講じること(予防すること)が重要となる.しかし,垂直性歯牙破折は,1つの要因が直接的に関与する場合もあるが,複数の問題が重なり多因子的に生じることもある. すべての原因をコントロールできるわけではなく,コントロールが可能な因子と困難な因子が存在する.前者には“可及的な歯質の保存”“歯冠修復処置”が挙げられ,後者には“咬合力”“パラファンクション”などが挙げられる. 以下,歯内療法の視点でコントロール可能な因子である,“可及的な歯質の保存”“歯冠修復処置”について考察する.Ni-Tiロータリーファイルの一例 技術的な進歩により低侵襲(minimally invasive,以下,MI)な治療は医学のあらゆる分野で採用され,歯科領域においても,近年,目覚ましい進歩を遂げている.そのような潮流のなかで,歯内療法領域においても,マイクロスコープ,CBCT,超音波機器,熱処理されたNi-Tiロータリーファイル,特殊な根管洗浄機材などの開発により,歯質を可能な限り保存して歯内療法を行う手法が提唱されている11. しかし,はたして「より多くの歯質を保存することほど,より良い結果が得られる」ということは歯内療法においていえるのだろうか? 歯内療法の目的は根尖性歯周炎の予防と治療である.そして,根尖性歯周炎の原因は細菌である.歯質の保存を優先するあまり歯内療法の目的を達成することができなくなっては意味がない.つまり,歯質の保存は,細菌感染をコントロールできる範囲内で行われなくてはならない.破折を防止するために図9 形状記憶Ni-Tiロータリーファイル.根管の解剖学的形態を考慮し三次元的に拡大形成を行うという新しい概念によるNi-Tiロータリーファイル.XP-endo shaper(FKG,白水貿易).すむようになった.言い換えると,以前と比較して根管拡大形成がよりcleaningに特化したものとなってきたということである. これらのことを念頭においたうえで,垂直性歯牙破折を予防するために着眼すべきポイントは,根管拡大形成を行う際のテーパーである. 過剰なテーパーを有した根管拡大形成は,歯根破折を惹起する因子となりうる34.理想的には,過度なテーパーを付与することなく根尖部の拡大号数を上げることができれば,歯根破折のリスクを減らし,かつ,細菌の除去または減少に有効だと考えられる. そのために現時点でわれわれができることは,柔軟性の高いNi-Tiロータリーファイルを使用することと,cleaningに特化した根管拡大形成(テーパーの小さい根管拡大形成)に適した根管充填方法を採用することである.③Ni-Tiロータリーファイルを用いた根管拡大形成 近年,熱加工処理を施すことによりマルテンサイト相の構造を持つNi-Tiロータリーファイルが開発された.それらはオーステナイト相の構造をもつ従来のNi-Tiロータリーファイルと比較して高い柔軟性と3. 垂直性歯牙破折を予防するには?1)可及的な歯質の保存AAEが定義し分類する垂直性歯牙破折咬頭破折(fractured cusp)クラックトゥース(cracked tooth)スプリットトゥース(split tooth)垂直性歯根破折(vetical root fractures)発生部位歯冠と歯頸部の歯根面歯冠部に限局または歯冠部から歯根歯冠と歯根の隣接面歯根に限局伸展方向近遠心と頬舌方向近遠心方向近遠心方向頬舌方向図5 AAEが定義し分類する垂直性歯牙破折(参考文献9より引用・改変,本文中にあるクレーズラインは図中に含まず).咬頭破折,クラックトゥース,スプリットトゥースは咬合面から破折がはじまり根尖方向に伸展しエナメル質,象牙質に伸展する.場合によっては歯髄にまで伸展する.垂直性歯根破折は歯根からはじまる.咬頭破折,垂直性歯根破折は完全もしくは不完全破折.クレーズライン,クラックトゥースは不完全破折.スプリットトゥースは完全破折.*近遠心的圧頬度の強い歯fractures,VRF) 歯根からはじまる,不完全もしくは完全破折である.破折線は歯根の頬側または舌側面もしくは頬舌側に伸展する.破折線は歯冠側に伸展し歯根の全長に及ぶものや,歯根の一部に限局している場合など多様である. 垂直性歯牙破折は,AAEによって上記のように分類されるが,臨床では破折の存在や破折部位や範囲の診断が困難である場合にもしばしば遭遇する.図8a図8b症例4 下顎大臼歯の非外科的歯内療法歯質切削量の多い歯内療法(図10a,b)と歯質切削量を控えた歯内療法(図11a,b).根尖部の拡大号数はほぼ同じであるが,アクセス窩洞と根管拡大形成のテーパーの違いにより歯質切削量に違いが生じる.歯質切削量の多い歯内療法図8a,b 特殊な熱処理がなされた柔軟性が高いNi-Tiロータリーファイル.REファイル(デントクラフト,ヨシダ)(a),Race EVO(FKG,白水貿易)(b).図10a,b 歯質切削量の多い症例の術前(a)と術後(b).TECのアクセス窩洞で大きなテーパーのオーステナイト相Ni-Tiロータリーファイルを用い,クラウンダウン法により根管拡大形成(MB,ML#40/.06,D#60/.02)を行い,CWCT法にて根管充填を行った非外科的歯内療法.歯頸部付近の歯質切削量が多い.髄角を残さないようなアクセス窩洞と根管口部の整理(ストレートラインアクセス)が大きい(図10b内黄色矢印部).根管拡大形成はテーパーが強い(.06テーパー).歯質切削量を控えた歯内療法図11a,b 歯質切削量を控えた症例の術前(a)と術後(b).CECのアクセス窩洞で小さなテーパーの熱処理がなされたNi-Tiロータリーファイルを用い,フルレングス法にて根管拡大形成(MB,ML#40/.04,D#50/.02)を行い,ハイドロリックコンデンセーション法により根管充填を行った非外科的歯内療法.ソフィット(soffit)という髄角の“のき”のような張り出し部分(図11b内赤色矢印部)を保存して根管口の歯質(図11b内黄色矢印部)を可能な限り保存した.根管拡大形成のテーパーが小さい(.04テーパー).耐破折抵抗性を有している35.この特殊な熱処理や金属加工がなされたNi-Tiロータリーファイル(図8)は柔軟性が高く周期疲労耐性が高いため,これらを用い根管拡大形成を行うことで,以前に比べ,テーパーを抑えた根管拡大形成ができるようになった. これとは別に,根管の解剖学的形態を考慮し三次元的に拡大形成を行うという新しい概念でのNi-Tiロータリーファイルも開発されている36(図9). 根管拡大形成は,このようなファイルの進歩や超音波や特殊な装置を用いた根管洗浄法の進歩とともに,以前に比べ低侵襲なものへと変化してきている37,38. この新しい低侵襲な根管拡大形成に,前述したバイオセラミックシーラーを用いたハイドロリックコンデンセーションのようなshapingが少なくてすむような根管充填方法を組み合わせることで,結果として非外科的歯内療法の質を落とすことなく歯質の保存に努めることができるようになってきた. このように歯頸部付近の歯質をなるべく保存し,テーパーを抑えた根管拡大形成は,垂直性歯牙破折を予防する鍵となるものである39(図10~13).症例5 上顎大臼歯の非外科的歯内療法歯質切削量の多い歯内療法(図12a,b)と歯質切削量を控えた歯内療法(図13a,b).根尖部の拡大号数はほぼ同じであるが,アクセス窩洞と根管拡大形成のテーパーの違いにより歯質切削量に違いが生じる.歯質切削量の多い歯内療法図12a,b 歯質切削量の多い症例の術前(a)と術後(b).TECのアクセス窩洞で大きなテーパーのオーステナイト相のNi-Tiロータリーファイルを用い,クラウンダウン法により根管拡大形成(MB1,MB2,DB#40/.06,D#60/.02)を行い,CWCT法にて根管充填を行った非外科的歯内療法.根管拡大形成はテーパーが強い(.06テーパー).歯頸部付近の歯質切削量が多く,TECのアクセス窩洞と根管口部の整理(ストレートラインアクセス)が大きい(図12b内黄色矢印部).なお,図12aは瘻孔にガッタパーチャポイントを挿入して撮影している.図1a,b a:デンタルエックス線写真で下顎右側第一大臼歯の根尖部に硬化性骨炎と近心根に透過像を認める.近心根の頬側に8mmのポケットを認めた.b:クラウンを除去したところ,近心根に破折を認めた(メチレンブルーにて破折線を染色).図3a˜g a:初診時,上顎左側第一大臼歯の頬側歯肉腫脹を主訴に来院.b:非外科的歯内療法直後.近心根分岐部に穿孔と根尖破壊を認めたため,穿孔修復と根管充填をMTAにて行った.遠心頬側根と口蓋根はガッタパーチャとシーラーを用いて根管充填.c:非外科的歯内療法後8か月.症状は改善.デンタルエックス線写真に近心根の透過像の消失を認める.d:初診から約7年.再び上顎左側第一大臼歯の頬側歯肉腫脹を訴える.同部位に9mmのポケットを認めた.e,f:近心根の破折①②.近心根の破折を疑い,診断的治療介入.フラップ形成後に肉芽を除去したところ,近心根に歯根破折を認める(近心根分岐部の穿孔後には骨再生を認め,穿孔修復部位の治癒は良好であった).g:近心根の抜根を行った.図2a,b a:根尖に透過像を認める.術前検査で付着の喪失は認められなかった.b:補綴装置(クラウンとコア)を除去したところ,破折を認めた(メチレンブルーにて破折線を染色).the Quintessence 2024 ダイジェスト見本誌日常臨床で遭遇する歯の破折.難しい処置や抜歯につながる可能性もあるため,できる限り予防したい症例1 歯の破折1(下顎右側第一大臼歯)症例3 歯の破折3(非外科的歯内療法後に根尖性歯周炎は治癒するも,その後,歯根破折が起きた)症例2 歯の破折2(上顎左側第一小臼歯)垂直性歯牙破折の予防で留意したい「可及的な歯質の保存」と「歯冠修復処置」を歯内療法の観点から解説!この論文を無料で全文読む!

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る