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緊急企画 新型コロナウイルス(新聞クイント5月号掲載)

特別寄稿 緊急企画 新型コロナウイルス 歯科医療とココロについて 試されるメディアリテラシー

原田奈穂子 ( はらだ・なほこ)
宮崎大学医学部看護学科地域精神看護学講座精神看護学領域教授、こころのかまえ研究会代表
人道支援における質の保証と説明責任トレーナー/同養成研修トレーナー/緊急時の教育支援の最低基準(INEE)トレーナー/人道行動における子どもの保護の最低基準(CPMS)トレーナー/WHO版心理的応急処置(PFA)トレーナー/子どものための心理的応急処置(PFA)トレーナー/支援の質とアカウンタビリティ向上ネットワーク(JQAN)会員/災害医療ACT 研究所理事/日本災害医学会(JADM)評議員/宮崎県災害派遣福祉チーム(DWAT)構成員/宮崎災害派遣精神医療チーム(DPAT)隊員/日本災害派遣医療チーム(DMAT)隊員

新型コロナウィルスの感染拡大にともない、「新聞クイント5月号(5月10日発行)」に掲載の内容を無償にて公開します。

まずは、読者の皆さんの中で、新型コロナウイルス(以下COVID-19)に罹患、またはご家族を亡くされた方に心からのお悔やみを申し上げます。そして、COVID-19という新しい世界脅威があるなかで、歯科診療を続けてくださる皆さんに、心からの感謝をお伝えします。 今回は、歯科医療に携わる者としてという視点と、ひとりの人としての視点で、COVID-19に向き合うことをメンタルヘルスの領域から考えてみようと思います。

歯科医療に携わる者として、新型コロナウイルスに向き合う
「自分を守り、人を守り、心の健康を保とう」

現在多くの国では、患者さんが生命にかかわるような状態ではない限り、COVID-19から歯科医療者を守るために診療を止める勧告を出しています。このような時でも診療を続けることが患者さんのためになるのに……と考え、診療の規模を縮小することに対してストレスを感じる方々は少なくないと考えます。 この勧告は、COVID-19 の流行が沈静化された後の歯科医療の継続を視野に入れたものです。COVID-19 は接触と飛沫感染で伝播することがわかっていますので、歯科領域診療はリスクが高いわけです。ウイルスは人を選びません。英国首相でも、人気コメディアンでも罹患し、最悪死に至ります。沈静化された後に、「流行前の高い質と量の歯科医療を速やかに再提供できることが、最終的な人口単位での口腔内健康につながる」という長期的な視点をもち、職業人としてのストレスに折り合いをつけることが、ストレスの緩和に1つの効果があると考えます。 反対に、いつもどおりの診療を続けることで、罹患の可能性に対するストレスをもつ方も多いでしょう。今こそ皆さんのメディアリテラシーが試されるときです。メディアリテラシーとは、自分が知りたい情報について、正しい情報源から集め、客観的に評価と識別をして、自分のために活かす力です。巷にはCOVID-19 についての情報が溢れています。ですが、ここは皆さんには医療者として、厚生労働省や国立感染研究所、WHO(世界保健機関)といった正しい情報を載せている情報源にアクセスしてもらいたいと思います。正しい情報をもつことは、安心感にもつながるからです。 そして知っているだけではなく、その知識に基づいた行動をすることで初めて、メディアリテラシーが高いということを知ってください。周りにいませんか? 理屈屋だけど、本人は言っていることをなにも実行していない人です。対して、メディアリテラシーが高い人は、患者さんに正しい情報を伝えることができます。そして、この第三者に正しい情報を伝えられることが自己効力感につながります。自己効力感をもっている人は、心の安定度が高いといわれています。医療者として、自分を守ることができ、人を守ることができると、心の健康も保たれるというわけです。

ひとりの人として、新型コロナウイルスに向き合う
「正しいことを知り、実践する力をもとう」

皆さんは職場を離れるとどのような役割をおもちですか? 夫、妻、父親、母親、子ども、孫、友人、パートナー、とさまざまな役割をおもちだと思います。今はすべての人が、「今までの生活」をCOVID-19に乱されています。そのため、すべての人が、職場でもプライベートでも、今までどおりの生活を送れなくなっているのです。実は人の脳は「変わらない」ことをもっとも好みます。なので、仕事の時間や内容、いつも行くお店の営業時間、子どもの休校、外出自粛の要請などにより「変わらないいつもの生活」ができなくなることは、それだけで大きなストレスに感じるのです。 では、子どもと大人では、どちらがより変化を楽しめるのでしょうか? これは、まだ過去の経験の数が少ない子どもの方に、軍配が上がります。新しいことにワクワクする力が大きいのです。反対に大人は過去のさまざまな経験を思い出しながら、危険を回避したり、同じ間違いを繰り返さない工夫ができたりするのですが、同時に過去の経験時の感情も記憶しています。未知の事柄に対して、子どもと同じようにワクワクするというよりは、危険ではないか?と、ドキドキする方が多いのはこれが理由です。 大人の皆さんにとっても初めてのCOVID-19の流行は、子どもにはどう映るのでしょうか? 最初は学校が休みになった、いつもとは違う生活へのうれしさもあったかもしれません。ですが、子どもの保護を専門とする公益社団法人セーブ・ザ・チルドレンの子どもアンケートでは、多くの子どもたちが、友達と会えないこと、出かけられないこと、勉強に集中できないことに不安を感じていることが明らかになりました。 子どもたちの「いつも」を保つ力は、大人よりも弱いのです。一度いつもが崩れてしまうとなかなか自分だけでは元に戻せないのです。だからこそ、大人の私たちが子どもたちのいつもの生活を守る必要があります。学校に行き、学び、遊ぶことを、大人がサポートする必要があるのです。大人もいつもの生活を乱されて、イライラしています。もしかすると、子どもが休校で家にずっといるという「いつもじゃないこと」で、余計にイライラしているのではないでしょうか? そして子どもたちに、そのイライラをぶつけてしまうこともあるのではないでしょうか。 イライラの真の原因は子どもではなく、COVID-19の流行という未知の事柄に向き合う大人の不安な気持ちです。大人でも不安になって当たり前のことが起きています。子どもに「わたしも、心配」「わたしも、不安」と率直に伝えることで、子どもは不安なのは自分だけじゃないと感じることができます。そのうえで、子どもを守る立場の大人として、どうしたら予防できるのかを一緒に確認し、実践しましょう。予防のためには、正しい手洗い、マスクのつけ方、規則正しい生活、栄養のある食事、食後の歯磨き、十分な睡眠、そして心身のための運動が推奨されています。これらは科学的な根拠に基づいている事柄です。読者の中でこれらの予防法を知らない人はいないことでしょう。では、あなたはどれだけのことを実践していますか? 勘の良い人はもうお気づきですね! 最初にお話ししたメディアリテラシーにつながるのです。正しいことを知り、実践する力をもつことが、あなたの自己効力感につながるのです。もし子どもがあなたよりも正しく手を洗えていたら、きれいに歯を磨けていたら、認めてあげましょう。大人が認めることで、子どもの自己効力感は高まります。あなたにできることは、たくさんあるのです。