下顎前突の診査
- 【読み】
- かがくぜんとつのしんさ
- 【英語】
- examination of mandibular protrusion(maxillary retrusion)
- 【辞典・辞典種類】
- 歯科臨床検査事典
- 【詳細】
- 【定義】上下顎前歯の水平的被蓋関係が、正常とは反対、すなわち、下顎前歯が上顎前歯を被蓋するような不正咬合をいう。典型的にはAngle III級、下顎第1大臼歯の近心咬含を示す。
骨格性下顎前突と歯槽性下顎前突(機能性下顎前突)に分類される。
骨格性下顎前突は上顎骨の劣成長(唇顎口蓋裂も含む)や下顎骨の過成長によるものであり、歯槽性(機能性)下顎前突は前歯部の早期接触や干渉をさけ下顎を前方移動させて中心咬合位をとるため反対咬合を呈するもので、下顎を後退させると切端咬合をとることができるものをいう。
【検査法】
1.診査
1)一般診査:遺伝、先天異常、全身的疾患、耳鼻科的疾患、口蓋裂などについて診査する。
2)局所診査:歯数や歯牙の形態の異常、永久歯交換の異常、歯周組織の状態、舌の大きさや運動パターン、外傷の既往などを診査する。また、唇歯音などに構音障害を起こすことがある。
2.顔面規格写真
骨格性下顎前突の顔貌の特徴は、側貌はconcave typeである。正貌は下顔面が長く、細長い。顔貌の左右非対称は、lateral displacementによって下顎の偏位した場合と下顎骨自体の変形による場合がある。
歯槽性(機能性)下顎前突の場合は、安静位では側貌は改善される。
3.歯牙X線写真
デンタルX線写真、オルソパントモX線写真などから歯牙の数と形態、永久歯交換の様相、空隙、歯根、歯槽骨などを診査する。特に、下顎の第2小臼歯と第2大臼歯の萌出順序はdiscrepancyに影響する。また下顎第2大臼歯の萌出余地、萌出状態は下顎骨成長発育の臨床的な注意点となる。
4.模型分析
骨格性下顎前突では、第1大臼歯はAngle III級を示し、臼歯部交叉咬合、正中線のずれ、上顎歯列弓の狭窄、などがみられる。
1)歯冠近遠心幅径、歯列弓・歯槽基底弓の計測
2)tooth size ratioの分析(→tooth size ratios)
3)arch length discrepancy
5.頭部X線規格側貌写真分析
1)骨格型計測項目
【1】上顎の水平的位置(SNA、angle of convexityなどが小)。
【2】下顎の水平的位置(SNB、SNP、facial angleなどが大)。
【3】上下顎の水平的関係(ANB、A-B plane angleなどが小またはマイナス)。
【4】下顎の垂直的位置(SN-Md、FMAなどが大のときhigh angle caseである。このときRamus inclination、Gonial angleなどが大、Y-axis to SN小のことが多い)。
2)歯槽型計測項目
【1】上顎前歯の位置(Ul to SN、Ul to FH、Ul to NP、Ul to APなど)。
【2】下顎前歯の位置(Ll to Md、FMIA、Ll to occlusal planeなどが小)。
【3】上下顎前歯の関係(Ul to Llが大)。
【4】咬合平面の傾斜度(occlusal plane to SN、cant of occlusal planeなどが大)。
3)プロフィログラム:重ね合わせによる成長発育の方向と程度を把握する。
4)治療目標の設定と抜歯部位の選択:arch length discrepancyとを組み合わせてcephalogram correctionを行い、治療方針と抜歯部位を決定する。(→抜歯基準の診査)
6.機能的分析
歯槽性下顎前突はanterior displacementに起因するのでpath of closerを行い、displasement、diviationの有無と程度を診査する。また、切端咬合位あるいは中心位において前歯部の被蓋が改善して中心咬合位をとる場合を予測し、第1大臼歯の咬合関係、上下顎歯列弓幅径、早期接触や咬頭干渉による機能的な交叉咬合の有無などを診査する。この作業は同じ位置で咬合採得した口腔内膜型の診査によってより正確となる。
また、下顎安静位、中心咬含位、中心位の頭部X線規格側貌写真のトレースを重ね合わせることによりpath of closureを検討する方法を併用し、上下顎の位置関係、上下顎切歯歯軸傾斜、側貌の変化などを治療方針決定の参考とする。
骨格性下顎前突においても、顎可動性か否かを同様に診査、分析する。
7.成長分析
骨格性下顎前突の場合、下顎骨の成長発育の予測が装置の選択と治療開始時期の決定に重要である。
全身的な成長発育、特に思春期スパートの時期を判断するには、身長の年間増加量のグラフ、初潮の時期ならびに手根骨のX線写真(拇指尺側種子骨の形成)などを資料とする。
顔面頭蓋については主に頭部X線規格側貌写真のプロフィログラムの重ね合わせにより成長発育の部位と方向を分析する。
注)比較的簡単な下顎前突(含、反対咬合)の診査の仕方は次のようである。
【1】顔の形(四角い顔、丸い顔は比較的やさしい。逆三角形の細長い顔は難しい)。
【2】側貌の状態(中ヘコミでシャクレ顔の場合は難しい)。
【3】下顎の付着の仕方(high angleは難しい。low angleはやさしい)。
【4】顎角の大きさ(大きい方が難しい)。
【5】顎の可動性(不動性:難しい。可動性:やさしい)。
【6】上顎中切歯の前傾(前傾しているもの:難しい。整直しているもの:やさしい)。
【7】下顎中切歯の内傾(内傾しているもの:難しい。前傾しているもの:やさしい)。
【8】overjetの大きさ(マイナスの数で大のとき難しい)。
【9】overbiteの大きさ(マイナスの数で大きいほど難しい)。
【治療法】
1.乳歯列期
上下顎の成長発育の速度が異なるために一時的に反対咬合を呈する場合がある。下顎骨の過成長ではない場合であっても、放置すると上顎骨の前方発育を抑制し、加齢的に骨格性の異常へと悪化することが懸念される。
骨格性下顎前突では側方運動時に下顎乳犬歯が対合歯と接触しないため尖頭が咬耗していない。
したがって、乳歯の干渉部位や乳犬歯尖頭の削合、乳犬歯遠心隣接面のstripping、乳犬歯の抜歯などを行う。また、床矯正装置、機能的矯正装置、chincap(牽引力200~300グラム)などで早期に被蓋を改善する。
2.混合歯列期
歯槽性(機能性)下顎前突では、上顎療手順との関係を示す図。前歯の舌側傾斜に対しては舌側弧線装置、床矯正装置、上顎ライトワイヤー装置など、下顎前歯の唇側傾斜に対してはchin capを使用する。また、口腔習癖防止のため筋機能療法や不良習癖防止装置を使用する。
骨格性下顎前突では、まず顎関係の改善をはかる。上顎劣成長の場合には上顎前方牽引装置、側方拡大装置(coffin拡大装置、quad helix、expansion screw)など、下顎の過成長の場合にはchin capなどを使用する。
3.永久歯列期
症例分析の結果をもとにマルチブラケット装置による本格的矯正治療を行う。
歯槽性と骨格性の不正を同時に改善するため抜歯症例となる場合が多い。
4.外科矯正
矯正治療のみで改善できないほど骨格性の不正が著しい場合や顎顔面の変形が顕著な場合は、成長の終了を待って外科的矯正治療を併用することがある。ただし、術前矯正によってできるだけ咬合の改善をはかり、顔貌改善のための外科手術を最小限にとどめる。また、後戻りを防止するため術後矯正を行う。