顔貌診査
- 【読み】
- がんぼうしんさ
- 【英語】
- examination of facial esthetics
- 【辞典・辞典種類】
- 歯科臨床検査事典
- 【詳細】
- 【意義・目的】
主観的な審美的評価を受けやすい顔貌の基準、臨床評価に対して、計量化された比率などを用いることにより、顔貌診断、治療目漂および治療手段の設定に応用しようとするもの。
【適応】
1)一般矯正治療。
2)顎顔面外科的矯正治療。
3)顎顔面部整形を目的とした矯正治療
4)成人矯正治療。
【診査法】
1.顔貌3分割診査(Bell and Proffit)
1)正貌全体診査
患者はその自分で見る頻度や局囲の洋目の度合より、まず第一に正貌診査が重要であり、実際の視診により自然的状態の診査を、そして写真診査により詳細部の計測診査を行う。
左右対称性、バランスおよび形態が、3大重要項目であり診査は上顔面1/3、中顔面1/3、下顔面1/3に分けて行うのがよい。
【評価・正常値】
はじめに、左右対称性があることが第一に重要であるが、当然完全ではなく、若干のルーズさ(非対称)がある必要がある。
顔面縦3分割では、それぞれ上・中・下顔面部長径のバランスが等しいことが、good facial estheticsのために重要である。
形態はここでは各顔面縦3分割部における水平方向幅径の差異を表わすもので、その状態によってround face、egg type face、orboid type faceなどに分けられる。
(1)正貌上顔面1/3部
ヘアーラインから眉までで、へアースタイルにより大きく影響されてしまうためその重要度は小さい。
【評価】当領域は通常顎顔面異常によっては影響を受けにくいところで、その異常の存在は頭顔面部異常疾患を伴う。またヘアーラインの位置が高くなれば同領域の全体に対するバランスを増すことになり、同時に顔全体の頭部に対する比率を増すため成人様顔貌傾向を示すことに寄与し、低くなれば同バランスを減らすことになり、また反対に童顔様顔貌を示すようになる。
(2)正貌中顔面1/3部
眉からsubnasaleまでで、眼部、鼻部、頬部、耳部領域の診査を行う。
【評価】
[1]内眼角間距離は鼻翼間距離に等しいかやや小さめ。
[2]眼内縁間距離は口間距離に等しい)。
[3]内外眼角の垂直性対称性があること。
[4]上下眼瞼の左右対称性があること。
[5]頬部は鼻翼部隆起、下眼瞼部、および鼻周囲部の左右対称性、正常な突出により決定されている。
[6]耳は左右対称性があり突出していないこと。内外眼角を通る水平線が耳上1/3上を通過すること。
(3)正貌下顔面1/3部
subnasaleからmentonまで。
【評価】
[1]subnasaleから上唇のstomionまでの垂直距離と上唇のstomionからsofttissue mentonまでの垂直距離との比率……1:2(Caucasian)。
[2]subnasaleから下赤唇縁までの垂直距離と下赤唇縁からsoft tissue mentonまでの垂直距離との比率は……1:1(Caucasian)。
[3]口唇の診査は顔貌全体の中心の重要な構成要素として安静状態、および機能的状態について診査を行う。
安静状態において、歯列を含む口唇周囲との中での左右対称性があることで、もしなければ、
1.本在的な形態異常(唇顎口蓋裂)。
2.顔面神経異常。
3.dental-skeletal asymmetryの存在を疑う。
[4]安静時、下赤唇は上赤唇に対して1/4優位に露出している(Caucasian)。
[5]安静時、上下口唇間距離は3mmで上顎歯列は通常上唇下1~3mm露出している。(Caucasian)。下顎歯列は通常露出しない。もし露出している場含は、上下顎近遠心的差異による下唇の支持不足、下顎過成長によるもの、下唇肥大によるものなどが考えられる。
[6]機能時の左右対称性は、審美的な笑顔のために最も重要な項目であり、口唇自体の動きによるものと歯列との関係から引き起こされるものとに分けられる。
1.笑筋の活動異常によるもの。
2.口唇自体の本質的変形によるもの。
3.骨格-歯列-軟組織調和不全によるもの。
smile patternにもどの筋肉を活性化させるかによって異なったものとなる。
…笑筋のみを活性化させる個人では、口角をわずかに側上方に動かしたように軽く笑った状態になる。
…口腔周囲の多くの筋群を活性化させるものでは、鼻周囲域を含む口唇周囲軟組織の多大な変形が起こる。
…歯列の露出状態はこのsmiling patternに大きく影響される。
[7]歯槽性正中は顔貌の正中に一致すべきであり、もし一致していなければ、どちらのものが顔面の正中から、どれだけ外れているか診査する。
[8]chinの位置についてもその左右対称性があり、形態にバランスがとれていることが必要である。
下顎角もdencient、normal、excessiveに分けて分類する。
2)側貌診査(左右、安静位)の診査
(1)側貌上1/3部
(1)頭部は前傾斜しながら下降し上眼瞼凸部に移行している。
(2)眼瞼は眼球に支持されその位置を決められているが、通常、上眼瞼は眼球に対して5~10mm前方に突出している。
…Frontal bossingの場合、頭部の傾斜は反対になるが、眼球に対する上眼瞼の位置は正常。
…Supraorbital rim hypoplasiaの場合、上眼瞼は眼球に対しての突出が不十分である。
(2)側貌中1/3部
鼻部、頬部、鼻周囲領域部の診査より構成される。
【評価】
[1]glebellar angleはexcessiveまたはabsentである(Caucasian)。
[2]眼球部域の鼻背の高さは眼球にに対して前方5~8mm(Caucasian)。
[3]鼻背の型はstraight type、convex type、またはconcave typeに分類される。
[4]鼻尖はその先が上向きに尖って切れるように終わっているか、全体として丸くなっているか、下向きに終わっているものに分けられる。
[5]nasolabial angleは90~110 degrees(Caucasian)。
この角度の異常は、上唇位置によるものか、鼻小柱の形態の異常によるものか診査する必要がある。
[6]下眼瞼は通常、眼球最前方位より0~2mm前方にあり、外眼角は8~12mm後方にある(Caucasian)。
[7]頬は下眼瞼より緩やかに前方に突出し始め凸型を形成し唇交連に終わる。
[8]鼻周囲域の診査は中顔面1/3部の異常と下顎骨体部の異常を区別するために重要である。
[9]鼻尖からsubnasaleまでの平行距離とsubnasaleから鼻翼までの平行距離の比率は、2:1であり、比率が下がると同中顔面域の形態異常、鼻翼基底部支持組織の異常の可能性を示す。
[10]鼻周囲域の形態は、convex type(normal)、flat type、concave typeに分けられる。
後者は同様に中顔面域の形態異常を示す。
[11]鼻周囲域の観察を行うとき下顎骨の形態異常に注意をしないこと、その相対的位置関係による見かけ上の変形のため同域の正確な状態が把握しにくいことがある。
[12]機能性反対咬合などの場合overclosedされた状態でなくrest positionをとった状態において診査する。
(3)側貌下1/3部
上下唇、オトガイ唇溝、オトガイ隆起、オトガイ頸部などの診査などからなる。
【評価】
[1]nasolabial angleは通常90~110 degrees(Caucasian)。
[2]通常安静位において、上唇は下唇に対してわずかに前方位にある。
[3]上下唇の突出の状態は歯列(前歯部)の近遠心的位置関係、歯軸傾斜等によって左右され、突出は上下顎前突歯列などの状態によって引き起こされていることが多い。
[4]オトガイ唇溝の有無、状態は、歯列と骨格、顔面との関係に影響され、過蓋咬合を伴う上顎前突症例では、深いオトガイ唇溝を生じる。
[5]オトガイの突出の程度は中顔面、鼻尖との相互関係のうえで考える
[6]neck-chin部は鈍角を示す。135degrees(Caucasian)。
2.golden proportionによる診査(Ricketts)
紀元前5世紀のギリシャより使用されてきた生物、物理学現象に多く存在する黄金分割比(1:1.618)を利用して正側貌診査をおこなおうとするものであり、この比率はバランスが良いことで古くから芸術、建築分野で多く使用されてきた。
【評価】
(1)正貌垂直方向
バランスのよい正貌では主につぎの部分が黄金分割比(l:l.618)にあることが望ましい。
前頭部から目までの距離:目からオトガイまでの距離
鼻からオトガイまでの距離:前頭部から鼻までの距離
目から鼻までの距離:鼻からオトガイまでの距離
口唇からオトガイまでの距離:目から口唇までの距離
鼻から口唇までの距離:口唇からオトガイまでの距離
鼻から口唇までの距離:目から鼻までの距離
または以下のように要約する。
目からオトガイまでの距離≒前頭部から鼻までの距離
前頭部から目までの距離≒鼻からオトガイまでの距離
≒目から口唇までの距離
口唇からオトガイまでの距離≒目から鼻までの距離
(2)正貌水平方向
バランスの良い正貌水平方向では主につぎの部分が黄金分割比(1:1.618)にあることが望ましい。
左右の目尻の幅径:側頭部における顔面の幅径
口唇の幅径:左右の目尻の幅径
鼻の幅径:口唇の幅径
(3)側貌水平方向
顔面の深さを鼻尖部から耳珠の基底部とすれば、目尻は、前後的に黄金分割比(1:1.618)の位置にある。
3.Bowbeer Nasion Verticalによる側貌診査
鼻根部を通りFacial Frankfort Holizontalに垂直な基準線B.N.V.(Bowbeer Nasion Vertical)を指標にして側貌顔面診査を行うもの。
【評価】
上唇の1/3~1/2がこのラインより前方にあることが、バランスを保つ上で大切である(Caucasin)。