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血清鉄

【読み】
けっせいてつ
【英語】
serum iron、Fe
【辞典・辞典種類】
歯科臨床検査事典
【詳細】
【定義】血清鉄は、生体内の微量元素として血色素合成に不可欠な物質であるが、すべて血清蛋白のうちのtransferrinと結合しており、貯蔵部より血色素合成の場である骨髄赤芽球へ鉄が移動する経路の輪送量に相当する。
【意義】人体内における鉄は、2/3が血色素として赤血球中にあり、残り1/3の大部分はフェリチン、ヘモジデリンの形で貯蔵鉄として実質臓器内にある。したがって、血清鉄は体内の鉄の移動の実態を知るうえで重要な意昧をもつが、その全量は4~6mgぐらいで、生体全部の鉄量の0.1%ぐらいに相当する。血清鉄の濃度は主として、生体の造血能のいかん、次いで貯蔵鉄量のいかんによって決まる。
【検査法】現在多く用いられている測定法はICSH(International l Committee for Standardizationi in Hematology)の試案に基づき、還元剤にアスコルビン酸ないしはチオグリコール酸、呈色試薬にバソフェナンスロリンを用いる測定キットによる発色法が一般的である。採取した血液サンプルから遠沈法によって血球成分を除いたあと、血清を酸性にして鉄を遊離せしめてから除蛋白、還元を行い、一定のpH下で発色させ波長700mμで比色検定する。
【正常値】血清鉄値の正常範囲は男子60~160μg/dl,女子では50~140μg/dlである。
【評価】女子が平均してやや低い値をとるが、これは思春期以後の生理的喪失の影響と考えられている。一般に造血能が旺盛(正常)であれば、実質臓器内の鉄貯蔵量のいかんにかかわらず血清鉄値は低くなり、造血能が低下すると反対に高くなることは鉄の供給路としての場では当然の現象である。しかしこれに溶血という因子が加わると、血液の喪失があるにもかかわらず、血清中には本来の輸送鉄量のほかヘモグロビンからの遊離鉄量が加わり異常な高値を示す。このことは溶血性貧血などの疾患だけでなく、日常の検査において採血ならびに測定操作中の溶血によるヘモグロビンからの鉄遊離にも評価上注意を払う必要のあることを知っておくべきである。いわば鉄の移動を垣間見る検査であり、一見至極単純なようであるがこのほか、評価を混乱させる疾患や現象には次のようなものがある。
再生不良性貧血例では低い値を示しそうであるが、長い期間の輸血による体内鉄量の増加により血清鉄値は異常な高値をとるものもありその分布は大きい。また溶血性貧血で、溶血の減少したときは造血が極度に亢進しているため逆に低値を示し、これに腎からの鉄排泄が加わると鉄欠乏に傾き、本症における血清鉄値の高低の分布は非常に広い。真性多血症では血色素が正常より多いので、その分貯蔵鉄が減少し、また造血能は高いので血清鉄値は低い傾向にある。急性および慢性骨髄性白血病では、骨髄における白血病細胞の増殖の程度いかんによっては赤芽球系の抑制のため造血能が押さえられ、高い血清鉄値を示す。感染症とか悪性腫瘍では一般に低値を示すが、急性肝炎の初期には肝組織内の鉄が動員されて著しく高い血清鉄値を示す。また肝硬変症の一部に血清鉄値の低い症例が認められるが、これはtransferrinの低下による組織鉄の動員障害と考えられている。