抗体価検査(血液、滲出液、唾液、歯肉)
- 【読み】
- こうたいかけんさ(けつえき、しんしゅつえき、だえき、しにく)
- 【英語】
- examination of IgG antibody level in serum
- 【辞典・辞典種類】
- 歯科臨床検査事典
- 【詳細】
- 【定義】 口腔細菌に対する体液性免疫応答の程度を、全身的には血清に、そして局所的には滲出液や唾液や歯肉に含まれる相当のIgG、IgM、あるいはIgA抗体量で表わし、当該菌に対する感染の度合いあるいは固体の免疫応答機能を推測することをいう。
【意義・目的】 歯周病原性細菌に感染を受けていることの診断は、一般的には、培養検査によって行われる。本検査によって感染の有無を簡便に知ることができ、かつ、感染局所ならびに全身の免疫応答能を推測することもできるので、歯周病の診断と治療経過の判定を助ける。
【適応疾患名】 若年性歯周炎、重度進行性歯周炎および成人性歯周炎などの歯周疾患。
【検査法】 微量の抗体を鋭敏に検出できる方法に、ラジオイムノアッセイ法と免疫酵素抗体法(ELISA)がある。ここでは、後者を取りあげる。
・免疫酵素抗体法(ELISA : enzyme linked immunosorbent assay)
1)原理:酵素で標識された抗体とそれに対する抗原との間に起こる抗原抗体反応である。
2)方法:(1)あらかじめ抗原(歯周病原細菌を超音波破砕して抽出した可溶物)を、測定用マイクロプレートに固相化する。(2)被検抗体(1次抗体:血清、歯肉溝滲出液あるいは唾液)を反応させる。(3)被検抗体に対する他の動物に作らせたヒト抗体(2次抗体:検出しようとする免疫グロブリンのクラスによってヒトIgG抗体、IgM抗体あるいはIgA抗体を用いる)に酵素(たとえばアルカリフォスターゼ)を標識したものを反応させる。(4)酵素の基質(たとえばパラニトロフェノールリン酸ソーダ)を添加して酵素反応によって生じた発色の程度から、酵素活性を測定する。この酵素活性は、最初に固相化抗原と結合した被検抗体に量によって決まるので、両者の関係から抗体量を知ることができる。
【結果・評価】
1)血清抗体価:宿主要因に異常がない限り、(1)歯周病患者は、一般に歯周病原性細菌に対する抗体価が高い。(2)クラス別の抗体では、IgG抗体価が最も高い。IgM抗体は細菌感染の初期では高い値を示すが、病変が進行しても慢性の経過では低い値を示す。IgA抗体は、低い値としてしか検出されない。(3)歯周病原性細菌のなかでもBacteroides gingivalis, Bacteroides intermedius, Fusobacterium nucleatum, Wolinella recta, Actinobacillus actinomicetemcomitans, Actinomyces viocosus などに対して高い値を示す患者が多い。一方、CapnocytophagaやSpirocheteに対しては、抗体価を上げる患者は少ない。(4)一般に、歯周病病変の改善につれてIgG抗体価は低下する。しかし、歯周病の観血処置後30日ぐらいまでは、むしろ抗体価は上昇気味である。(5)宿主の免疫担当細胞に量的あるいは質的な異常があると、抗体価が上昇し難しかったり、一旦上昇した抗体価が下がらなかったりする。
2)滲出液:歯肉溝駅あるいは歯周ポケット滲出液の抗体価は、抹消血血清のものといくぶん異なる。歯周病病巣局所では、免疫担当細胞の反応性が抑えられたり、亢進されたりしているからである。プラズマ細胞が抗原特異的ならびに抗原非特異的に産生する抗体はすべて滲出液の抗体価に加算される。
3)唾液:血清や浸出液が有する抗体価の1/100から1/1000ではあるが、唾液中にもIgGやIgA抗体が分泌されている。しかし、IgA抗体は局所のプラズマ細胞が産生するものであるから、血清のIgA抗体価とは相関しないのが普通である。
4)歯肉:試験切除して、あるいは歯肉外科時に得た歯肉組織をin vitroで組織培養したときの培養上清をプールしたものについて抗体価を測定する。歯肉の抗体価は、最もよく局所の免疫反応を反映しており、同一患者間で、血清抗体価とは相関しないことが多くある。