根管滲出液検査
- 【読み】
- こんかんしんしゅつえきけんさ
- 【辞典・辞典種類】
- 歯科臨床検査事典
- 【詳細】
- 【意義・目的】根管治療の過程で随時得られることの多い根管滲出液は、根尖周囲組織に生じた病変部の滲出液が根管内に漏出したものであるところから、この滲出液の成分内容を調べて根管内や病変部の状態を把握しようとする検査法。炎症反応に伴う滲出液の作用は、刺激性物質を希釈または貪食して局所の組織を防御しようとするものである。この滲出液は、炎症を引き起こす刺激の大きさや種類、およびその作用時間により液状成分ならびに細胞成分が異なることから、逆に滲出液の成分内容により組織の炎症程度を知ることができるとされている。
【検査法】滲出液の成分内容を調べる臨床的検査法として下記の方法が知られている。
1)滲出液の肉眼的検査
根管内や前回包摂したブローチ綿線に吸着した滲出液を観察し、病変部の炎症状態を臨床的に推察する。一般に、黄色の粘凋性で多量に採取される場合には急性の炎症が進行中であり、症状の慢性化に伴い少量で透明な漿液性の滲出液へと移行する。
2)嗅診
滲出液の臭いを診査して、根管治療時に根管内の状態を調べる。滲出液の悪臭が治療の経過に伴い消失するときには、細菌やその代謝産物、あるいは細菌により修飾を受けた組織分解産物が減少傾向にあり、根管治療操作が効を奏して根管内の清潔度が増していると考えられる。
3)オキシドール発泡試験
滲出液を含んだブローチ綿線やぺ一パーポイントを3%H2O2に浸漬させて、その際に発泡する状況から滲出液成分を推測する。滲出液中に白血球(特に好中球)や赤血球などの細胞成分が存在すると、それらの細胞にそれぞれ含まれるペルオキシダーゼやカタラーゼなどの酵素がH2O2を分解して発泡現象が認められる。すなわち、発泡現象が著明なときには白血球が多量に存在しており、病巣内に急性炎症状態が示唆される。
4)細菌培養検査(culture test)
根管内が無菌的環境下にあるかを顕鏡あるいは培養液の混濁状態により判定する検査法。根管内に存在する細菌が生菌であるか死菌であるかをただちに判定することはできないので、通常は細菌の生活中力の判定は培養検査により行っている。根管内細菌を培養する培地としては、種々の細菌の培養に適するものが選ばれるが、総合アミノ酸類を主成分とした細菌培養キットが簡便であり、利用されている。治療の経過に伴って培養陰性となった時点で根管内が無菌的状態であると判定される。しかしながら、培養条件や釣菌法などに問題点も指摘されており、成績が陰性であっても根管が無菌的状態であるという保障にならないともいわれている。
5)塗抹検査(smear test)
根管滲出液中の細菌の有無ならびに白血球の消長を検査することを目的として行われる。細菌を観察する目的にはグラム染色法が、白血球を観察する目的にはギムザ染色法やライト染色法などが行われる。根管滲出液の細菌の検鏡では、細菌の存在を知ることは可能であってもその生死までは判定できないことから、塗抹検査法は滲出液細胞成分の種類やその形態変動に重点が置かれている。一般に、根管内が十分に拡大されておらず細菌やその他の病原因子が多量に存在している場合、根尖局囲の炎症性の反応が強く、滲出物の中には形の明瞭な多形核白血球が多く認められ、炎症が消退して慢性化の傾向に進むとともに、これらの白血球は少なくなり、裸核状態の細胞が観察されるようになるといわれている。しかしながら、採取方法や採取時期に問題点が指摘されており広く臨床で採用されるに至っていない。
6)免疫学的検査
病巣内の免疫応答の動態を知る重要な手がかりの1つに根管内滲出液があり、その細胞成分や液状成分を免疫学的に検索して病変部の病態を把握しようと試みられている。滲出液中には感染防御に対して重要な役割を担っている免疫グロブリン、サイトカイン、補体などが含まれており、これらの液状成分の動態は病巣内の免疫反応を反映していると考えられている。特に、免疫グロブリンについては患歯の病態と密接な関係が指摘されており、慢性化になるにつれまた病巣が大きく限局性になるにつれ免疫グロブリンが増大する傾向などが報告されている。その他の滲出液成分については清報が不足しており、今後の研究成果が期待される。