抜歯基準の診査
- 【読み】
- ばっしきじゅんのしんさ
- 【英語】
- criteria for extraction sites in orthodontic treatment
- 【辞典・辞典種類】
- 歯科臨床検査事典
- 【詳細】
- 【意義】 個々の歯の歯冠近遠心幅径の総和と歯槽基底の大きさとのずれの量をarch length discrepancyといい、required spaceとavailable spaceの差で表される。叢生や捻転、歯牙素材が大きい場合にはarch length discrepancy+であり、空隙歯列では-となる。arch length discrepancyが+に大のとき、歯牙排列のため抜歯が必要となる。
また、側貌や上下顎体のずれの改善のためにも抜歯による矯正治療は有効である。
抜歯基準の診査には、頭部X線規格側貌写真および口腔内模型が主に用いられる。
抜歯部位選定に影響を与える因子として
1) 叢生・捻転の程度(discrepancyの大きさ)
2) over jet、over biteの量
3) スピーの湾曲の程度
4) 上下顎犬歯の咬合関係。
5) 上下顎大臼歯の咬合関係。
6) 上顎切歯傾斜角の大きさ。
7) 下顎切歯傾斜角の大きさ。
8) 上下顎切歯傾斜角の大きさ。
9) 下顎下縁平面角の大きさ。
10) 必要な固定の程度。
11) 上下顎の成長発育(ANBの大きさ)
などがあげられる。
【検査法】 矯正治療に必要な抜歯を行う場合、その判断基準が明確でなければならない。
マルチブラケット法であっても各テクニックによってフォースシステムや固定の求め方が異なるため、同じフィロソフィーに基づいた抜歯基準を適用することはむずかしい。たとえば、固定の保護を十分注意しなければならぬテクニックでは、第1小臼歯抜歯が原則となり、固定の保護にそれほど神経質になる必要のないテクニックではarch length discrepancyの大きさによっては上顎右側 4、上顎左側 4、下顎右側 5、下顎左側 5 抜歯や上顎右側 5、上顎左側 5、下顎右側 5、下顎左側 5 抜歯など比較的柔軟な抜歯部位の択ができることになる。抜歯部位の選択がそのテクニックのメカニックス上の欠点を補うように行われているのは興味深いことである。
Tweedは、保定後の後戻りの少ない症例は、下顎下縁平面に対する下顎中切歯の歯髄傾斜が90±5°であることから、Tweed triangleを提唱した。そこでFMIAとのずれ(head plate correction)とarch length discrepancy(available space-required space)を加えて抜歯の可否を決定した(total discrepancy)。Tweedによる抜歯部位の選択は、あくまでも下顎切歯軸中心であり、下顎のdiscrepancyが問題となる。したがって、上顎のdiscrepancyを考慮していないので、第1小臼歯4本抜歯が基準となってゆく。
Steinerは、理想的な前歯歯軸関係とANB角に応じた許容される範囲(acceptable compromises:当該基準面に対する上下顎前歯の理想的な角度と距離)を設定した。これに基づき下顎中切歯の歯軸傾斜角を決め、ディスクレパンシー量などを加えて抜歯の可否を判定した。Steinerの方法は上顎の歯軸を考慮した点でTweedの方法よりも進んでいるが、治療目標として達成することが日本人患者ではむずかしい場合が多い。
改良型ベッグ法では、cephalogram correctionを用いてarch length discrepancyを計算し、この大きさにより抜歯部位を上下顎別々に決定する。この抜歯部位の選択法では上顎右側 4、上顎左側 4、下顎右側 4、下顎左側 4 抜歯のみでなく上顎右側 4、上顎左側 4、下顎右側 5、下顎左側 5や上顎右側 5、上顎左側 5、下顎右側 4、下顎左側 4や上顎右側 5、上顎左側 5、下顎右側 5、下顎左側 5 抜歯など治療期間の長短やorganized occlusionの型によって多種多様に選択できる。
【手順】 改良型Begg法における抜歯部位決定までの手順を例として記す。
1.上顎前突の場合(SN-Md 40℃以下の場合)
1) 下顎切歯歯軸を90°として予測線を頭部X線規格側貌写真透図上に描く。
2) 下顎の咬合平面上で下顎切歯切縁から予測の線までの距離を計測する。これが下顎のセファログラムコレクションである。
3) 上顎切歯切縁を下顎切歯の予測切縁上に求めSN平面に対して治療目標のUl to SN 97°で予測線を引く。
4) Ul to Llを計測すると135°~140°となっている。
5) 初診時の上顎切歯切縁と予測の上顎切歯切縁との間の距離を下顎咬合平面上で計測する。これが上顎のセファログラムコレクションである。下顎のセファログラムコレクションと同様に舌側傾斜させるときマイナスを、唇側傾斜させるときプラスをそれぞれ付記する。
6) 頭部X線規格側貌写真透写図上で計測された上下顎切歯切縁の移動距離に0.9を乗じて実測値に補正する。
7) 口腔内模型の正中矢状面上に切歯切縁の移動後の位置を印記す。
8) 口腔内模型に印記された位置を基準にして、ワイヤーなどを用いてavairable spaceを計測する。
9) 上下顎第2小臼歯から反対側第2小臼歯まで歯冠近遠心幅径の総和を計測する。未萌出歯はデンタルX線上で計測し、その計測値に0.9を譲治で算出する。
10) required space-available spaceでarch length discrepancyを上下顎別に算出する。
11) arch length discrepancyの大きさによる基準に従って、抜歯部位が決定される。
12) SN-Mdが40°以上の上顎前突では、Ll to Md 90°、Ul to SN 97°よりSN-Mdが40°を超えた分の値をそれぞれ減ずる。ただし減ずる値は10℃以下とする。そして治療目標を設定する。
2.下顎前突の場合
1) 下顎切歯歯軸を85~90°に設定するのが基本である。しかし、初診時にLl to Mdが80℃以下の場合80°に設定するか、初診時の値から5~6°舌側傾斜させた値とする。
2) 下顎が顎可動性であるならば、切端咬合の位置で下顎切歯歯軸の予測線を設定する。
3) 上顎切歯切縁を下顎切歯の予測切縁の前方0.5mm位に求め、SN平面に対してUl to SNが100~105°となるように上顎切歯歯軸の予測線を引く。下顎切歯の位置により不可能な場合はUl to SNで110°以上120°以内に設定する。