パントグラフ法
- 【読み】
- ぱんとぐらふほう
- 【英語】
- pantograph
- 【辞典・辞典種類】
- 歯科臨床検査事典
- 【詳細】
- 【定義】下顎運動の測定方法のうち主に口腔外部に記録板をおき下顎運動を針の動きに置き換えて記録し、記録された運動軌跡より咬合器の各種調節部分を調整し顎運動を咬合器に再現するための装置。また記録自体も下顎の運動の診査に用いることができる。
【意義・目的】かつてはパントグラフは下顎運動を咬合器に再現するための記録装置としての使用方法が主であったが、現在では下顎の動きより求めた描記線が間接の病変を表すことが判明しているので顎機能障害の診断や評価に用いられることが多くなった。下顎の運動記録には種々のものがあるが、本方法は最も下顎の顆頭には近い位置で顆頭の運動が評価できる装置である。運動の記録は6枚の描記板に二次元で記録されるが、描記板自体が垂直板と水平板に別れているために機械的には最も正確に下顎運動を記録することができる。下顎の運動は通常は各種の機能運動だけ行っているが、この機能運動の評価はまだ歴史が浅く一定の評価が得られてはいない。これに比べ、本法は下顎運動の限界路を測定するために関節が破壊されているかどうかがこの経路を評価することにより、可視的に判定することができる。切歯点の運動記録には比べ、記録部位が顆頭に近いために顆頭の上下的運動をほとんど正確に再現することができる。このために、特に関節円板の障害をもつ患者には上下的な運動変化が特徴的に捕らえられるために有効な診査方法であろう。
【診査法】歯列にクラッチを装着し、これに上下のフレームを固定する。クラッチによって上下の歯列は分離しているため、下顎は歯列の干渉の影響を受けずに運動することができる。上下のフレームにはそれぞれ描記板と描記針が取り付けられており、術者の誘導により、前方運動、左右の側方運動、必要に応じて最前方位からの後退運動を行わせて運動を記録する。このときにどのくらいの力で下顎運動が誘導するかは、術者の意図で変化できる。左右の側方運動は限界運動の一部であるために誘導するかぎりは一定であるのがふつうであるが、非誘導時の側方運動が描記ごとに一定でないことを測定する方法もある。
【評価】下顎の運動は顆頭の動きによって制限を受ける場合と歯列の方の影響を大きく受ける場合がある。この口外描記法はこの歯列の接触を断つためにある一定の開口量で前方運動と側方運動の限界運動を行わせる。このために、一定の開口量に近い状態で各種の運動を記録している。したがって、顆頭と関節円板の接触関係が実際の咀嚼運動と異なっている可能性がある。上下の歯列の接触を断つために咬合高径をあげているが、これはクラッチを歯列の接触している状態で記録できるものに変更すればよいものの、歯列の影響を受けてしまう。口内描記法に比べ装置の重量が下顎の運動に負担になるともいわれているが、これによってえられた描記線の評価がほとんど定まっているので、ほとんど問題にならない。かつてのように複雑な線を描いたとしても、その描記のもつ意味がほとんど理解されなかったころにく比べ、関節円板を中心とした顎内障の研究が進んだためにかなり運動の奇跡が解明されつつある。
装置の構造は上下の歯列にフェイスボウのような丈夫な弓をとりつけ、これには片方に描記板、対顎には描記針を有している。この組み合わせは装置により異なっている。下顎に描記板を取り付けるものをトラッキングテーブル型と称し、下顎に描記針を取り付けるものをトラッキングタイラス型と称する。トラッキングタイラス型の方が下顎の運動をそのまま描記板上に表わすので下顎運動を理解しやすい。しかし、描記板は実際の顆頭の外側に位置するために顆頭が実際は移動せずに回転だけしても、描記板の上では針が円弧を描いて動いてしまう欠点がある。これをかつては顆頭の後方運動と誤解していたこともあった。また運動の評価としてかつては、イミディエイトサイドシフトが多く論じられていたが、現在ではこればかりでなく、顆路の非直線性や非再現性など一定の数字で表わし得ないものが評価の対象となっている。これは顎関節症の特殊性が関節円板のような移動するものによって変化しやすいものであることが理解されるようになってから変化したことである。