圧痛検査
- 【読み】
- あっつうけんさ
- 【英語】
- Tenderness test
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- 圧痛検査は被験者の体の特定の部位を圧すことにより生じる痛みの程度、性状、関連痛の有無を調べる検査、診断および治療効果の観察に応用される。圧痛の検査法には種々の方法がある。もっとも単純な方法は穏やかに患部付近を圧して圧痛点の有無を調べる方法である。
利点としては、比較的に短時間(5分前後)のうちに、特殊な器具を必要としない(手指による方法の場合)、生体への危険性のない点がある。欠点としては主観的要素が入りやすく、術者による差(手指による方法の場合)、くり返し誤差が含まれること、解剖的知識と臨床経験が必要な点などである。
顎口腔系の診査では約40種類の検査部位が報告されている。これらのほとんどの部位において左右両側の同じ点を同時に調べることができる。左右の比較を行なうことによって、より容易に有効な情報を得ることが可能となる。また、クロ・ポールセンの筋診断法のように被験者の合谷部の筋を比較部位として、これらよりも痛みの強い部位を圧痛ありと判定し、さらに反応の段階によって圧痛を4段階に分けて記録する方法もある。比較部位として前額部も加えられる場合がある。患者の体に比較部位を設定することによって、さらに正確な判定が可能となる。
臨床上重要なことは、1人の患者に対し、同じ術者が同じ部位を同じ方法で検査してゆく際に検査部位の圧痛がどのように変化するかという点である。特徴的な部位としては顎関節後下方部、下顎枝後縁部をあげることができる。
各々の検査部位を、1.2~1.6kgの静的荷重で圧し反応をみる。比較対照部位として手の合谷の部分と前額部を用いる。検査部位が比較対照部位と同じかそれ以下の痛み、あるいは圧迫感である場合にはレベル0と評価し、対照部位より強い圧力と感じた場合または痛みを感じた場合にはさらに3つのカテゴリーに分類する。顔の表情に変化のない場合にはレベル1、検査時に顔に変化が認められるものをレベル2、変化が上半身にまで及ぶものをレベル3とする。このようにして得られた数字を各部位について比較、あるいは集計値として算出して個々の患者の圧痛を把握する。治療の結果として圧痛が低下することが知られている。
顎口腔系の圧痛検査は筋触診法(muscle palpation)または筋診断法とも呼ばれるが、実際には筋のみならず、顎関節、三叉神経など筋以外の組織も検査部位に含まれること、筋として知られる部位の場合にも出現した圧痛が筋組織以外のものに由来する可能性もある。また、触診は圧痛を調べることのみならず、組織の状態や反応を術者の手指で感知することが重要である。これらの意味から圧痛検査と触診は区別されるべきであり、触診を行なう場合には顎口腔系の触診と呼ぶことがすすめられる。診断は検査結果に基づいて行なう判断であるから顎口腔系の圧痛検査行為を筋診断と呼ぶことには問題がある。
圧痛をより客観的に計測する目的で痛覚計(algometer)が応用される。これは圧痛に対する感受性の度合いを計測する器械で、加圧疼痛計(pressure algometer)は圧痛閾値または発痛点を信頼できるかたちで記録するための器械である。顎口腔系ではすべての検査部位を器械で測定することは不可能な点が問題である。咬筋・側頭筋などにおいてよく調べられている(Chungら 1992)。
顎関節症患者では圧痛が認められる場合と正常範囲にとどまる場合がある。圧痛の出現しやすい部位は咬筋浅部、側頭筋、胸鎖乳突筋、顎関節後下方部、下顎枝後縁部などである。口腔内の検査部位は正常者においても圧痛レベルが高い。
窪田ら(1992)は顎関節症の自覚的・他覚的症状が治療にともなっていかなる挙動を示すかについて35名の顎関節症患者について積極的ガイドのないタイプのスタビリゼイション装置による治療にともなっていかなる変化を示すかを調査した。平均的には治療開始半年後には圧痛が術前の約40%に軽減し、軽減は初期の3か月において著明で、口腔外の筋検査部位ではとくに約1か月後までの軽減が著明でこの時点ですでに術前の約50%に軽減が認められた。口腔外の筋以外の検査部位ではとくに約3週間後までの軽減が著明で、1か月後で術前の約50%、2か月後で術前の約35%に軽減した。また、後頚筋群を含む頚部肩部の圧痛の解析では術前の10%以下に軽減したがこれは顎関節症が広範囲に影響しうることを示唆するものであろう。自覚痛を含む自覚症状と、圧痛検査を含む他覚的所見の比較では、前者が後者に先行することが確認された。
⇒クロ・ポールセンの筋診断法