アンテリア・グループ・ファンクション
- 【読み】
- あんてりあ・ぐるーぷ・ふぁんくしょん
- 【英語】
- Anterior group function
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- 下顎の偏心運動を前歯群anterior groupの誘導によって行なうこと。Dawson(1974)らにより用いられている用語で、臼歯の離開を目的として付与される。その意図するところは犬歯誘導咬合(カスピッド・ライズ)や、ミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンと同じであるが、誘導の方法が異なる。
歯は約5gの感圧能力を有するが、その域値は臼歯より前歯のようが高い(Lowenstein 1955)。河村ら(1967)は、被験者31名の歯種ごとに20gの負荷をかけて、負荷が加わっていると感じる歯を被験者が正しく指示できた率により歯種ごとの感圧能力を調べた。その結果、中切歯から第2大臼歯まで後方(遠心)にいくほど的中率が小さくなり、歯の感圧能力が低下することがわかった。さらに的中率と歯根表面積の間で相関検定を行ないその結果を分析して、河村らは、歯の感圧能力は、歯根表面積ならびに歯根膜内の感覚受容体の分布と感度の両方に依存すると結論している。河村らの知見は、犬歯誘導やミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンの咬合様式が、感圧能力の高い前歯にガイド機能をゆだねるという点で、バランスド・オクルージョンに比べ生物学的合目的性に優れていることを示唆している。
アンテリア・グループ・ファンクションでは、犬歯単独で側方運動を誘導させたり、切歯だけで前方運動を誘導させるようなことはせず、切歯と犬歯を機能的に区別せず、前歯群として一体にあつかい、その協同作用により下顎を誘導させている。そのため個々の歯に加わる負担は軽減され、前歯の咬耗を防止できるとされている。
咬合様式と筋活動の関係についてSlavicekら(1982、84)は、犬歯誘導が筋活動を低下させるのに対し、グループ・ファンクションは筋活動を高めると述べ、犬歯誘導を重視している。各歯種の誘導路長は中切歯、側切歯、犬歯、第小臼歯、第2小臼歯、第1大臼歯および第2大臼歯の順に、それぞれ平均4.0mm、3.6mm、4.5mm、2.5mm、2.6mm、2.7mmおよび2.6mmで、犬歯の誘導路長がすべての歯種のうちでもっとも長い。
切端咬合や下顎の遠心咬合のように前歯の被蓋関係に異常をきたしている症例では、アンテリア・グループ・ファンクションを付与できないことがある。前歯群に代わって側方運動時に下顎を誘導するもっとも有利な歯種は第1小臼歯とされているが、前方運動時に下顎を誘導する歯については、いまだ明快な見解が得られていない。
ちなみにGPT-6では本用語の代わりにアンテリア・プロテクテッド・アーティキュレイションが用いられ、“前歯の垂直および水平被蓋がすべての偏心運動中に臼歯を離開させることを特徴とするミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンの一形式”、と定義されている。