エフ・ジー・ピー・テクニック
- 【読み】
- えふ・じー・ぴー・てくにっく
- 【英語】
- Functionally generated path technique
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- 偏心運動中の歯の滑走路をワックスで記録し、これから得られた対合歯の3次元的な運動経路の模型を利用して、補綴物の咬合面を形成する方法。F.G.P.はFunctionally generated pathの略で、1959年、Meyerにより開発された。主として歯冠補綴に用いられるが、局部義歯の製作にも応用されその改良法も多い。1960年にはPankey、Mann、Schuylerらによりオーラル・リハビリテイションに利用する方法が完成された。この術式は最初P.M.S.テクニックと呼ばれ、さらに医療管理学、医療論などを含めたうえでP.M.フィロソフィーとも呼ばれるようになった。F.G.P.テクニックを用いればパントグラフのような精密な口外描記装置や複雑な咬合器を使用しなくても、患者の実際の咀嚼運動に近い条件で上下顎の関係を記録再現できるから、咬頭干渉のない補綴物を簡単に製作できるとされている。F.G.P.テクニックの問題点を列挙する。
1)このテクニックの特徴は、患者自身を理想的な咬合器とみなすことにある。これは一見、下顎の機能的な運動に協調する咬合をつくるのに適した、合理的な方法にみえるが、患者の咬合が正常で、上下顎歯の接触滑走が生理的に行なわれている場合にだけ、患者は理想的な咬合器になるのであって、それ以外の場合には、患者のもつ不正な咬合をそのまま補綴物に移し変えることになる危険がある。
2)F.G.P.テクニックでは、咬頭嵌合位からはじまる滑走運動の経路を機能路とし、咬頭嵌合位がすべての出発点になっている。咬頭嵌合位は多くの症例において比較的安定しているが、これが不安定な場合には、この方法はエラーを招きやすい。
3)このテクニックでは上下顎歯の接触滑走状態に主眼がおかれ、顆路誘導は無視されている。下顎運動にとって顆路は重要な要素であり、歯の滑走運動のみによって、正しい下顎運動は再現できない。
4)このテクニックでつくられた咬合面は、両側性の咬頭接触をもつバランスド・オクルージョンとなる。その結果、上下顎歯の滑走路上に絶えず咬頭接触が現われ、有歯顎の補綴法として問題がある。
5)ミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンをもつ患者にこのテクニックを用いると、上下顎歯の接触滑走運動中に臼歯部歯列が離開するため、ワックスの記録が咬合平面からとび出した形になり、これに合わせてつくられた咬頭は異常に高くなる。
6)ワックスによってつくられた対合歯の機能模型は、偏心位の動的な記録で解剖的な形態とは異なっている。それに合わせてつくられた咬合面は咬頭嵌合位で干渉を起こすおそれがある。これを防止するために、機能的模型の他に、解剖的模型が必要となる。これら2種類の模型は、バーティキュレーターやハノー、ツインステージなどの咬合器に取りつけて用いられる。その操作が繁雑になることは免れない。記録に使用するワックスの寸法精度と形成抵抗も問題となる。果たしてワックスによる機能印象が正確かどうか、またワックスで正しい機能模型が製作できるか疑問が残る。
7)このテクニックでは、上下顎を同時にワクシングすることはできない。ドロップオン・テクニックの合理性と機能性が認められ、従来のワクシング法にとって代わる傾向がみられるが、F.G.P.テクニックにこれを応用することはできない。
【臨床術式】
F.G.P.テクニックは、多数歯の補綴には不向きであるが、少数歯の歯冠補綴には有効であることが認められている。その操作は次の順序によって行なう。
1)通法に従って支台歯形成を行ない、印象を採得する。つづいてF.G.P.用テーブルを製作する。通常、即時重合レジンやカッパー・バンドを用いるが、金属で鋳造するのがもっとも精度が高い。F.G.P.用テーブルは対合歯列の運動路を印象するための土台になる。対合歯との間に1mm程度の空隙が必要である。頬舌径は咬合面よりやや広めがよい。テーブルは支台歯上にしっかりと適合するようにつくる。
2)ハイ・ファイ・ワックス(ジェレンコ社)を40~50度Cの温湯中に浸して軟化させ、F.G.P.用テーブルの上に盛りあげる。機能運動路を印記するときワックスがF.G.P.用テーブルから脱落しないように、ワックスの周囲をスティッキーワックスで固定する。ワックスが硬化しないうちに機能運動を記録する。まず咬頭嵌合位で嵌合させ、次に頬側に向かって接触滑走を行なわせ、再び咬頭嵌合位へもどす。ついで舌側に向かって、接触滑走を行なわせ、咬頭嵌合位へもどす。この操作を交互にくり返したあと、前方運動と後方運動を行なわせ、中間の運動もまんべんなく行なわせる。
3)機能運動路が印記されたら、ワックス上に即硬性の超硬石膏を注入して、ファンクショナル・コアを製作する。普通コアは直接口腔内で採得する。あるいは印記されたF.G.P.用テーブルを模型上に適合させ、そこで製作してもよい。直接法は口腔内で操作されるためやや不正確になりやすい欠点がある。
4)アルギン酸印象材を用い、対合歯の石膏模型を製作する。このテクニックではファンクショナル・コアと対合歯列の2組の模型を使用するため、2個の模型を装着できるような咬合器が必要である。バーティキュレーター咬合器やツインステージ咬合器は対合歯列のフレームが2つ用意され、2個の模型が使用できるようになっている。このテクニックでは、患者の下顎の動的な動きが静的な記録として再現されているため、関節をもった咬合器は必要でなく、上下的に動くもの、すなわち顎間距離が保持できる咬合器で十分にその目的が達せられる(山下 1969)。
5)作業模型上にワックスで歯冠補綴物の概形を形成する。次に咬合面部のワックスを軟化し、ファンクショナル・コアを嵌合させる。このときワックスパターンの咬合面にステアリン酸亜鉛を散布して嵌合させるとよい。この操作を反復しワックスパターンの咬合面上に、機能的咬合面形態を形成する。以上の操作が終わったら、主裂溝や副裂溝を形成し、解剖的な対合歯列の模型を使って咬頭嵌合位を確認する。
6)通法により埋没、鋳造、研磨を行ない歯冠補綴物を完成する。