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エス発音位

【読み】
えすはつおんい
【英語】
S-speaking position、S position
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
[s]音を発声するときの下顎位。[s]は歯音で上下顎の前歯の間で調音される。このときの上下顎の位置関係に一定の基準がみられるため、垂直顎間距離を判定する補助的な手段として用いられる。子音のなかで、とくに摩擦音である[s]や[∫]、唇歯音である[f]や[v]などの発音時の下顎位は安定性があるとされ、これらの音を利用して咬合採得をする方法が従来から数多く紹介され、その代表的なものにSilverman(1956)やPound(1966)の方法がある。
Silvermanは[s]発音時に上下顎がもっとも近づくことから、このとき示される上下顎の隙間をクローゼスト・スピーキング・スペースclosest speaking spaceと呼んでいる。このスペースは平均1~1.5mmで、これを術前に記録して咬合高径の決定に利用している。また、Poundは[s]音を発声するときに下顎前歯の切縁はもっとも上方で、もっとも前方に位置し、このとき下顎前歯の切縁は、上顎前歯のわずかに舌側で下方におかれ、そこに1mmの垂直的および水平的な空隙が現われることをみつけた。そして、この発音位を利用して総義歯の下顎前歯の位置を決める方法を開発している。
Poundは、また発音的評価だけで前歯部を排列すると、審美的あるいは解剖的に不調和を生じ、舌の悪習癖をもつものでは、[s]発音位の判定が困難であるとして、この発音位を利用して、患者本来の前歯部の被蓋関係を判定する方法を紹介している。[s]発音位から咬頭嵌合位までの下顎の後退に要する移動量によって生ずるさまざまな前歯部の咬合型にAngleの不正咬合の分類を適応し、これらをClassI、ClassII、ClassIIIの3つに分けている。そして、このときに現われる被蓋関係が患者本来の咬合型であるとした。ClassIは標準的な咬合型、ClassIIは標準より下顎が遠心よりに咬合するもの、ClassIIIは標準より下顎が近心よりに咬合するものである。前歯の被蓋関係が不正なものや[s]の発音が異常な場合には、必ずしも標準的な[s]発音位をとらないから、それを補正するためにスピーキング・ワックスを[s]発音位に合わせたところで解剖的評価を行ない、下唇の支持や歯の露出度を修正する必要があると説明している。