嚥下
- 【読み】
- えんげ
- 【英語】
- Degultition swallowing
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- 飲みこむ(swallowing)行為をすることとGPT-6には記載されている。
消化の一過程。口腔内の流動物やよく咀嚼された食物が咽頭、食道を経て、胃まで送られる一連の生理的消化運動をいう。嚥下には、このように咀嚼に継続して行なわれるものの他、空嚥下がある。
空嚥下は、口腔粘膜と咽頭粘膜を唾液によって浸潤し、鼻咽頭を吸引清掃し、また、中耳を換気する役目をする。嚥下はきわめて複雑な過程を経て急速に達成され、その過程は随意運動と不随意運動とからなっている。嚥下は通常、次の3つの相に分けられている。
【第1相】
これは食物が口腔から咽頭まで送られる相で、随意的に行なわれるため随意相または口腔相とも呼ばれる。この運動は舌と顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋によって行なわれる。嚥下の第1相がはじまると、口腔底、舌骨、喉頭などが顎舌骨筋とオトガイ舌骨筋の作用によって挙上され下顎は固定され上下の歯は接触する。そして舌尖は上顎前歯の舌面に接触し、ついで舌体と舌根の背部が口蓋につき、食塊が咽頭に送りこまれる。第1相は口が閉じられた状態で行なわれ、口腔底は挙上され、また舌も上後方へ押しあげられる。そのため、この相では下顎の安静時にみられるドンダーの空隙は消失する。そして、第1相の経過中に口腔内圧は20cmH2Oに達するといわれている。
【第2相】
これは食物が咽頭内を下行して食道まで送られる相で咽頭相とも呼ばれる。食物がひとたび口峡を通過すると、もはや随意的調節はできなくなる。したがって、第2相の運動は反射的に行なわれることになる。この作用を司どる主な器官は、舌咽神経と迷走神経とによって支配される口蓋、口峡、咽頭に存在する諸筋である。食物が口蓋、舌根、咽頭を刺激すると、これらの筋が活動をはじめて、咽頭と食道の間に嚥下圧が発生する。そして、食物は不随意的・反射的に嚥下されて食道まで運ばれることになる。
第2相は機構的には次の4つの運動の総和であると考えられている。それらは、(1)咽頭と口腔とを遮断する運動、(2)咽頭と鼻腔とを遮断する運動、(3)咽頭と喉頭とを遮断する運動、(4)食塊を輸送する運動。まず、食物は舌によって咽頭部に押しやられるが、これと同時に軟口蓋は上方に押しあげられ、鼻咽腔を閉鎖する。つづいて、食物が喉頭に近づくと、舌骨と咽頭は上前方に動き、これによって喉頭蓋が下方に翻転して、咽頭と喉頭とを遮断する。食物がこの部を通過すると、舌骨と喉頭は下方へもどり、これと同時に喉頭の閉鎖がとかれる。つづいて、鼻咽腔の咽頭と交通するようになる。第2相でも歯の接触が起こる。このとき中心位で咬合接触がみられるとされているが、これは咀嚼中よりも下顎がさらに後方に牽引される(顎を引く)ためである。嚥下の第1相と第2相にみられる咬合接触は、下顎を固定するために行なわれるものである。有歯顎者では咬合接触によって咀嚼筋が収縮し、その結果、下顎が固定される。一方、無歯顎者ではこの代償のために顔面筋を収縮させて、下顎を固定している。
【第3相】
これは食物が食道を下行し、胃の噴門にまでいく過程で食道相とも呼ばれる。この作用を司どる主な器官は、食道壁の筋である。この筋は食道に蠕動波を起こし、食物を胃の噴門まで送る。
嚥下に際し飲みこまれた空気は食塊を下降させるのに役立つ。また、嚥下圧も食物の移動を助けている。第3相は第2相同様、不随意的な嚥下反射によって行なわれる。
24時間内に発生する嚥下回数は590~650回あるいは1500~2000回と研究者によってまちまちな数値が報告されている。また、嚥下時の咬合接触時間は1日20~30分に及ぶ。これは咀嚼時の咬合接触時間の5~6倍に相当する。
いずれにせよ、嚥下はきわめて頻繁にくり返される運動で、しかもほとんどのヒトが第1相と第2相の行なわれる過程で、上下顎の歯を接触させているため、そのときの下顎位が問題にされている。嚥下行為中の歯の接触によって発生する圧力は非常にわずかなものであるが、その回数が著しく多いため、そのときの咬合状態のいかんでは、顎口腔系に好ましくない影響が及ぼされることになる。