猿人の咬合
- 【読み】
- えんじんのこうごう
- 【英語】
- Occlusion of the Australopithecus group
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- 猿人はアフリカ南部、または東南部で発見された化石標本から明らかになった、人類の直系の祖先の総称。頭骨、ことに顔面にはいまだ類人猿的特徴が著しいにもかかわらず、骨盤の形状には直立した証拠がはっきりと認められる。脳頭骨容積は最低450ccから最高700ccで、平均600ccとされ、ゴリラよりはやや人類に近く、前人類としてヒト科に分類されている。
1925年、Dartによりaustralopithecusの化石が南アフリカのタウングスで発見された。つづいて1936年にBroomによってPlesianthropus、Transvalensisの化石が同じく南アフリカで発見された。以来、今日までに35個以上の骨格と200本以上の歯が発見され、類人猿と人類を結ぶ“ミッシング・リンク”として貴重な資料となった。彼らの化石は洪積世の地層から発掘され、生息していた年代は100万年前とも、また200万年前ともいわれるが定説はない。
猿人の歯列には、“極端な咬耗と切端咬合”がみられ、これは自然の恩恵が得られない厳しい環境のなかで、数万年もの長い間にわたって、硬い食物を咀嚼しつづけてきた結果、獲得されたものと思われる。猿人の歯列弓は放物線状で、犬歯はヒト的で小さく類人猿のように咬合平面から高位に突出することはない。そのためディアステーマは存在しない。臼歯は大きく現代人の約1.5倍程度の大きさをもち、犬歯と切歯は逆にヒトよりも小さいという特異な形態を備えている。上顎大臼歯は4咬頭性で第2大臼歯と第3大臼歯がとくに大きい。また下顎大臼歯はドリオピテクス・パターンという特徴ある咬合面形態を備えている。
彼らは礫石器文化という人類最古の石器をもっていた。これは河原石を打ち割ってつくった3~10cm程度の小石器である。この他、動物の骨や角も道具として使い、ブタ、カメ、鳥、魚などを取り、食料としていた。しかし彼らの幼稚な知能と原始的な武器ではたいした狩猟活動ができなかったことは容易に想像でき、そのため口に入るものは何でも食料としていたようである。こうして自分たちの住む平原にある粗くて磨耗しやすい食物を無理に咀嚼したため、歯列が広範囲に咬耗することになったと思われる。猿人にみられる“極端な咬耗と切端咬合”は、それ以後のすべてのヒト科や原始的な人類で普通にみられる現象となった。
⇒咬合の進化