往路と帰路における矢状顆路の相違
- 【読み】
- おうろときろにおけるしじょうかろのそうい
- 【英語】
- Difference between eccentric and returning condylar paths
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- 上下顎歯を咬頭嵌合位から接触滑走させながら下顎を運動させた際に、往路と帰路で顆路が相違する現象。この相違は個体ごとに定常性を有し、必ず帰路が往路の上を通る。稀に両者が重なることはあっても上下関係が逆になることはない。
出力された顆路のグラフィック・データ出力につき図上測定を行ない、往路と帰路の顆路を最大嵌合位を中心として2mmの半径で描いた円弧との2交点を結んだ線分の長さで、その幅を測定したところ、往復顆路の幅は前方顆路において平均約0.44mm、非作業側の側方顆路において平均0.79mmであることがわかった。両交点と咬頭嵌合位を結ぶ直線が水平基準面となす傾斜度(矢状顆路傾斜度)を測定したところ、往路と帰路の差は、前方顆路において平均約12度、非作業側の側方顆路において平均約23度になることがわかった(Hobo、Takayama 1995)。パントグラフやチェックバイトによって計測されるのは往路であり、矢状顆路傾斜度についてはそれから12度を差し引いた値が前方運動における、また23度を差し引いた値が側方運動における帰路の近似値となる。
このように往路よりも帰路が緩やかになるのは、咀嚼筋群のうち往路には開口筋群が、帰路には閉口筋群が作用し、後者のほうが前者よりも強いためと考えられる。偏心運動中には顎関節の内部の軟組織が弛緩し、反対に求心運動中には緊張し関節円板の最薄部が緊密化した状態で介在するということが考えられる。そうなると偏心運動中に顆頭は下顎窩のなかで筋が弛緩した状態で懸垂し、求心運動中には筋が収縮した状態で関節円板をはさんで関節結節に密接する。このように考えれば、偏心運動と求心運動の間に1mm弱の上下的位置の差を生じても不思議ではない。往路と帰路の相違も広い意味ではぶれの一種であるため顆路の往路と帰路が相違するという新知見により“顆路は固定不変ではない”ということが動かしがたい事実となった。