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オクルーザル・リコンストラクション

【読み】
おくるーざる・りこんすとらくしょん
【英語】
Occlusal reconstruction
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
オーラル・リハビリテイションの補綴的臨床術式の総称。補綴的咬合再構築の意。マイナー・リコンストラクションとフルマウス・リコンストラクションがある。オーラル・リハビリテイションはヒトの咀嚼器官の形態と機能と審美を改善することを主目的とした歯科医療の一分野である。咬合の治療基準を歯と歯の関係だけに求めるのではなく、視野を頭蓋と下顎の関係にまで広げ、1口腔1単位の治療を行なって顎口腔機能の修復を図ることを目的にしている。オーラル・リハビリテイションは、顎関節と歯列との調和を目的とする治療法なので、たとえ1歯2歯の小規模な補綴修復であっても、目的が明確である限りその処置をオーラル・リハビリテイションと呼ぶことができる。そういった意味でオーラル・リハビリテイションは補綴される歯の本数で定義されるものではない。咬合調整もその範疇に含まれるが、咬合調整に関しては過剰な歯質は除去できても不足した歯質を修復することはできないので、オーラル・リハビリテイションとしては限界があることにも留意しなければならない。
【マイナー・リコンストラクション】
マイナー・リコンストラクションは、少数歯を歯冠補綴することにより咬合状態を是正しようとする方法で、普通、咬合調整と組み合わせて用いられる。この療法は、咬頭干渉を除くために多量の歯質の削除が必要となり削除面をそのまま放置してはおけない場合、前歯のガイドが不足している箇所を補綴的に修復して理想的な臼歯離開を付与する場合などに用いられる。補綴歯数が少ないため、顆路の計測にパントグラフを用いることはなく、通常はチェックバイト法を用い、咬合器も半調節性の器種を使うことが多い。しかし治療の性質上、中心位だけは明確にしておかなければならないから、後方基準点の計測には実測法を用いるべきである。偏心位の咬合は、最終的に口腔内で修正する。
【フルマウス・リコンストラクション】
フルマウス・リコンストラクションは、全口腔に歯冠補綴物を装着して咬合を再構成する方法である。理想に近い咬合が再現できる利点がある。フルマウス・リコンストラクションをオーラル・リハビリテイションの究極の目的としている学派にナソロジーがあり、顆路の計測にパントグラフを用い、全調節性咬合器を駆使して精密な咬合面形態を付与することを真髄としている。
ナソロジーによるフルマウス・リコンストラクションは、次のような特徴をもっている。1)ターミナル・ヒンジアキシスを実測しこれをフェイスボウ・トランスファの際の後方基準点として用いる。2)ルシア・ジグを用い神経筋機構をブロックした状態でセントリック・バイトを採得し、中心位を再現する。3)パントグラフを使って顆路を測定する。4)咬合器は全調節性咬合器を用い、それ以外の器種は用いない。5)全口腔を同時に修復し、フルマウス・リコンストラクションを治療の終着点と考える。6)修復後の咬合はカスプ・フォッサ、ミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンとする。7)金合金で鋳造したプレパラトリー・レストレイションを長期間仮着し治療効果を確認する。8)セメント合着に先がけ最終補綴物は必ずリマウントし、咬合を修正する。ナソロジーのフルマウス・リコンストラクションは、機械的な精度の高い方法であるが、反面、非常に手がかかり、治療に要する時間も長い。また治療範囲が広範囲に及ぶため、治療費が高額になるといった欠点がある。
その他の方法にP.M.S.テクニックがある。これはMonson球面説、MeyerのF.G.P.テクニック、Schuylerの切歯指導の概念をその基本としている。P.M.S.テクニックは、概念から臨床術式までかね備えたシステムで、複雑な器具を必要としない。しかし今日ではその科学性が疑われているMonsonの球面説にその基盤をおいていること、またF.G.P.テクニックのように広範囲な補綴物の製作に適さない方法で、下顎運動を再現するといった点などに問題があり、ナソロジーの手法を越えることはなかった。
【最近の術式の変遷】
ナソロジーの手法は50年以上にわたり用いられてきたが、最近になって中心位における顆頭位、ならびに偏心位における咬合の考え方がともに大きな変貌を遂げたため、矛盾を生じてきた。
1)中心位の変遷
中心位の定義がRUMポジションから前上方位へ変遷することにより、最後退位と咬頭嵌合位の間にわずかな幅をもたせることになりポイント・セントリックの幅が広がった。これは期せずしてロング・セントリックの幅が徐々に小さくなりポイント・セントリックに近づいたのと符合している。前上方位における咬合採得時の下顎の誘導法として、わずかな開口状態で挙上筋(閉口筋)の作用により顆頭を下顎窩の前上方の位置に保持するリーフ・ゲージ法が注目されている。この他、筋の自然な機能にまかせ術者による誘導なしに下顎を閉口するアンガイド法(筋肉位)にもまだ根強い支持があるが、この下顎位は前上方位と非常に近い位置にあることが確認されている。
中心位の定義が、RUMポジションから前上方位に修正されたのにともなって、ターミナル・ヒンジアキシスはトランスバース・ホリゾンタルアキシスに変更された。しかしトランスバース・ホリゾンタルアキシスを求める術式はまだ確立されていない。後方基準点を実測するときは、顆頭を下顎窩の最後退位に押しこんで接面回転を生じさせる必要がある。そのためオトガイ誘導法を用いることになり、これによって求められる水平基準軸はターミナル・ヒンジアキシスであり、トランスバース・ホリゾンタルアキシスではない。一方セントリック・バイトの採得は、リーフ・ゲージ法などを用いた前上方位で行なわれ、このときの水平基準軸はトランスバース・ホリゾンタルアキシスとなる。その結果ターミナル・ヒンジアキシスでマウントした上顎模型に対してトランスバース・ホリゾンタルアキシスを用いて採得したセントリック・バイトで下顎模型をマウントするかたちになり、2つの水平基準軸を混用する結果となる。両者の差が誤差となって咬合位のずれを生じることが考えられるが、2つの水平基準軸を生じる顆頭の位置の差は平均0.25~0.30mmであり(保母、岩田 1984、Hobo、Iwata 1985)、この大きさの計測誤差による影響は咬頭嵌合位で最大24μm、偏心運動時における咬頭路では最大6μm前後にすぎない。したがって、センリトック・バイトを採得するときに2つの水平基準軸を混用することによる咬合位のずれは無視できる。
2)偏心位の変遷
下顎の偏心運動時に発生する水平圧は、天然臼歯に非生理的な応力(ストレス)を加えるため有害視されている。合理的な水平圧の分散を目指すという観点から臼歯離開の概念は歯科界に定着し、ミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンの咬合様式として具現化された。しかし臨床における前歯誘導の決め方と臼歯離開の付与方法については、従来パントグラフと全調節性咬合器を用いることにより達成できるとされてきたが、その実効性ある実現は非常に困難であった。
最近の電子的計測と運動学的解析の結果によると、臼歯離開の要因は顆路、切歯路、咬頭傾斜の3つからなっているが、そのうち従来生体に固有で不変とされてきた顆路には往路と帰路の相違などによるぶれがあり、臼歯離開への影響力も切歯路および咬頭傾斜に比べ約3分の1と比較的わずかなものであることが明らかになった(保母、高山 1995)。したがって従来咬合の基準として顆路を重視し、パントグラフと全調節性咬合器を用いて理想的な臼歯離開咬合を実現しようという努力に実効が得られなかったのも、うべなるかなといえる。また第2の要因である切歯路も個体間のバラツキが大きく咬合の基準とはなりえないことがわかった。
第3の要因である咬頭傾斜については従来ほとんど検討がなされていなかった。しかし咬頭形態の計測データ(関川ら 1983、Kanazawaら 1984)によると、咬頭形態にはほとんどバラツキがなく、ぶれのある顆路やバラツキのある切歯路に比べ約4倍の信頼度があることがわかった。以上を勘案し、新しい咬合の基準とすべきなのは顆路や切歯路ではなく、咬頭傾斜角であると結論され、咬頭傾斜角の基準値を用いることにより、臼歯離開咬合を付与する新補綴臨床術式ツインステージ法が開発された(保母、高山 1995)。これは顆路を測らずにオクルーザル・リコンストラクションを行なう方法であり、従来の方法とは一線を画している。
【ツインステージ法】
ツインステージ法の臨床術式は、顆路を測定せずに咬頭傾斜角の基準値をもとに咬合器を下顎運動の再現装置としてではなくシミュレータ(模擬装置)として用いるもので、第1ステップでは咬合器を“条件1”に調節して臼歯部の咬頭形態をワクシングすることにより基準値の咬頭傾斜角を付与し、第2ステップでは“条件2”に調節して前歯誘導を付与することにより標準的な臼歯離開量を発現させる2段階方式をとっている。
1)臼歯咬頭傾斜の付与
咬合器の調節値を“条件1”に基づき矢状顆路傾斜度を25度に、水平側方顆路角(ベネット角)は15度に調節する。金属製樋状切歯指導板の矢状傾斜度を25度に、側翼角を10度に調節する。あらかじめ作業模型の前歯部を可撤構造につくっておき、これを撤去して前歯誘導“なし”の状態とする。偏心運動中に上下顎の臼歯が均一に接触滑走するように、臼歯部をワクシングすることにより、バランスド・オクルージョンの咬合様式が模擬され、理想的な咬頭傾斜角を備えた咬合面が得られる。
2)前歯誘導の付与
咬合器の調節値を“条件2”に基づき矢状顆路傾斜度を40度に、ベネット角はそのまま15度を用いる。金属製樋状切歯指導板の矢状傾斜度を45度に、側翼角を20度に調節する。作業模型に前歯部を装着して、前歯誘導“あり”の状態とする。前方運動では上下顎切歯が、側方運動では作業側の上下顎犬歯が接触滑走するように上顎前歯の口蓋面をワクシングすることにより、理想的な前歯誘導と標準的な量の臼歯離開が得られる。ちなみに、ツインステージ法における臼歯離開量の標準値は、前方運動で1.0mm、側方運動の非作業側で1.0mm、作業側で0.5mmである。
McCollumの時代には精密な下顎運動の計測器として使用可能なものとしては機械式パントグラフしか存在しなかったので、下顎運動と咬合の関連を科学的に把握するまでに至らず、実効性のある臨床術式に結びつけられなかったのは当時としてはやむをえなかったといえる。今日ではコンピュータ・エレクトロニクスの発達により6自由度計測可能な下顎運動電子計測装置が開発され、かつ物理学に基づく下顎運動の理論式(数学モデル)も導出され、偏心運動時の下顎の運動態様を解明するために必要なハード・ソフト両面のツールが整備されたため、研究のレベルが飛躍的に向上した。その結果、顆路を測定することなしに咬頭傾斜角で代表される天然歯の咬頭形態を咬合の基準としたツインステージ法が確立された。この臨床術式の実効性は臨床評価テストでも確認されており、これにより日常臨床の場でオクルーザル・リコンストラクションが容易に実行できるようになった。
⇒ツインステージ法