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下顎関節

【読み】
かがくかんせつ
【英語】
Temporomandibular joint
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
⇒顎関節 
下顎骨と側頭骨下顎窩の間の関節。顎関節は、人体の数多くの関節のうち、歯科医の専門領域に属する唯一の関節である。
左右の顎関節は下顎運動を後方において機械的に制限を加える要素であるために、顎運動の解剖的決定要素のひとつとされる。
かつては一般歯科医にとって不可変の要素とされた顎関節も現在では、歯科医にとって不可変の因子ではなく、適切な診断に基づいた治療によってある程度のコントロール(症状の消退と安定状態への移行)も可能であることが明らかになっている。また、顎関節に対する前処置を行なわずに盲目的に咬合修復のみを行なったとしても、多くの場合に同じレベルの安定は得られないという考え方が徐々にではあるが認識されつつある。その形態や機能が他の身体各部の関節と比較してきわだった特徴をもっている。
1)身体運動のうちでもかなり複雑な下顎運動に対応するようにつくられている。
2)機能時には左右の関節が協同して働かねばならない。
3)関節の表面が身体他部の関節のように硝子様軟骨で覆われずに、線維軟骨によって覆われている。
4)その存在が中枢神経の直下である。
5)食物粉砕時などに常に強力な圧力を受ける。
6)関節内に円板が存在している。
7)顎関節を構成する下顎骨の一端に歯を植立しているので下顎頭の運動は、上下顎の歯の形態や咬合状態などによって制約を受ける。
顎関節は次のように発生する。まず胎生6週間ごろから発生しはじめる下顎骨と、胎生10週間ごろ発生しはじめる関節突起が胎生12週間ごろに結合して、だんだん下顎骨の形態をもつようになる。顎関節のもう1つの構成要素である側頭骨は、胎生10週間ごろに発生し下顎窩は発育につれて、次第にその形態を備えていく。顎関節が完成された形態をもつようになるのは10~13歳ごろであるといわれる。そして、その成長は20~25歳で終わる。
顎関節は下顎骨の下顎頭と側頭骨の下顎窩よりなり立っておりその間に関節円板があって、周囲を靭帯と関節包が取りまいている。下顎窩は関節結節と関節後突起により前後が境され、S字状の彎曲を示している。乳幼児の下顎窩は浅く、成人では深い、そして、老人では扁平となっている。とくに無歯顎になると、関節結節と下顎頭の双方が平坦になる傾向がある。
関節円板は関節腔を上関節腔と下関節腔に分けている。上関節腔は円板‐顆頭複合体の滑走に関係し、下関節腔は顆頭の回転に関係する。関節円板は緻密な結合組織でできており、優れた耐圧性をもっているので、顎関節に加わる強力な圧力から骨組織を保護する役目を果たしている。また、円板は関節面の形態的不調和を補ない、下顎運動に生理的適応の幅を与えて、関節内における顆頭の動きを円滑にしている。関節円板の前端部は外側翼突筋上腹の線維と腱についている。また、その側面と後面には関節包が付着している。とくに関節円板の後部は厚くなっていて粗な結合組織が付着し、外側翼突筋によって関節円板が前方に引っ張られやすいようになっている顎関節の機能解剖についてはRees(1954)が詳しくのべている。顎関節の靭帯には、外側靭帯、蝶下顎靭帯、茎突下顎靭帯の3つがある。とくに下顎運動と関係の深いのは外側靭帯である。外側靭帯は側頭骨の頬骨突起を関節結節から起こり、下方は顆頭の頚部についている。外側靭帯は下顎運動の後方限界を決定するもので、この靭帯が緊張した状態にあるときに、はじめてターミナル・ヒンジ・ムーブメントが可能になるといわれている。この靭帯は下顎が過度の運動を行なったときにこれを制限し顎関節の周囲組織を保護する役割りを果たしている。関節包は、顎関節を包む線維性結合組織の袋で、下顎窩の周囲から起こり、関節突起の顆頭の下方につき、顆頭を下顎窩内に固定する役割りを果たしている。
下顎運動は下顎頭が下顎窩内で回転と滑走を営むことによって行なわれ、結果として下顎は開閉、前後、側方の各運動を営む。顎関節はオーラル・リハビリテイションの治療基準として重視されている。それは、顎関節が咬合を誘導する決定要素となるからである。下顎運動を制御する他の決定要素に、上下顎の歯列があるが、どちらが咬合の決定要素として優先するかは、昨今、論争の焦点となっている。また、これら相互の保護作用についても不明な部分が多く残されている。McCollumら(1955)は、顎関節は非常に変化しにくい組織であるという考えから、これに調和するように咬合を修正する必要を説いている。Ramfjord(1966)は、成年の赤毛ザルに不正な咬合を与え、顎関節の変化を調べた結果、顎関節は歯列よりも変化しにくいことを突きとめた。しかし、上條(1966)は、顎関節は経年的に変化し、咬合の変化と密接な関係があるとしている。現在では顎関節は緩やかな変化に対する順応性は高いとされている。
⇒頭蓋下顎関節