下顎三角
- 【読み】
- かがくさんかく
- 【英語】
- Mandibular triangle
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- ⇒ボンウィル三角
左右の顆頭の上面中央の点と切歯点とを結ぶ三角。下顎三角ともいう。1859年、Bonwillにより提唱された。GPT-6では、下顎中切歯切縁の接触点または下顎の残存顎堤の正中と両顆頭(通常その中心)を結ぶ2辺と顆頭間軸によって囲まれた一辺4inch(約10cm)の正三角形、と定義されている。下顎骨の大きさを表現する基準として、また下顎運動の解析のための計測点を結ぶ三角として重要であり、その後に開発された解剖的咬合器の設計に影響を与えた。Bonwillは、4000例の解剖標本と6000例の生体の観察をもとにして、この三角が一辺4inchの正三角形になることを報告しているが、反論も多い。1914年、Wilsonは292例の下顎骨を測定したところ、Bonwillの示した数値と一致したのはわずか6%(19例)だけであったと述べている。また1915年、Choquestは下顎には非対称性の個人差があると主張し、ボンウィル三角は仮説にすぎないと述べている。保母(1982)は50名の被験者のべネット運動の実験的解析を行ない、平均運動軌跡では、トランスバース・ホリゾンタルアキシス上の正中から左および右へ55mmの位置に側方運動における運動学的顆頭中心があることを見い出したが、これはボンウィル三角の後方の一辺の長さが平均約110mmであることを示している。このデータに基づき、上條(1966)のまとめた骨学データを用いた図上解析を行なった結果、日本人の平均的な下顎三角は“底辺の長さが約110mm、高さが約89.5mm、2斜辺の長さがそれぞれ約105mmになる”、ことがわかった(高山、保母1993)。
下顎三角の存在とその値は、下顎運動の解析の出発点のひとつであるが、19世紀の後半にすでに下顎運動の解明に重要な意味をもつ計測値を求めたという点で、Bonwillの業績は今日も高く評価されている