顆頭点
- 【読み】
- かとうてん
- 【英語】
- Condylar point
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- 顆頭にもうけた基準点。顆頭を代表する点で、下顎運動の原点として運動学的解析の根拠とされている。顆頭中心と同義語。上顎模型を咬合器にトランスファするときの後方基準点として、また顆路の出発点あるいは帰着点として重要な意味をもっている。顆頭点は顆頭を代表する基準点とされ、下顎三角の後方2頂点として3次元的に厳密に定義されるべき点であるが、従来はもっぱらフェイスボウ・トランスファの際の後方基準点としてのみ重視されてきたため、矢状面内の位置について主に検討されてきた。左右の顆頭点を結んだ線は顆頭間軸と呼ばれ、ターミナル・ヒンジアキシスまたはトランスバース・ホリゾンタルアキシスと一致する。左右の顆頭点間の長さは顆頭間距離と呼ばれる。
顆頭点をどこに求めるか、その設定方法には異論が多い。代表的な顆頭点には解剖的平均値により求める点、ターミナル・ヒンジアキシス上の点、トランスバース・ホリゾンタルアキシス上の点、全運動軸上の点の4種類がある。
1)解剖的平均値により顆頭点の矢状面内の位置を求める方法については、従来より多くの報告がなされている。Snow(1899)は鼻聴道線上で外耳道の前方12.5mm(1/2inch)の点、Gysi(1910)は耳珠上縁と外眼角とを結ぶ線で外耳道の前方13mmの点、Hanau(1930)はフランクフルト平面上で外耳道の前方12mmの点、またLundeen(1966)はGysiの示した顆頭点の下方3mmの点、をそれぞれ指示している。保母は平均的顆頭点として外耳道上縁から外眼角に向かって前方へ13mm、下方へ5mmの点を推奨している。このように顆頭点を求める平均値については見解が一致しておらず、咬合器メーカーの指示に従っているのが現状である。平均値により求めた顆頭点を後方基準点とした場合は、生体と咬合器の開閉軸は一致しないので、咬合器は生体と同じ開閉運動を営まない。そのため平均値を用いる方法は主として咬頭嵌合位の再現に用いられている。
2)ターミナル・ヒンジアキシスは、下顎が後方限界開閉運動を営むときに出現する左右の顆頭を貫通する軸で、1921年、McCollumによって発見された。McCollumはターミナル・ヒンジアキシス上に顆頭点を定め、これが左右の皮膚面を通過する点を後方基準点とした。この方法はナソロジーの標準的な術式として用いられている。
3)トランスバース・ホリゾンタルアキシスは中心位の定義がRUMポジションから前上方位に変更されたのにともない、GPT-5(1987)から採用された用語であるが、実測によりトランスバース・ホリゾンタルアキシスを求める方法はまだ明示されていない。
4)全運動軸は下顎の全矢状面内運動に対応して顆頭部に現われる軸で、1968年、河野によって発見された。河野(1968)によれば全運動軸は矢状面内でターミナル・ヒンジアキシスの約5mm前上方、平均的顆頭点(耳珠の前方13mm)の約2.6mm前上方に現われた。長谷川ら(1975)は、全運動軸上に3次元的に顆頭点の位置を求めることを試み、全運動軸上のすべての点は顆頭点としての要件を備えているが、全運動軸を立体的に観察すると、全運動軸上の顆頭中心点と顆頭外側点では運動野が異なり、解剖的な顆頭中心のやや内側よりの点がもっとも安定した運動野を示すので、ここを顆頭点にすべきではないかと述べている。全運動軸を日常の臨床で求めるのは難しい。
3次元6自由度計測可能な電子的下顎運動計測装置を用い側方運動を計測し、50名の被験者の顆頭間軸上の各点の平均軌跡を解析した結果、正中から作業側55mmの点は顆頭間軸上をまっすぐに外方へ移動することがわかり、ここに運動学的顆頭中心(クロスポイント)が存在することが明らかになった。この運動学的顆頭中心の位置は前頭面内と水平面内とで同じ位置になる。これにより日本人の運動学的な顆頭間距離は平均約110mmになることが確認された(保母 1982、Hobo 1983、84、84)。同じ被験者群についてフェイスボウを用い左右顔面皮膚上で後方基準点間距離を測定した。その結果と正中から運動学的顆頭中心までの距離(55mm)とから、顔面皮膚から運動学的顆頭中心までの距離について片側平均18.5mmという値が算出された。ちなみに蓮見(1974)がX線規格装置を用いて100名の被験者につき測定した結果によると、顆頭の長径と短径の交点を解剖的顆頭中心としたとき、顆頭間距離は平均107mm、顆頭点と顔面皮膚間距離は平均22mmであった。運動学的顆頭中心について得られた値(18.5mm)と解剖的顆頭中心について得られた値(22mm)を算術平均すると、日本人の顆頭点は顔面皮膚から約20mm内側に位置していることになる。
河野(1968、Kohno 1976)が発見した全運動軸は矢状面内の運動学的顆頭中心を求めたものであったが、河野の発見した矢状面内の運動学的顆頭中心と保母の発見した前頭面および水平面内の運動学的顆頭中心を合成することにより3次元的に運動学的顆頭点を定義できる。ちなみに付言すると、顆頭点という用語は元来、特定の水平基準軸を前提とせずに定義された用語である。したがって厳密を期する記述にこの用語を用いる際には、どの水平基準軸を前提としているか明示する必要がある。
⇒顆頭中心