可動範囲
- 【読み】
- かどうはんい
- 【英語】
- Range of movement
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- ⇒運動範囲菱形柱
咬合高径の異なったゴシック・アーチにより描かれる下顎切歯点の運動範囲と前方運動路を、立体的に組み合わせてつくり出される空間。GPT-6では、下顎の境界運動によって囲まれる3次元空間、すべての非緊張性下顎運動はその内側で発現する、と定義されている。その外観は上部の平らなバナナ状で、1952年、スウェーデンのPosseltによって紹介された。ポッセルトの図形Posselt figureとも呼ばれる。
運動範囲菱形柱の上面は上下顎の歯の誘導と顆路誘導によって決定され、最上部頂点は咬頭嵌合位に一致する。運動範囲菱形柱の側面は下顎の側方境界運動によって、また前方隅角は下顎の前方限界運動によってそれぞれ決められる。運動範囲菱形柱の最下部頂点は最大開口位に一致する。運動範囲菱形柱の側面は下顎の側方境界運動によって、また前方隅角は下顎の前方境界運動によってそれぞれ決められる。運動範囲菱形柱の最下部頂点は最大開口位一致する。菱形柱の後方隅角には、最後退位からはじまるターミナル・ヒンジ・ムーブメントと、それにつづく回転と滑走の混合した運動経路とが示される。運動範囲菱形柱の高さは平均40~60mmで、また切歯点の接触運動面の近遠心径は平均約10mm、幅は平均20~30mmである。
運動範囲菱形柱の上面には、下顎窩と顆頭、ならびに上下顎歯によって営まれる接触滑走の態様が表わされるため、とくにこの部分を接触運動面と呼び、下顎運動の診断基準に用いられている。接触運動面は個人によりさまざまな形態をとるが、その後方部は比較的定まった形態を呈していることが多い。
咬頭嵌合位における切歯点位置から切歯点の最前上方位置、切歯点の最右上方位置、および最左上方位置に達する経路の前半は上下顎歯の接触滑走をともなう部分で、三角陵形の立体形状をなしている。前方のすそは切歯の切端咬合位と左右の犬歯の尖頭咬合位を結んだ線になるが、これよりも先の部分は境界運動の運動範囲上面の一部ではあるものの、歯の接触はないので咬合学の対象から外れた部分といってよいであろう。ちなみに三角陵をなすハッチ部分の中央稜線の長さは健全者で2~5mm、三角陵の両翼をなす稜線の長さは4~6mmである。
根本(1962)は有歯顎者の切歯点の運動範囲を電気的に3次元計測し、運動範囲の平均的な矢状面投影、前頭面投影、水平面投影、運動範囲菱形柱の立体視像を図示した。菱形柱の大きさの平均は前後方向で平均9.2mm、左右方向で平均26.5mm、上下方向で平均43.4mmである。根本は無歯顎者についても切歯点の矢状面内運動範囲を計測し、運動範囲は有歯顎と特別な相違はなく、歯の喪失による単純な上方への拡大により菱形柱の全長はやや大きい値(平均43.7mm)となったが、前後幅には差は認められなかったと報告している。
Ferrarioら(1992)は、マンディブラ・キネジオグラフ(略称MKG)を用いた研究により、嚥下位は咬頭嵌合位と一致するか、0.5mm以内の非常に近接したところに現われると述べている。Kangら(1991)は、サフォン・ビジトレーナを用いて研究した結果、従来は顎機能の検査に最大開口運動時の「切歯点の軌跡を用いてきたが、最大側方運動と最大前方運動にも偏位が認められるため、これらを診断項目に加えることにより、診断精度を高められると述べている。
境界運動は下顎全体の3次元運動としてとらえるべき性質のものであるから、切歯点の運動範囲だけでなく、下顎三角の他の2頂点である顆頭の運動範囲と合わせて把握しておく必要がある。
⇒境界運動