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過補償再現の理論

【読み】
かほしょうさいげんのりろん
【英語】
Principle of overcompensation
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
1972年、保母により提案された半調節性咬合器の調節のための理論。咬合器上の歯列模型の運動路が、生体の運動路よりもやや過剰に運動するように咬合器の顆路調節機構を設定しておけば、その咬合器上で製作された補綴物は、口腔内で偏心運動を営む際に臼歯離開しやすくなるとする理論。調節性の劣る咬合器でも為害作用の少ない補綴物を製作できることをその特徴としている。Guichet(1969)は、パントグラフのラインのやや外側に咬合器の運動量を設定すると、つくられた補綴物が口腔内で離開することに気づき、咬合処方と名づけた。保母はGuichetの方法を発展させ過補償再現の理論にまとめ、これを臨床の場で実証するためにオクルーゾマチック咬合器を開発している。
過補償再現の理論は、半調節性咬合器のような調整精度のやや劣る咬合器を用いる場合に真価を発揮する。チェックバイト法を用い半調節性咬合器に再現される下顎運動には、必ずある程度の誤差がともなう。そのため、このような咬合器上でつくられた補綴物は偏心運動中に対合歯と衝突するか、離れるか、いずれかのエラーを引き起こす。バランスド・オクルージョンを与える場合には、これらのエラーのうち、いずれが起きても補綴は失敗する。しかしミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンでは補綴物が衝突するときだけが失敗となり、離れることは臼歯離開をつくり出しむしろ好ましい状態といえる。そこで半調節性咬合器の運動量を調節するときは、このような好ましい状態が引き起こされるように、あらかじめ調節時に過補償を与えておけば、正確に下顎運動を再現しなくても、偏心運動中に補綴物は口腔内で正しく機能することになる。
過補償再現の理論を拡大すると、平坦な咬合面を付与するのが為害作用の少ない補綴物をつくる近道になるという誤った考え方を招くおそれがある。平坦な咬合面は咀嚼効率が悪く、歯根膜に多大な負担を加えるため、決して好ましいものとはいえない。むしろ臼歯の咬頭は可及的に鋭利にするほうがよい。そういった意味で、過補償再現の理論に基づいてつくられた補綴物は、咀嚼効率の点でやや問題はあるが、このことは半調節性咬合器が対象とするような小範囲の補綴では大きな欠点とはならないであろう。