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カリフォルニア・インディアンの咬合

【読み】
かりふぉるにあ・いんでぃあんのこうごう
【英語】
Occlusion of California Indian
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
1951年、D’Amicoは、カリフォルニア近辺に居住するマイドゥー・インディアンの咬合を調べ、白人の文明に接触する以前に生息していたマイドゥー・インディアンの成人の歯列には、原始人と同じように極端な咬耗と切端咬合がみられることを発見した。彼らの犬歯の尖端は咬耗し、下顎の側方運動を誘導できないので下顎運動は水平的に行なわれ、バランスド・オクルージョンになっている。D’Amicoは同じ現象をカリフォルニア大学人類博物館所蔵の多くのインディアンの頭蓋骨やエジプト人、ペルー人の頭蓋骨にも認めた。彼らの子孫である現在のマイドゥー・インディアンは、近隣に住む白人との文化交流によって近代的な生活を営み、その生活様式は白人のものとほとんど変わらない。その歯列には咬耗や切端咬合はみられず、前歯は現代人と同じような著明な被蓋をもっている。D’Amicoと同様の研究は、すでに1947年にオーストラリアのJonesによっても行なわれている。Jonesは、オーストラリア原人の歯列を研究し、成人の歯列は極端な咬耗と切端咬合を有するが、ヨーロッパに住む彼らの子孫にはそのような現象はみられず、現代人と同様、著明な被蓋を有することを知った。
D’Amicoは白人の文明に接する前のマイドゥー・インディアンにみられた咬合が原始人の咬合と同じであることに注目し、ヒトの咬合の自然人類学的考察を行なった。そして200万年前に生息したと考えられる猿人以来、つい最近の原始人に至るまですべての原始人は極端な咬耗と切端咬合をもち、こうした原始人の咬合は彼らが硬い生肉や草木を無理に咀嚼しようとして下顎を水平的に動かしたために生じたものであると結論した。ヒトの歯は、元来、食果‐食肉の中間的形態を保持しているのであり、雑食の形態をもっているわけではない。雑食をするためにヒトは下顎を水平に動かさなければならなくなり、そのため雑食に適応できるように原始人の犬歯は退化して小さくなったと考えられる。
今日の類人猿(ゴリラ、チンパンジー、オランウータン)は大きな犬歯をもち開閉運動以外の運動はほとんど行なわない。彼らは祖先の時代からずっと柔らかい果実を食べつづけてきており、下顎が開閉運動を行なうだけで食物を十分咀嚼できるから、とくに犬歯が退化して小さくなる必要はなかったのである。そして大きな犬歯により下顎運動が垂直方向に規制され、水平運動を行なわないため、咬頭はすりへらずに原型を保っている。現代人は果物に順ずるような柔らかい食物を摂取するため、咀嚼時に下顎をそれほど水平に動かさなくてもよくなったが、何10万代にもわたって硬い食物を無理して咀嚼する習慣が定着しているため、どうしても下顎を水平方向に動かす傾向がある。そのため臼歯は咬耗しやすい状態におかれている。このような臼歯の咬耗を防止するのが犬歯の役割りで、犬歯が偏心運動時にいちはやく接触して臼歯を離開してくれれば、臼歯は咬耗から守られる。
従来から支持されてきたバランスド・オクルージョンは、偏心運動中に上下顎の歯を同時に接触させるものである。この咬合様式は、元来、犬歯がもっていた自然な機能の代わりに、草食動物がもっている咬合様式をヒトに再現したものに他ならない。D’Amicoは犬歯の機能的な役割りと優位性を、カリフォルニア・インディアンの咬合を調べることにより人類学的に証明し、その機能を重視した咬合様式として、カスピッド・ライズの必要性を説き、バランスド・オクルージョンを否定した。
⇒咬合の進化、犬歯誘導