顆路傾斜度
- 【読み】
- かろけいしゃど
- 【英語】
- Inclination of condyle path
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- 一定の基準面に対して顆路がなす角度。矢状面内で測った顆路が水平基準面となす角を矢状顆路傾斜度と呼ぶ。矢状顆路傾斜度には、下顎の前方運動中に現われるものと、側方運動中に現われるものとがある。前者を矢状前方顆路傾斜度と呼び、後者を矢状側方顆路傾斜度という。一般に矢状側方顆路傾斜度は矢状前方顆路傾斜度よりも急である。両者の角度の差はフィッシャー角と呼ばれ、その平均は5度とされてきた。しかし、共通の電子的計測データ群について比較すると平均値は-0.1度となり、フィッシャー角の平均値はほぼゼロになることが明らかとなった(保母、高山 1994)。このような結末になった理由は、従来用いられていた機械的パントグラフによる測定では顆頭では外側におかれた描記板でトレーシングが行なわれたため、矢状前方顆路よりも矢状側方顆路のほうが経路が長く傾斜も大きめになる傾向があったためと考えられる。
有歯顎者の矢状前方顆路がカンペル平面となす角度は平均33度(Gysi 1929)で、アキシス・オービタル平面となす角度は平均約40度である(Lundeen 1973)。電子的計測による矢状前方顆路傾斜度の平均値は、カンペル平面を基準として37.5度(中野 1976)、軸鼻翼平面を基準として30.8度(西 1989)、同じく45.6度(小川 1992)、アキシス平面を基準として39.1度(保母ら 1992)であり、アキシス平面基準に換算した4者の平均値は約42度である。ちなみにアキシス平面とは、トランスバース・ホリゾンタルアキシスと上顎右切歯切端から眼窩下縁中点に向かい43mmの点を含む水平基準面をいう。
有歯顎者の矢状側方顆路がアキシス・オービタル平面となす角度は平均45~50度である(Lundeen 1973)。電子的計測による矢状側方顆路傾斜度の平均値は、カンペル平面を基準として36.0度(中野 1976)、軸鼻翼平面を基準として30.7度(西 1992)、アキシス平面を基準として40.5度(保母ら 1992)であり、アキシス平面に換算した3者の平均値は約41度である。
側方運動中に水平面で測られた非作業側の顆路が、矢状面(正中)となす角を水平側方顆路角と呼ぶ。GPT-6では、lateral condylar inclinationの用語で前頭面内と水平面内の矢状側方顆路傾斜角を定義しているが、これはまぎらわしいと思われる。水平側方顆路角はベネット角とも呼ばれ、Gysiは、その平均が13.9度であったと報告している。Lundeenの研究により、水平側方顆路角の平均値は7.5度でほとんど個人差がなく、変化のみられるのは、側方運動の初期に現われるイミディエイト・サイドシフトの量であると報告されているが、電子的計測により非作業側の顆頭中心で計測すると平均12.8度となり約1.5倍の値が得られる。これは機械式パントグラフでは顆頭から離れた描記板上で計測していたため、顆頭中心から描記針までの距離に反比例して角度が小さくなったことに原因する。
本来、生体の顆路は彎曲をもつため、これを角度によって表現しようとすると、その角度は実際の顆路よりもやや少なめに現われる傾向がある。そのため顆路傾斜度は、実際の顆路よりも常に緩やかとなる傾向がある。ただし上下顎歯が対向関係にある中心位から2~3mmの範囲では、正常者の顆路はほとんど直線的であるため、著しい相違は生じない。
【顆路の3次元的表現】
顆路は、偏心運動中の顆頭中心の3次元運動軌跡である。顆路の計測結果を表示したり解析するには、上顎に固定した3次元座標系を基準とした矢状面、水平面、前頭面への投影が用いられる。基準座標系の前後軸をX軸(前を正)、左右軸をY軸(右を正)、上下軸をZ軸(下を正)にとったとき、X-Y面は水平面、Y-Z面は前頭面、Z-X面は矢状面になる。顆路を3次元表示するのに3つの平面の投影図形は必要なく、いずれか2つの投影図形だけでX、Y、Zの3成分すべてを網羅することができる。
上記のように基準座標系を設定すると、顆路を直線で近似したときの顆路長、矢状顆路傾斜度、ベネット角などにより顆路の前後成分、上下成分および左右成分を三角関数を用いた数式で表すことができる。また側方運動においては、顆路が3次元的なためその実長や実角も同様に三角関数を用いた数式で表すことができる。
⇒矢状顆路傾斜度、水平側方顆路角