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関節円板

【読み】
かんせつえんばん
【英語】
Articular disc
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
下顎頭と下顎窩の間に介在する線維性の円板。OPG-3によれば、関節内の円板様の線維軟骨性組織で滑膜関節に認められ、diskおよびmeniscusは不適切用語とされる。
顎関節の重要組織のひとつで関節腔を上下の2つに分けている。厚さの違いにより前方肥厚帯、中央ひ薄部、後方肥厚部に分けられる。中央の荷重部には血管・神経の分布を欠いている。
顎関節に荷重が加わる場合には、受圧部においては関節窩(下顎窩)の関節軟骨、関節円板、顆頭の関節軟骨の3者が密接する。これに対し下顎が(下顎)安静位に位置する場合にはこれら3者の表面は滑液で覆われる。血管の分布を欠き、滑液からのみ栄養が供給される関節軟骨と関節円板にとっては、健康を保つためには、滑液の性状と安静位の2点が重要と考えられる。
関節円板は中央部に対し前方と後方が厚く肥厚し隆起している。これらの隆起によって関節円板は運動時の正しい機能を営むことができる。前方運動位からの咬頭嵌合位への運動には後方肥厚帯の前方斜面と咬頭の後方斜面とが密接して機能する。さらに、咬頭嵌合位からの後方運動時には顆頭の後上方斜面が円板後方肥厚帯に強く接する。また、咬頭嵌合位からの前方運動時には前方肥厚帯の後方斜面と顆頭の前方斜面とが密接して機能する。
円板の異常に関して次のような種々の命名がなされている。
円板位置異常disc derangementは、顆頭、下顎窩、またはエミネンシアに対する関節円板の位置異常とされる(GPT-6)。このような位置異常が生じる場合には、すでに関節円板その他の組織の形態や付着が位置異常を許す状態となっていることが考えられる。
円板機能的偏位functional dislocationは、円板‐下顎頭複合体の機能不全により顆頭に対し関節円板が偏位することとされる(GPT-6)。下顎頭に対し関節円板が偏位を生じる場合には関節円板は前内方に移動することが多い。
円板変性disc degenerationは、GPT-6によれば顎関節の関節円板に生じる変性とされる。
円板部分偏位partial dislocationは、GPT-6によれば円板‐下顎頭複合体の機能不全により関節円板が偏位することとされる。
円板脱出(症)disc prolapseは、関節円板の下顎頭前方への回転による偏位をさす(GPT-6)。関節円板前方転位と同じ意味に用いられる。prolapseは脱肛など医学領域では用いられる用語であるが、歯科領域ではあまり用いられない。
円板薄化disc thinningは、関節円板に生じる退行性の薄化。長期にわたり過重な圧力が加わるためと考えられる(GPT-6)。関節円板の荷重部は無血管性で関節腔内の滑液から栄養を得る。この部に過大な荷重が加わる場合に退行性の変化が生じる。過大な荷重には咀嚼のように機能時に加わるリズミカルなものと、クレンチングのように持続的に加わるものがあるが、これらの為害性の実態はいまだに明らかにはされていない。
円板穿孔disc perforationは、限局した関節円板の断裂(GPT-6)とされる。長期にわたる圧力の増加によることが多いと考えられる。穿孔により上関節腔と下関節腔が交通するが、関節包や靭帯には変化は生じない。穿孔により、下顎窩と顆頭は機能時に直接接触をするようになり、関節軟骨の機能条件と栄養が変化する。この穿孔は、もともと厚さの薄い中央部における退行性の薄化の結果と考えられがちであるが、研究の結果からは円板の外方、後方に多く観察される。自然治癒が生じることはほとんどないと考えられている。
円板剥離disc detachmentは、関節円板が周辺部で関節包、靭帯、および骨から分離すること(GPT-6)とされる。このなかでとくに注目されるのは下顎頭の外側極と内側極の部での付着に異常が生じる場合である。関節円板は関節包や靭帯から外傷力により剥離されることはきわめて稀と考えられる。