機能的咬合面形成法
- 【読み】
- きのうてきこうごうめんけいせいほう
- 【英語】
- Functional waxing
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- ⇒カスプ・リッジ・ワクシング
バランスド・オクルージョンを与えることを目的としてPayne(1962)により考案された最初の機能的咬合面形成法。基本的には1歯対2歯、咬頭対鼓形歯間空隙の関係が付与される。Payneのワックス形成法は、その後Lundeen(1969)によりグループ・ファンクションド・オクルージョンのワックス形成法に改良され、広く使われるようになった。Lundeenは、咬合面の隆線と溝の方向を明確にするため、すべてのステップを色分けし、複雑なワクシングのステップをわかりやすく示している。上下顎を同時にワクシングできるので、臨床価値が高く、カスプ・フォッサ・ワクシングとならぶ機能的咬合面形成法として知られている。
このテクニックは、もともとがバランスド・オクルージョンのためのワクシング法であり、各ステップは上下顎歯の接触滑走をつくりやすいように構成されている。まず咬頭の位置と高さを表すために、上下顎の頬側カスプコーンを植立し、そのカスプコーンを中心に頬側面に流れる頬側隆線、中央に向かう三角隆線、つづいて近心と遠心の咬合隆線を形成する。上顎の辺縁隆線上に嵌合している下顎頬側咬頭は、上顎歯列の隣接する近遠心隆線を滑走しながら咬合面鼓形空隙を通り抜け、また中央窩に嵌合している下顎遠心頬側咬頭は三角隆線を滑走しながら頬側溝を通り抜けるようにつくられる。このように上下顎とも頬側半分を最初に完成させるのが、このテクニックの特徴である。
非作業側の咬頭干渉を避けなければならないという考え方は、このワクシング・テクニックにも生かされている。そのため上顎舌側咬頭の嵌合する位置と非作業側の側方運動時にこれらの咬頭のぬける方向は、カスプ・フォッサ・ワクシングの場合と同様につくられるので、上顎大臼歯の近心舌側咬頭の内斜面にはスチュアート・グループが必要になる。ただし上顎大臼歯の遠心舌側咬頭は辺縁隆線上に嵌合する。そして下顎大臼歯の遠心頬側咬頭をできるだけ近心に寄せ、上顎大臼歯の近心舌側咬頭が、その遠心を通過しやすいようにする。このテクニックは日常の小規模の補綴に適し、フルマウス・リコンストラクションには向かない。カスプ・リッジ・ワクシングには、P.K.Thomasの5本組のワクシング・インスツルメントが使われる。
【臨床術式】
(Lundeen;Introduction to Occlusal Anatomy、1969より改変)
1)下顎頬側カスプコーンの植立
下顎臼歯の頬側コーンは対合歯の隣接面鼓形空隙に嵌合させる。ただし、大臼歯の遠心頬側咬頭だけは中央窩に嵌合させる。各コーンの頂上を結ぶ線は、前歯の切端と最後臼歯の頬側咬頭を含む、なめらかな彎曲につくらなければならない。
2)上顎頬側カスプコーンの植立
頬舌的にはやや頬側よりに植立し、適切なオーバージェットを与える。作業運動時に下顎のカスプコーンと衝突しないように、近遠心的関係に注意して植立する。その高さは、前方運動時に、下顎のカスプコーンに軽く接触する程度がよい。上顎のカスプコーンが短すぎるため審美性が害されると考えられるときは、下顎の頬側カスプコーンの調節彎曲を強くして上下顎のコーンのバランスをとるとよい。
3)下顎頬側咬頭の頬側隆線の形成
咬頭頂からなだらかなカーブを描きながら下降し、頬側歯面の豊隆と自然に移行するように形成する。この操作中にすでに決定したコーンの尖端を溶かさないように注意する。
4)上顎頬側咬頭の頬側隆線の形成
下顎頬側隆線と同じ要領で形成する。側方運動時に上下の頬側隆線は接触してはならないが、前方運動時には上下のカスプコーンの先端を軽く接触させる必要がある。
5)上顎頬側咬頭の三角隆線の形成
小臼歯の頬側三角隆線は咬合面の頬舌的中央へ向けて形成し、また大臼歯の頬側三角隆線は中央窩へ向けて形成する。三角隆線はコーンの尖端へ近づくほど幅が狭くなるよう形成する。
6)上下顎頬側咬頭の近心および遠心の隆線の形成
このステップでは、上下顎の隆線を交互に形成して、作業運動時の接触をつくる。
(1)下顎第1小臼歯の近心隆線の形成。作業運動中に上顎犬歯の遠心咬頭隆線と下顎小臼歯の近心隆線が接触滑走するように形成する。
(2)下顎第1小臼歯の遠心隆線の形成。解剖的形態を考慮しながら、近心隆線とほぼ対称的に形成する。
(3)上顎第1小臼歯の近心隆線の形成。側方運動中の作業側で下顎第1小臼歯の遠心隆線と接触滑走するように形成する。
(4)上顎第1小臼歯の遠心隆線の形成。解剖的形態を考慮しながら、近心隆線とほぼ対称的に形成する。
(5)下顎第2小臼歯の近心隆線の形成。側方運動中の作業側で上顎第1小臼歯の遠心斜面と接触滑走するように形成する。
(6)下顎第2小臼歯の遠心隆線の形成。解剖的形態を考慮しながら、近心隆線とほぼ対称的に形成する。
(7)上顎第2小臼歯の近心隆線の形成。側方運動中の作業側で下顎第2小臼歯の遠心隆線と接触滑走するように形成する。
(8)上顎第2小臼歯の遠心隆線の形成。解剖的形態を考慮しながら、近心隆線と対称的に形成する。
(9)下顎第1大臼歯の近心頬側咬頭の近心隆線の形成。側方運動中の作業側で上顎第2小臼歯の遠心隆線と接触滑走するように形成する。
(10)下顎第1大臼歯の近心頬側咬頭の遠心隆線の形成。側方運動中の作業側で上顎第1大臼歯の近心頬側三角隆線の近心斜面が接触滑走するように形成する。
(11)上顎第1大臼歯の近心頬側咬頭の近心隆線の形成。側方運動中の作業側で下顎第1大臼歯の近心頬側咬頭の遠心隆線と接触滑走するように形成する。
(12)上顎第1大臼歯の近心頬側咬頭の遠心隆線の形成。解剖的形態を考慮しながら、近心隆線と対称的に形成する。
(13)1下顎第1大臼歯の遠心頬側咬頭の近心隆線の形成。上顎第1大臼歯の近心頬側咬頭の三角隆線上に、側方運動中の作業側で接触滑走面ができるように形成する。この隆線は側方運動中の作業側で、上顎第1大臼歯の近心頬側咬頭の遠心隆線と接触させる。
(14)下顎第1大臼歯の遠心頬側咬頭の遠心隆線の形成。上顎第1大臼歯の遠心頬側咬頭の三角隆線。
(15)上顎第1大臼歯の遠心頬側咬頭の近心隆線の形成。側方運動中の作業側で下顎第1大臼歯の遠心頬側咬頭の遠心隆線と接触滑走するように形成する。
(16)上顎第1大臼歯の遠心頬側咬頭の遠心隆線の形成。解剖的形態を考慮しながら近心隆線とほぼ対称的に形成する。
(17)下顎第1大臼歯の遠心咬頭の近心隆線の形成。遠心溝と近心隆線は、上顎第1大臼歯の遠心頬側咬頭が作業側へ運動するときに圧痕として形成される。
(18)下顎第1大臼歯の遠心咬頭の遠心隆線の形成。解剖学的形態を考慮しつつ、近心隆線とほぼ対称的に形成する。同じ要領で上下顎の最後臼歯を形成する。以上の操作が終わったら、側方運動中の作業側で上下顎の頬側咬頭どうしが軽く接触しながら滑走することを確認する。
7)上顎舌側カスプコーンの植立
大臼歯のカスプコーンを除くすべての舌側コーンは、対合する歯の窩と嵌合させる。小臼歯の舌側カスプコーンは下顎臼歯の遠心窩へ嵌合させる。また大臼歯のカスプコーンは下顎大臼歯の中央窩へ嵌合させる。この段階ではコーンの高さを対合関係によって決めることはできないので、一定の基準に従って目測で設定する。第1小臼歯では舌側コーンを頬側コーンより1mm短くする。第2小臼歯では舌側コーンを頬側コーンと同じ高さにする。第1大臼歯では、近心舌側コーンは頬側よりも1mm長くして、遠心舌側は同じ長さにする。第2大臼歯は第1大臼歯に準ずる。
大臼歯の近心舌側コーンは側方運動中の非作業側で咬頭干渉を防止するために、頬側の2つのコーンの垂直2等分線上よりもわずかに遠心よりに植立する。大臼歯の遠心舌側コーンは鼓形歯間空隙と嵌合させる。
8)上顎舌側咬頭の咬頭隆線の形成
舌側、三角、近心、遠心のすべての咬頭隆線を、解剖的形態を考慮しつつ、なめらかに形成する。大臼歯では斜走隆線を形成し、その近心斜面にセントリック・ストップを確保する。
9)上顎臼歯の近心および遠心の辺縁隆線の形成
この操作中にセントリック・ストップを確保する。そして上顎臼歯の辺縁隆線上のすべてのセントリック・ストップを、この段階で形成する。
10)下顎頬側咬頭の三角隆線の形成
小臼歯では三角隆線の遠心斜面に、大臼歯では遠心頬側咬頭の三角隆線の近心斜面に、それぞれセントリック・ストップをつくる。側方運動中の非作業側ではいかなる接触もあってはならない。もしも接触滑走面があれば除去する。
11)下顎舌側カスプコーンの植立
頬舌的にはやや舌側よりに植立し、適切なオーバージェットを与える。近遠心的な位置は、側方運動中の作業側で咬頭干渉が生じないように注意して設定する。とくに、大臼歯の近心と遠心のコーンは、できるだけ離すほうが咬頭干渉の防止のために有効である。
12)下顎舌側咬頭の咬頭隆線の形成
小臼歯では三角隆線の遠心斜面に、大臼歯では近心舌側咬頭の遠心斜面と遠心舌側咬頭の近心斜面に、それぞれセントリック・ストップをもうける。側方運動中の作業側で咬頭干渉を起こさないように注意して近遠心の咬頭隆線を形成する。舌側隆線は解剖学的形態を考慮しつつ歯面を自然に移行させてなめらかに形成する。
13)下顎臼歯の近心および遠心の辺縁隆線の形成
小臼歯では遠心辺縁隆線の近心斜面にセントリック・ストップをもうける。近心は解剖学的形態を考慮しながら遠心と対称的に形成する。大臼歯では隣接面の辺縁隆線にセントリック・ストップをもうける。第1大臼歯の近心辺縁隆線上にセントリック・ストップは現われない。
14)主溝と副溝の仕上げと完成
⇒カスプ・フォッサ
機能咬頭が対向する歯の咬合面小窩に噛みこむような咬合様式。歯の機能的要素を重視して考え出された理想咬合のひとつ。上下顎の歯は1歯対1歯の関係で嵌合する。この形式の咬合は天然歯列には稀であるが、高齢で完全な歯をもつヒトにしばしばみられるためナソロジー学派により強く推奨されている。咬合圧が歯の長軸方向に集約し、理想的な状態で歯槽骨内に分散されるため、歯の位置がよく安定する。主としてフルマウス・リコンストラクションに用いられ、日常の小規模な補綴にはあまり使われない。この咬合様式を再現するための方法として、カスプ・フォッサ・ワクシング法が1950年代にThomasにより開発された