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筋肉位

【読み】
きんにくい
【英語】
Muscular position
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
協調の保たれた筋活動によって表現される下顎位で、筋機能に着目した機能的な下顎位。北欧学派(Brillら 1959)により提唱された。筋覚咬合位または筋機能位とも呼ばれる。筋の名があるが、実際には咀嚼筋や姿勢維持筋の活動と顎関節からの信号および咬合接触の筋覚記憶などによっても踏襲されるものである。正常な咀嚼系をもつヒトでは、習慣的な筋による閉口路(安静位からの閉口)を通って、上下の歯が嵌合する位置(咬頭嵌合位)と一致する場合が多いとされる。筋の活動状態によって決定される下顎位であるため、筋機能位と呼ばれることがある。安静位、姿勢維持位、嚥下位、マイオセントリックなどを筋肉位に含める考え方もあるが、通常、靭帯位ligamentous positionに対する下顎位を示すことが多い。
筋肉位は、筋がもっとも効率よく機能する状態を基準として定められたもので、筋のセントリックと考えてよい。Brill、Krough-Poulsenは、安静位から口を閉じたときに最低限度の筋活動によって誘導される咬合位を重視し、これと咬頭嵌合位が一致するときに機能的にもっとも調和のとれた咬合が得られると述べ、このような咬合位をmuscular contact positionと呼んだ。具体的には、患者に下顎をリラックスさせた状態から、一切の誘導を加えずに口を静かに閉じたところで咬合させ、その位置で補綴物を製作するように指示している。しかし、これだけでは古典的な咬合採得法によって求められる下顎位とまったく変わらぬものであり、総義歯補綴でいちばん広く用いられている方法と同じである。そのためこのような下顎位には多少の問題がある。顎口腔系の筋は不安や緊張によりハイパー・ファンクションまたはインバランスを起こすから、筋の活動性だけを手がかりに下顎位を求めた場合には、患者の筋の緊張状態によりずれを起こす危険がある。これを避けるためには、咬合採得時に患者の筋が正常に機能していることを確認する必要がある。
Jankelson(1975)はこの点を解決するためにマイオモニタという器具を開発し、筋のリラクゼーション具体的な解決策を提示した。これはパルス電流により三叉神経と顔面神経を刺激し、その支配下にある咀嚼筋や顔面の筋をリラックスさせようとする装置でTENSユニットtranscutaneous electric nerve simulatorと呼ばれている。患者の筋の緊張状態により、筋のリラックスに要する時間は異なるが、最近ではポータブルの筋電計(以下EMGという)を使って開業医でも簡単に筋機能の検査ができるようになった。
Jankelsonは、パルス電流をかけたまま筋がリラックスした状態で咬合採得を行ない、その下顎位をマイオセントリックと名づけた。マイオセントリックは筋がリラックスした状態で電気的にコントロールしながら採得されるため、筋肉位として最良のものであると述べている。しかしLundeen(1974)はマイオセントリックが中心位の前方1.4mm、下方1.6mmで、かつ咬頭嵌合位の前方0.9mm、下方1.1mmの位置に出現すると報告している。そのためマイオセントリックは電気的な刺激によってつくり出される人為的な下顎位という見解が一般的になり、今日この下顎位を推奨する人は少ないようである。しかしTENSユニットとしてのマイオモニタの効果については一部の臨床家の間に定評があり、筋をリラックスさせてから下顎位を決めるという考え方は評価されている。またJankelsonが主導して開発したポータブルのEMG(EM・)や下顎切歯点の運動の電子的記録装置(MKG)は、筋の活動状態の把握と下顎切歯点の3次元的位置関係の同時計測を可能にしたという意味で、有効な機器といえる。
筋をリラックスさせてセントリックを安定させるために日常の臨床で広く使われているのは、オクルーザル・スプリント(またはバイト・プレーン)を用いる方法であろう。スプリントの製作法と使用法には各種あり、その有効性についても見解が分かれている。Serranoら(1984)はスプリントを3か月間、1日24時間装着させたが、セントリックの再現性は向上しなかったと述べ、ルシア・ジグとオトガイ誘導法を併用してセントリックを採得した場合、中心位は1つの定まった位置one positionとなり、スプリントの作用は関係ないと述べている。一方、Weinberg(1975、88、90、91)は平坦なバイトプレートを用い、24時間筋をディプログラムすることにより、より確実に顆頭位を安定させることができ、習慣性閉口位の影響を除くことができたとして、従来用いられてきた時間では短すぎると述べている。この他筋肉位と咬頭嵌合位はほぼ一致するという考えや、筋肉位は咬頭嵌合位の前方または下方に存在するという考えもあるが、筋肉位そのものが明確に定義されていないため、これらの点に関していまだ統一した見解は得られていない。