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グループ・ファンクション

【読み】
ぐるーぷ・ふぁんくしょん
【英語】
Group function
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
1961年、Schuylerによって提唱された有歯顎の理想咬合のひとつ、バランスド・オクルージョンからクロス・アーチ・バランス(非作業側の咬頭接触)とクロス・トゥース・バランス(作業側の舌側咬頭どうしの接触)を取り除いた咬合様式。天然歯列にしばしばみられるとして1960年代にPankey、Mann、Ramfjordらによって支持され普及した。Schuylerは咀嚼運動を観察し、下顎が閉口したとき、作業側では、下顎頬側咬頭が咬頭嵌合位にとどまらず、咬頭嵌合位を越えて舌側へ向かい、上顎舌側咬頭の内斜面と衝突することがあり、ここに食片が介在すると接触歯面に強い側方圧が加えられると説明している。グループ・ファンクションは、1)ロング・セントリックの理論の導入、2)側方運動時における作業側の全歯による側方圧の分担、3)側方運動時における非作業側の臼歯の接触防止、以上の3つの点で特徴づけられている。
ロング・セントリックは、中心位と咬頭嵌合位との間に与える咬合高径の変化をともなわない、1.0~0.2mm程度の前後的なあそびである。Schuylerは中心位と咬頭嵌合位が一致する咬合が理想であることは認めるが、そのような咬合をもつヒトは非常に少ないのだから、日常の臨床では咬頭嵌合位を1つの限局した点とせず、ある程度の領域を与えるほうが現実的であると主張し、この理論を提唱した。ロング・セントリックにより、中心位と咬頭嵌合位がともに生理的に機能し、両者の不調和が解消され、咬合処置の完了後に早期に快適な状態が得られると述べている。しかし、ロング・セントリックでは咬頭嵌合位が不安定になりやすく、患者は上下顎歯列を絶えず前後に滑走させるため、咬合面が磨耗することがある。Schuylerは、ロング・セントリックを付与するために、ハノー・モデルH2-O型咬合器の切歯指導板の中央に組みこまれているアジャスタブル・ピンを挙上して、咬合器を水平的に誘導し、上顎前歯の舌面にレッジを形成する方法を紹介している。
グループ・ファンクションは側方運動中に、作業側の中切歯から最後臼歯までのすべての歯を接触滑走させて、これらの歯により側方圧を分担させるような咬合である。一方ミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンでは、側方運動時の側方圧は犬歯1歯に負担させている。D’Amico(1958)は犬歯がもつ解剖的、生理的および人類学的な優位性を示して、犬歯にふりかかる側方圧は外傷性咬合にはならないと主張した。Schuylerはこのような考え方に疑問をもち、犬歯1歯だけに全側方圧を負担させるよりも、作業側の全歯に側方圧を分担させるほうがよいのではないかと考えた。グループ・ファンクションはSchuylerによって定義された当初は、側方運動時に犬歯を含む作業側の全歯を接触させて咬合力を分散させることを意図し、グループ・ファンクションド・オクルージョンと呼ばれた。しかしGPT-5で犬歯の他に1本以上の臼歯が接触するすべての場合を含むと適用範囲が拡張されたのにともない、オクルージョンという用語が除かれ、グループ・ファンクションと呼称変更された。この咬合様式では作業側の上下顎臼歯の舌側咬頭どうしの滑走(クロス・トゥース・バランス)を認めず、これは非作業側の歯接触(クロス・アーチ・バランス)につぐ破壊的な咬頭干渉としている。
Guichet(1970)は犬歯に加わる側方圧は大臼歯に加わる咬合圧の約1/8で、作業側の全歯に側方圧を均等に負担させることは、後方に植立する歯に大きな荷重を加えることになるため、グループ・ファンクションが必ずしも有効に機能するとは限らないと述べ、Schuylerの考え方に疑問を投げかけている。側方運動時に最後臼歯の負担する咬合圧は、前歯の負担する咬合圧よりもはるかに大きくなるという事実については、Schuylerはとくに説明を加えていない。StuartとStallard(1963)は、非作業側のすべての歯を接触滑走させるバランスド・オクルージョンは天然歯列には稀にしかみられず、そのような咬合様式を付与した症例の大多数が失敗に終わったと報告し、臼歯の接触滑走を全面的に否定する見解を発表した。この理論は急速に広まり、現在ではほとんどすべての咬合学者、歯周病学者により支持されている。
保母、高山(1993)が臼歯離開量を計測した被験者別データによると、側方運動中作業側で、臼歯離開量が0.1mm以下の歯が1本でもある歯列の数は50例中15例(30%)で、そのうち小臼歯、第1大臼歯、第2大臼歯の3者とも0.1mmなのは4例(8%)であった。この4例は定義通りのグループ・ファンクションであるが、この結果は、厳密な定義通りのグループ・ファンクションの発現率は天然歯列中8%にすぎず、残りはミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンであることを示している。これまでグループ・ファンクションは、天然歯列内にしばしば見い出される咬合様式とされてきたが、上記の結果は従来の通説に反するもので、むしろミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンのほうが、天然歯列内によく見い出される咬合様式であることを示している。このように通説が事実と相違する結果になったのは、従来の咬合様式の定義が定量的でなく、臨床の場で単に術者の頬側からの視覚による観測だけで咬合様式の判別が行なわれたため、0.2~0.3mm程度の臼歯離開があっても上下顎歯が接触していると判定される傾向があったためと考えられる。
グループ・ファンクションの定義は当初“片側性のバランスド・オクルージョンunilateral balanced occlusion”と明記されていた。しかしGPT-5(1987)に至りはじめて取りあげられ、“側方運動の作業側で上下顎歯が複数同時接触し、グループとして咬合力を分散させる咬合関係”と定義された。これは作業側の全歯の接触を規定したものではなく、犬歯の他に1本以上の臼歯が接触するすべての場合を含めた内容になっており、適用範囲をミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンの近くまで拡大した表現になっている。これは当初の厳密な定義にあてはまるグループ・ファンクションを天然歯列にみつけることが少ないことを考慮したためと考えられる。この定義に従うと、高山、保母(1993)の前述のデータにおけるグループ・ファンクションの発現率は約30%になる。
西尾・宮内・丸山(1986)は、上下的要素の強いチューイング・サイクルパターンをもつ被験者グループの作業側の臼歯離開量(平均0.47mm)に比し、側方的要素の強いチューイング・サイクルパターンをもつ被験者グループのそれ(平均0.25mm)は小さい、という結果を示している。作業側の臼歯離開量の大きいグループはミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンの咬合様式に属し、作業側の臼歯離開量の小さいグループはグループ・ファンクションの咬合様式に近いグループとみなされるから、上記の結果はミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンの場合には純粋な開閉運動に近いチョッピングタイプの咀嚼運動が行なわれ、グループ・ファンクションの場合には側方運動成分を比較的多く含むグラインディング・タイプの咀嚼運動が行なわれることを示唆している。小林ら(志賀ら 1987、Shigaら 1988、Kobayashiら 1991)は、咀嚼運動自動分析システムを用い、側方運動時の咬合型が明らかに犬歯誘導である被験者群と、同様にグループ・ファンクションである被験者群を比較し、咀嚼経路(サイクル)、咀嚼リズム、筋活動のいずれの観点からも犬歯誘導群のほうがグループ・ファンクション群よりも安定している、と結論している。
江田(1982)は、日本人の成人で犬歯誘導とグループ・ファンクションの咬合形式をもつ自覚的正常者の歯列の形態を比較し、両形式の差は下顎犬歯尖頭の位置関係にある、と述べている。それにともない、上下顎犬歯のオーバーバイト(垂直被蓋)の値にも差が認められ、犬歯誘導では平均4.0mm、グループ・ファンクションでは平均2.2mmであった。