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咬合高径

【読み】
こうごうこうけい
【英語】
Occlusal vertical dimension
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
GPT-6では、咬合部位が接触しているときに測定した上下顎上の特定の2点間の距離、と定義されている。垂直顎間距離ともいう。中心位は顆頭の下顎窩内における3次元的位置を規定したものであるが、これは主として上下顎の水平的位置関係を決定する。補綴物の製作にあたっては、この他に上下顎間の垂直的距離を決定しなければならない。顆頭を前上方位に誘導すると下顎三角の後方2頂点の位置は定まるが、他に前方頂点の位置を決定しなければ下顎の3次元的な位置は定まらない。これが咬合高径である。従来咬合高径と垂直顎間距離vertical dimensionとは同義語としてあつかわれてきたが、GPT-6で広義のvertical dimensionに対し咬合部位が接触しているときのそれをocclusal vertical dimensionと呼称するようになった。
咬合高径の決定法は確立していないが、近年では電子技術を活用した筋電図解析により定めた“下顎安静位”から、正常な“安静空隙”を差し引いて咬合高径を決定する方法が注目を集めている。安静位physiologic rest positionは、“上半身直立の姿勢をとり、安静な精神状態で関連筋が最小の収縮活動状態にあるときの、下顎の(姿勢的)位置postural positon of the mandible”と定義され、また安静空隙interocclusal rest spaceは、“安静位と咬合位の垂直位置の差”と定義されている(GPT-5 1987)。ちなみに従来、安静位を意味していたfree-way spaceはGPT-5で不適切用語となり、interocclusal rest spaceに呼称変更されている。
安静位については、咬合高径との関連で、多くの研究が行なわれている。石原(1972)は低位咬合の患者の前歯部の咬合高径をいちどに5mm挙上したところ、最初に痛みがみられたものの1週間くらいで新しい下顎位に慣れ、3週間後にはわずかながら安静空隙が生じ、新しい安静位が生まれた、と報告している。スウェーデンのBrill(1959)は、約20人の有歯顎の被験者に安静位を越えた咬合高径を与えて、それに慣れることができるか否か試したところ、慣れることができたという知見を紹介しながら、咬合高径を挙上しても筋のほうは慣れそうだが、顆頭の位置が正常でないと障害が起こる、と述べている。Babuら(1987)は、義歯を装着したほうが、しないよりも安静位が精密に計測できた、と述べている。またNakamuraら(1988)は、垂直顎間距離を増加させると最大開口量が増加する、と報告している。Warrenら(1990)は、MKGを用いた大規模な実験によりクローゼスト・スピーキング・スペースのバラツキと安静位のバラツキを比較し、両者間に統計的に有意な差が認められないことから、クローゼスト・スピーキング・スペースの臨床的な意義には疑問がある、と述べている。またLambadakisら(1992)は、総義歯患者24名の残存歯抜去前と抜去後の安静位に変動がみられたことから、安静位は術前の咬合高径を再現するうえで信頼できない、と述べている。Goldsteinら(1984)は頭の位置を前後的に変えると、安静位から咬頭嵌合位に達する経路が変化する、と述べている。Edwardら(1993)は、X線セファログラム上で解剖的平均値を用いて適正な咬合高径を求める方法を試みたが、臨床上矛盾した結果が得られ、この方法は信頼度に欠ける、と結論している。またPrombonas(1994)は、咬合力が最大になる顎位(いわゆるpower position)と咬合高径との関連について調べ、power positionを咬合高径の決定に用いることはできない、と述べている。
安静空隙量の正常範囲は1.0~1.2mmといわれている(三谷ら 1979)が、Jensen(1990)は臨床観察結果からClassIIIの不正咬合患者では前歯誘導が欠如しているため、バランスド・オクルージョンの咬合様式になるとともに、発音と咀嚼時に上下顎の歯を離すため大きめの安静空隙(1.0~1.5mm)を必要とするようになったと述べている。
現状では、咬合高径とは上下顎上のどの部位で定義されるのか明らかでなく、またその臨床的な決定法も未確立の状態にある。しかし咬合高径は中心位を顆頭の3次元的位置だけでなく下顎の3次元的姿勢を含めて考えた場合、その確立にかかわる重大テーマなので、近い将来、これらの点についても何らかのかたちで解明されるであろう。
⇒垂直顎間距離