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咬合採得

【読み】
こうごうさいとく
【英語】
Bite registration
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
【有歯顎】
患者がもつ固有の上下顎の位置的関係を、水平的ならびに垂直的に記録する方法。静的記録法、動的記録法、特殊な電子的機器を利用する方法に大別される。
静的記録法にはセントリックの記録と偏心位の記録とがある。ワックス、インプレッション・ペースト、シリコーン、モデリング・コンパウンド、石膏などの材料を上下顎の歯列間におき咬合関係を採得する。セントリックの記録には中心位と咬頭嵌合位の2つがあるが、両者では咬合採得時の垂直顎間距離が異なる。中心位の咬合採得は垂直顎間距離を高め、歯の接触をさけ、神経筋機構をブロックした状態で行なう必要がある。バイトはわずかな開口状態で採得される。そのためターミナル・ヒンジアキシスを実測し、患者と咬合器の開閉運動軸を正確に一致させ、下顎模型をマウントした後でバイトを外し咬合器を閉じたときに誤差を生じないようにしなければならない。咬合器上に中心位を正確に再現すれば、中心位の早期接触の有無を検査できる。一方、咬頭嵌合位の咬合採得は閉口位で上下顎歯がしっかりと噛み合った状態で行なう。インプレッション・ペーストのような柔らかで接触抵抗の少ない材料を上下顎の歯列間におき、咬合関係を採得する。この方法では、上下歯列の位置関係だけが記録され顆頭の位置は記録されない。そのため咬頭嵌合位を再現した咬合器上で、顆頭の偏位を調べることはできない。歯列の片側だけに材料をおくと患者は必ず材料のおかれている側に下顎を偏位させ、作業運動の状態を保つから、正しいセントリックは記録できない。咬合採得は両側同時に行なうことを原則とすべきである。
偏心位の記録ではチェックバイト法がよく知られている。チェックバイトは前方位と左右側方位で採得される偏心位の咬合記録で、半調節性咬合器の運動量を調節するのに利用される。チェックバイト法は顆路の実用的な測定法として広く臨床に応用されているが、再現される顆路が直線となり、傾斜度は実際の顆路よりも緩やかになる欠点がある。
動的記録法は、下顎の機能運動路を含めた上下顎の位置関係を記録する方法である。F.G.P.テクニックやチュー・イン法などがあり、古くから利用されている。同時に左右側の記録がとれないこと、上下顎歯の接触滑走運動の記録でセントリックの再現には適さないことなどの欠点があり、小規模な補綴に主として使われている。
電子的機器を利用する方法では、マイオモニタによる下顎位の決定法がよく知られている。咀嚼筋に電気的刺激を加え、一過性の筋の攣縮を起こさせ咬合を採得する。これによって得られる下顎位をマイオセントリックと呼んでいる。その他筋電図の波形から安静位を求め、適正な下顎の位置をみつける方法や、マンディブラ・キネジオグラフを使って咬合採得を行なう方法が紹介されている。電子的機器を利用する方法は、操作性や精度などに問題があるため、補助的手段として用いられることが多い。
【無歯顎】
有歯顎時代にもっていた垂直顎間距離と、咬合位を再現する方法。両者を合わせて記録したものをバーチセントリックと呼ぶ。無歯顎者では歯を基準にできないので咬合位の決定にはゴシック・アーチが利用される。しかしゴシック・アーチのみによって生理的な咬合位、とくに垂直顎間距離を求めることはできないので、下顎の習慣運動や形態的な特性を利用した補助的手段を併用するのが普通である。ゴシック・アーチ法は下顎の側方運動を水平描記板上に描記させて、その頂点を水平面内における下顎のセントリックとする方法である。下顎の習慣運動を利用する方法には、下顎安静位法、咬合力を利用する方法、発音法、嚥下法、ワルクホッフ球法、およびタッピング法などがあり、主に垂直顎間距離の測定に用いられる。これらのうち発音法は無歯顎の咬合採得の補助的手段としてしばしば用いられてきたが、Poundはこれを一歩進めて、(f)(v)(s)の発音位を利用したユニークな咬合採得法を紹介している。この方法は咬合高径の他咬頭嵌合位、前歯の上下的ならびに水平的な位置などを決定するのにも用いられる。形態的な特性を利用する方法には、ウイルス法、ニースワンガー法、坪根式バイト・ゲージを用いる方法、山田法などがあり、いずれも垂直的な咬合高径を求めるときの主体的、補助的手段に利用される。その他、エックス線セファログラムを使用する方法、マイオモニタを用いる方法もある。