咬合の診断
- 【読み】
- こうごうのしんだん
- 【英語】
- Diagnoisis of occlusion
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- 咬合の不良に起因する歯、歯周組織、筋、顎関節などを含めた顎口腔系の機能異常の有無と程度を診査すること。機能分析ともいう。単に上下顎歯列の対合関係だけを調べることとは区別され、総合的な機能分析による判定が要求されるため、問診、視診、および触診によって得た既往症と現症の記録、X線写真、解剖的咬合器に取りつけた診断模型などの資料を用いる。
咬合の診断には機械的診査と生物的診査の2つがある。機械的診査とは、頭蓋と下顎の位置関係を咬合器上に再現して位置のずれや程度を診査する方法である。また生物的診査とは、筋の触診、咬合音や顎関節音の聴診などのデータをもとにして異常の有無と程度を診査する方法である。咬合の診断は、咬合器上で確認した中心位の早期接触、偏心運動時の咬頭干渉、そして前歯誘導の異常などの症状が現症にどのように結びついているかを、生物的診査により確認することがその基本となる。これらの咬合異常はそれ自身では疾病とはいえないが、それが顎口腔系に悪影響を与えるか、または与える可能性がある、と診断された場合には一転して治療対象としてさらに精査される。
【機械的診査】
咬合の機械的診査を行なうための前準備について概説する。
1)診断模型のマウント
咬合の機械的診査を行なうためには、ターミナル・ヒンジアキシスの計測は原則として実測法を用いる必要がある。フェイスボウ・トランスファにより上顎診断模型を解剖的咬合器にマウントする。つづいてルシア・ジグまたはリーフ・ゲージを用いてセントリック・バイトを採得する。咬合の機械的診査の精度を高めるためにはセントリック・バイトはリーフ・ゲージよりもルシア・ジグを用いるほうがよい。セントリック・バイトを用い下顎診断模型をマウントし、咬合器上に“中心位”を再現する。再現した中心位の精度をスプリット・キャスト・テクニックで確認する。最後退位で計測したターミナル・ヒンジアキシスを用い上顎診断模型をマウントし、前上方位で採得したセントリック・バイトにより下顎診断模型をマウントしても、臨床上問題となるような誤差は生じない。
2)診断模型前歯部の可撤構造化
上顎診断模型の前歯部をダウエル・ピンを用いた可撤構造とし、取り外し可能にしておく。この処置は偏心位で均一な臼歯離開が得られるか否かをチェックするために咬頭形態成分を分析する際に、邪魔になる前歯部を撤去するのに欠かすことができない。
3)顆路の調節
偏心位の診断で、臼歯の咬頭形態成分と前歯誘導を分析するときはツインステージ法の2組の調節値(条件1、条件2)を用いるとよい。ツインステージ法を用いる場合個々の患者ごとに顆路を計測する必要はない。
もし顆路の再現に固定値を用いることに不安を覚える場合は、顆路を患者ごとに計測してもよい。チェックバイトにより求められるのは往路の顆路の値なので、これから23度を差し引いた値が帰路になる。水平側方顆路はIPB法(Hobo 1986、86)を用いイミディエイト・サイドシフトとプログレッシブ・サイドシフトを再現してもよいし、あるいはベネット角法または7.5度法を用いてもよい。水平側方顆路は術者の信じる方法で再現すればよいであろう。
4)切歯指導板の調節
これまで、前歯誘導の診査方法には未解決の問題が多く残されていた。臼歯離開が必要であるということは歯科的通念となっていたが、臼歯離開の適正量が明らかにされておらず、したがって咬合器の切歯指導板の調節法に注目が集まらなかった。
切歯指導板には大別して2種類ある。1つはプラスチック製で通常凹陥形状を有し、これを削合修正したり、凹陥部に即時重合レジンを添加して各個調整することができる。このタイプは既存の前歯部形態を基準にして調整されるため、天然前歯により前歯誘導が問題なく行なわれる症例以外では咬合診断ができない難点がある。
他の1つは樋状の形状をもちその指導要素が固定された非調節性のものと、指導要素が可変の調節性のものとがある。非調節性のものは通常プラスチック製で矢状傾斜度と側翼角の値は固定されているが、両者の値を段階的に変えた交換方式のものもある。調節性のものは金属製で矢状傾斜度と側翼角の値を調節できるようになっている。従来切歯指導板の意図的な調節は重視されなかったので、切歯指導板の矢状傾斜度と側翼角の値の選択ないし調節について明確な指針は示されていなかった。
切歯指導板は、下顎三角の前方頂点である切歯点の運動路を歯列模型の前歯誘導機能に代わって咬合器上で制御するためのものである。保母ら(1995)は運動学的理論解析の結果、切歯路の咬頭路への影響度は顆路のそれに比べ、第2大臼歯で2倍、第1大臼歯で3倍になるという結論を導き、咬合器の切歯指導機構は顆路指導機構に比し、2~3倍の重要性をもつと指摘している。
この知見に立脚して保母らは、さらに運動学的理論解析、臼歯離開量の計測および咬頭傾斜角の基準値設定を行ない、その結果に基づいてツインステージ法による咬合の診断法を提唱している(保母ら 1995)。
ツインステージ法による咬合の診断は、咬合器を条件1と条件2の2段階に調節して偏心位における咬合の機械的診査を行なうもので、まず診断模型の前歯部を外し前歯なしの形態で条件1に調節した咬合器上で臼歯離開量のバラツキと咬頭形態成分の診査を行なう。次に撤去してあった前歯部を再装着し条件2に調節した咬合器上で前歯誘導成分の診査を行なう。
条件1と2の咬合器調節条件、およびそれぞれの診査方法については、以下(偏心位の診査)の項で述べる。
【中心位の診査】
咬合の機械的診断の第1歩は中心位の診査である。中心位の早期接触は顎口腔系の機能異常のひとつで、咬合を改善するうえで重視すべき課題である。そのため中心位の診査は厳密に行なわなければならない。中心位の早期接触は常人の90%が有するものだから、早期接触すなわち疾病と考えるのは誤りである。しかし早期接触が誘因となって顎関節症が惹起されていると考えられる場合には、それを除去しなければならない。早期接触を除去するか放置するかの判断は、病状が現われているか否か、それを予防する必要があるかによるであろう。
中心位の診査は、早期接触の為害作用の大きさを総体的に観察するのに有効である。しかし、その早期接触が顎口腔系に対してどの程度影響しているかを具体的に知るには、クロ・ポールセンの筋診断法などの生物的診査を併用する必要があることは前述した。もしも早期接触を除去する必要があると判断された場合は、咬合調整やオクルーザル・リコンストラクションの処置を考えなければならない。
中心位の診査では、中心位と咬頭嵌合位の間の不調和を調べるが、具体的には水平的ずれの検査、垂直的ずれの検査、ずれの方向の検査、接触歯の検査の順で行なう。
1)水平的ずれの検査
この検査は次のようにして行なう。まず咬合器を中心位で閉じ、上下顎模型が最初に接触したところ(中心位の早期接触)で止める。その状態で左右いずれかの大臼歯の頬面に鉛筆で垂直な線を記す。この線は中心位における上下顎歯列の前後的位置関係を示している。次に上下顎模型を咬頭嵌合位で固定する。中心位と咬頭嵌合位の間にずれがある場合は、顆頭球がハウジングの前下方へ引き出される。この状態で上顎の線に一致するように、下顎の頬面に新たな線を描く。そして中心位で描いた線との間の距離を計測する。この数値が中心位と咬頭嵌合位の水平的ずれの大きさになる。Posselt(1952)は、大多数の成人は最後退位と咬頭嵌合位の間に1.25mm±1mmの前後的ずれをもったと述べている。診断の分類基準としては0.3mm以内のずれを理想的、0.3~0.5mmのずれを正常、0.5~1.0mmのずれを要注意、1.0mm以上を異常と考えることをすすめる。中心位の定義が最後退位から前上方位に修正されたのにともなって、咬頭嵌合位は最後退位の0.2~0.3mm前方に位置するようになった。
2)垂直的ずれの検査
この検査を行なうときは、咬合器の切歯指導板は下顎フレームと平行になるよう調節し板面を水平にしておく。上下顎の診断模型を咬頭嵌合位で固定した状態で、切歯指導桿をおろし、その尖端が切歯指導板に触れるようにする。次に咬合器を中心位に戻し、上下顎の診断模型が最初に接触したところ(中心位の早期接触)で切歯指導桿の尖端の位置を調べる。もしも中心位と咬頭嵌合位との間に垂直的なずれのある場合は、切歯指導桿の尖端は切歯指導板の面から浮きあがる。垂直的ずれの大きさを具体的に計測する方法はまだ紹介されていないが、おおよその目安としては切歯指導桿と切歯指導板の間に現われる隙間の約3分の2が中切歯部のずれの大きさとなり、またその約3分の1が第2大臼歯のずれの大きさに相当する。切歯指導桿の尖端で測ったずれの大きさは0~7.0mm(平均1.7mm)の範囲にあった。垂直的なずれの認められる場合は、2つの異なった垂直顎間距離で下顎は機能することになるため、筋組織に対する為害作用は大きいとされている。
3)ずれの方向の検査
この検査を行なうときは、フラットな切歯指導板の表面に、グラフ用紙をラインが矢状面と前頭面にそれぞれ平行になるように張りつけておく。そして咬合器が咬頭嵌合位に固定されたときの切歯指導桿の尖端の位置を記録し、これが中心位で記録した位置に対し、どのような位置関係にあるかを調べる。Lauritzen(1974)は、中心位と咬頭嵌合位の水平的ずれのあり方を3型に分類している。中心位と咬頭嵌合位が一致し両者の間にずれのないものをTHIOPと呼び、この状態ではポイント・セントリックとなり、中心位の早期接触は存在しないから、上記の2つのマークは一致する。中心位に対し、咬頭嵌合位が正中と平行にずれるものをMIOPと呼び、その量が多大な場合は中程度の為害作用がある。この場合は咬頭嵌合位のマークは中心位のマークのまっすぐ後方に記録される。中心位に対し咬頭嵌合位が側方にずれるものをLIOPと呼び、これは発現頻度が高く為害作用がもっとも大きいとされている。この場合は咬頭嵌合位のマークは中心位のマークの後方でわずかに側方に記録される。
4)接触歯の検査
この検査は厚さ12.5μmのオクルーザル・レジストレーション・ストリップス(またはshim stock)を使って行なう。Takaiら(1993)は、全顎用カーボン紙、普通のカーボン紙、ブラック・シリコーンを用いて咬合接触を調べたところ、ブラック・シリコーンがもっとも多数の接触点を検出したと述べ、またAndersonら(1993)は、カーボン紙よりshim stockのほうが咬合接触の検査精度が高いと報告している。咬合器を中心位に保持した状態で、各歯の咬合面間にストリップスを介在させて1歯ずつ検査する。早期接触の部位では、ストリップスは上下顎歯間に保持されて抜き取ることができない。早期接触の好発部位は第2大臼歯と第1小臼歯で、第1大臼歯と第3大臼歯がこれにつぐ。中心位の早期接触は、その部位が顎関節に近いほど受ける荷重が大きくなるため、有害視されている。そのため大臼歯の早期接触は重症、小臼歯の早期接触は中程度、前歯の早期接触は軽症と考えることができる。この他早期接触がどの歯面に発生するかということも重要で、上下顎の歯の近遠心歯面間に発生すればMIOPとなる。また、LIOPは2種類に区別され、早期接触の発現した側に咬頭嵌合位がずれる場合には、上下顎の機能咬頭の内斜面が衝突し、これはLIOPのなかでもとくに為害作用が大きい。咬頭嵌合位がその反対側にずれる場合には、上下顎の頬側咬頭どうし、または舌側咬頭どうしが衝突し、これはLIOPのなかではやや軽症と考えることができる。
【偏心位の診査】
偏心位の診査では、臼歯離開量のバラツキ、咬頭傾斜角、前歯誘導の3つを分析する。
1)臼歯離開量のバラツキの検査
診断模型の前歯部を外し、前歯なしの状態で咬合器の顆路指導機構と切歯指導板にガイドさせ偏心運動を行なわせる。通常1本の臼歯が咬頭干渉を起こし、その他の臼歯は接触しないことが多い。これは臼歯離開量にバラツキがあり、臼歯離開が不均一に行なわれることを示している。臼歯離開量を均一に発現させるためには、前歯なしで偏心運動を行なわせたときに上下顎の臼歯を均一に接触滑走させなければならない。なおこの検査を行なうときは咬合器の顆路と切歯指導板の調節値はそれぞれ条件1の値に合わせておく。これらの数値は第2大臼歯の平均的咬頭傾斜に沿った前方および側方咬頭路を得るために、臼歯離開量と顆路と切歯路の平均値の理論解析から導出したものである。
臼歯離開量ののバラツキと咬頭形態成分の検査における咬合器の調節値(条件1:赤線モード;アキシス平面基準)
(1)顆路:矢状顆路傾斜度25度、水平側方顆路角(ベネット角)15度、イミディエイト・サイドシフト(I.S.S.)0mm。
(2)切歯指導板:矢状傾斜角25度、(前頭)側翼角10度。
2)咬頭形態成分の検査
上記の状態で咬合器を運動させたとき、咬頭干渉がなく、上下顎臼歯が均一に接触滑走するか否か調べる。もしそうであれば、臼歯部は標準的な咬頭傾斜を有することになる。この場合は適切な前歯誘導の下で、標準値の臼歯離開量が均一に再現されることを物語っている。そして患者の切歯路が標準値から多少ずれ、そのために臼歯離開量が標準値から少しばらついても、生体上で為害性のある咬頭干渉を生じることはほとんどない。
もし上下顎臼歯の咬頭が衝突するか、あるいは離れすぎる場合はその咬頭の形態成分(具体的には咬頭路沿いの有効咬頭傾斜角)が基準値からずれていて顆路と調和していないことを意味する。これは臼歯の近心傾斜、挺出、捻転などにより引き起こされることが多い。石膏模型の衝突部(咬頭干渉)をスカルペルなどで削り取り、偏心運動中にすべての臼歯が均一に接触滑走することを確認する。スカルペルで削り取った部分は、咬頭形態が対合歯の咬頭路と水平基準面(ここではアキシス平面)に対して正しく付与されていない箇所であり、正常な臼歯離開は得られないので、その部位の処置方法について検討する。もし削除量が少ない場合は削合による咬合調整を考え、多い場合は修復または歯冠補綴を検討する。逆に偏心運動時に上下顎臼歯の咬頭が離れすぎる場合はワックスを足し、均一な接触が得られるようにする。ワックスを足した部分は歯冠修復を考える。以上で咬頭形態成分の検査を終わる。
3)前歯誘導成分のの検査
臼歯離開は咬頭形態成分の他、前歯誘導に起因する蝶番回転によっても発現する。この検査を行なうため、撤去してあった上顎模型の前歯部を再装着する。咬合器の顆路指導機構と切歯指導板を条件2の値に合わせる。咬頭形態成分の検査中に咬頭の衝突している箇所を削り取り咬頭傾斜が正しく付与されているので、臼歯離開は均一に発現しその値も標準値になるはずである。もし咬合器を動かしたときに上下顎の前歯が離れている場合は、前歯誘導が不十分であるか欠如しているわけで、臼歯離開量は天然前歯にガイドさせた場合、正常値よりも少なくなる。これはアングルの不正咬合の分類のうちII級またはIII級のような前歯被蓋の不正によって起こることが多い。またオープンバイトにより上下顎前歯の接触が失われている場合にも発現する。この場合は歯冠補綴、歯列矯正、外科矯正を考える。
前歯誘導成分の検査における咬合器の調節値(条件2:青線モード;アキシス平面基準)。
(1)顆路:矢状顆路傾斜度40度、水平側方顆路角(ベネット角)15度、イミディエイト・サイドシフト(I.S.S.)0mm。
(2)切歯指導板:矢状傾斜度15度、(前頭)側翼角20度。
反対に、ごく稀ではあるが切歯指導桿の尖端が切歯指導板の面から離れることがある。これは前歯の被蓋の不正により前歯誘導が過剰となっている例で、臼歯離開量が正常値よりも多くなる。このような症例は前歯のクラウディングなどでみかけることがある。この場合は咬合調整により上顎前歯の誘導面を削除修正することを考える。修正にあたっては、あらゆる偏心運動中に切歯指導桿の尖端が切歯指導板のガイド面と常に接触滑走するようにすればよい。いずれにしても前歯誘導が切歯指導板上に再現されている標準値よりもずれる場合は臼歯離開量に誤差を生じることになる。
4)クロスバイト
咬頭形態成分と前歯誘導成分が正しく付与されているにもかかわらず、臼歯離開が発生しないことがある。これは臼歯のクロスバイトの症例によくみられる現象で、上顎の頬側咬頭が下顎の咬合面窩に噛みこんでいるために、側方運動時の作業側で上顎頬側咬頭の舌側斜面と下顎舌側咬頭の頬側斜面との間に咬頭干渉が発生する。この場合クロスバイトを是正しない限り正常な臼歯離開は得られないので、歯列矯正または歯冠補綴を検討する。
【生物的診査】
生物的検査は、機械的診査によりみつけた咬合異常が生体に及ぼす為害作用を確認するために行なう。生物的診査には咬合音を診査するためのサウンド・チェッカー、筋機能を分析するためのEMG、MKG、顎関節の機能を診査するためのMR-CTとソノグラフなどのエレクトロニクス機器が用いられている。しかしこれらの機器は高価で、使用法が複雑なため、必ずしも一般の臨床家の使用に適しているとはいえない。ここでは特別の器具を必要とせず、日常の臨床に簡単に利用できるという意味でクロ・ポールセンの筋診断法を紹介する。クロ・ポールセンの筋診断法はKrough-Poulsenによって案出された方法で、咀嚼筋とその関連する筋の触診を主体とし、顎口腔系の機能異常を総合的に診断する方法である。顎口腔系の機能障害の原因はいろいろあげられているが、咀嚼筋やそれに付随する関連筋の障害により顎関節の機能異常を起こす場合もかなり多い。この点に注目したのがKrough-Poulsenで、彼の診断法は1950年代に確立された。
系統立てられた触診法で、触診する部位と順序が決められており、その結果を指定されたチャートに書きこむことにより、圧痛点の分布状態が一目でわかる。この検査のひとつひとつのステップはラフで、単独では信頼性に乏しいが、全体的にみると咬合に関する筋の機能的障害が把握できる。通常、触診法による圧痛点は咬合異常のある側の筋に現われやすい。そして各筋の機能上の関連性を知っていると、その緊張が下顎を前後的に偏位させるために起きたのか、あるいは側方に偏位させるために起きたのか、ある程度鑑別できる。この他咬合音や顎関節音の聴診、最大開口量と最大開口位の偏位などの測定を加えて顎口腔系の機能異常を総合的に診断できるようになっているため、これらを咬合の機械的診断で得たデータと照合することにより、咬合異常と咬合に関連する筋群の機能異常を総合的に分析することができる。以下クロ・ポールセンの筋診断法(1968)の要点を項目ごとに列挙する。
【顎機能の診断】
1)最大開口量の測定
患者にできるだけ大きく開口させて、下顎前歯の切端から上顎前歯の切端までの距離を測る。開口量が40mmを越えるときは正常で、それ以下の場合は開閉筋群の障害を疑う。
2)最大開口時の下顎の偏位の方向検査
偏位した側の顎関節または筋群の異常を疑う。
3)咬合音の聴診
聴診器を頬骨弓の上にあて、上下顎歯を強く嵌合させてその衝突音を聴く。音が単音で金属音で澄んでいるときは正常、濁音で“ベチャベチャ”している場合は、咬頭干渉を疑う。
4)顎関節音の聴診
聴診器を顎関節の上にあて、患者にゆっくり開閉運動をさせながら、クリック音や捻髪音などの雑音の有無を調べる。クリック音があれば外側翼突筋の機能低下を疑い、捻髪音を聴くときは関節円板の変性など顎関節内の器質的変性を疑う。
【筋の触診】
この触診法の原則は、術者が指で触診する部位を両側同時に、同等の力で押すことである。このとき患者に左右の押された感じに差があるかどうかを聞き、また押されたことにより不快感を生じたか、あるいはその大きさに左右の差があるかをたずねる。もし、痛みを感じるときはその大きさに左右の差があるかをたずね、結果をチャートに記入する。この触診法はすべて左右の圧痛などを比較するという方法で行なわれる。以下クロ・ポールセンの方法に従って述べる。
1)顎関節部の触診
顎関節部を外側から触診する方法と、外耳道から触診する方法の2つがあり、外側からの触診だけに圧痛のあるときは外側翼突筋の異常を疑い、外側と外耳道の両方に圧痛のあるときは顎関節の異常を疑う。
2)咬筋の触診
浅部と深部を触診する。咬筋の浅部は下顎を挙上するために働くので、ここに圧痛がある場合は、その側の咬頭干渉を疑う。また咬筋深部は下顎を後退させる働きをするので、この部分に圧痛がある場合は中心位の早期接触を疑う。
3)側頭筋の触診
前部筋束と後部筋束を触診する。前部筋束は下顎を挙上するために働き、咬頭干渉によって侵されやすい後部筋束には下顎を後退させる働きがあるが、後部に圧痛があることは少ない。
4)頭頂の触診
頭頂には筋膜があり、筋の緊張の高まった側へ引かれるために、顎関節症の患者はしばしばこの部分に圧痛を訴える。
5)後頭部の頚部筋群の触診
下顎が偏心運動を営むとき後頭部の頚部筋群は頭部を固定する働きをする。このため常時下顎が偏位する場合は、この筋群が侵されやすい。
6)胸鎖乳突筋の触診
胸鎖乳突筋が片側性に働くときは側方運動時に、また両側性に働くときは前方運動時に、それぞれ頭部を固定する働きをする。触診は鎖骨頭と頬骨頭の起始部と筋腹の3か所で行なう。この筋に圧痛がある場合は、側方または前方へ下顎を偏位させる咬頭干渉を疑う。
7)内側翼突筋の触診
この部分に圧痛があるときは、下顎の閉口筋群の異常を疑う。内側翼突筋は、咬筋の浅部と同時に侵されることが多い。
8)顎二腹筋の後腹の触診
この筋は咬筋の深部とともに下顎を後退させる働きをするので、中心位の早期接触がある場合などに侵されやすい。
9)側頭筋腱部の触診
この検査は口腔内で行なう。側頭筋腱部は側頭筋前部筋束と同時に侵されることが多い。
10)外側翼突筋の触診
この筋は口腔内で片側ずつ触診する。外側翼突筋は下顎のあらゆる偏心運動に関連する重要な筋で、咀嚼系の機能障害があるときは、必ずといってよいほどこの筋に異常が現われる。ただし、正常者においても圧痛は認められる。下顎が偏位するときは、外側翼突筋は常時緊張して顆頭を前方にけん引する。そのため中心位の早期接触がある場合は、この筋は程度差はあっても必ず障害を起こす。また非作業側の咬頭干渉がある場合もこの筋は侵されやすい。
11)分析
以上の結果をチャートに記入し、咬合に関与する筋群の機能障害の関連性を総合的に診査する。この検査のひとつひとつは、術者の左右の手指の圧力や患者の主観による疼痛感に差異があるため、信頼性に乏しいようにみうけられるが、総合的にみると、圧痛点の分布にそれぞれの機能的な意味が含まれ、実用価値の高いデータが得られる。しかしこの診断法はあくまでも患者の主観の入りうる顎口腔系機能の生物的診査法であり、客観性に欠ける面があることは否めない。そこでこの咬合の診断法には、必ず機械的な診断法を併用し、咬合器上で得られたデータと組み合わせることによって、相乗的に診断の確度を向上させることが望ましい。