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咬合面形態

【読み】
こうごうめんけいたい
【英語】
Occlusal morphology
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
⇒下顎運動が咬合面に与える影響 
下顎運動は、後方の制御と前方の制御によって、運動範囲が制限されている。後方の制御は顆路(顆路誘導)を意味し、前方の制御は前歯の被蓋(前歯誘導)を意味している。これらの制御は互いに助け合って下顎運動に関与し、咬合面の形態を決定するとされている。後方と前方の制御によって影響される咬合面の形態には、咬頭の高さと窩の深さ、隆線と溝の方向などがある。Guichetは後方の制御は解剖的に決定され、歯科医の手によって変更することはできないが、前方制御は人工的に修正することができる。しかしその修正の範囲にはおのずから制限があり、修正は両者の調和を乱さない範囲で行なわなければならないと説明している。
【ナソロジーにおける説明】
下顎運動中に各要素が咬合面に与える影響について、従来ナソロジーでは次のように説明していた。
1)前方顆路傾斜度(後方の制御)
前方顆路傾斜度が急であれば咬頭は高くつくることができる。前方顆路傾斜度が緩やかなほど、咬頭は低くつくらなければならない。
2)F.O.P.角(後方の制御)
前方顆路の延長線と咬合平面の延長線とがなす角度をいう。F.O.P.角が0度に近づくほど(前方顆路と咬合平面が平行に近づくほど)、上下顎の歯は離開しにくくなるので、咬頭は低くつくらなければならない。F.O.P.角が大きければ上下顎の歯は離開しやすくなるので、咬頭は高くつくることができる。
3)スピーの彎曲(後方の制御)
スピーの彎曲が強い場合は、近心に植立する歯の咬頭は高くつくることができ、遠心に植立する歯の咬頭は低くつくらなければならない。
4)顆頭間距離(後方の制御)
顆頭間距離が大きいほど、側方運動中に非作業側の顆頭は垂直方向に移動するから、咬頭は高くつくることができる。顆頭間距離が小さいほど、咬頭は低くつくらなければならない。下顎臼歯の咬頭が通過する方向は、顆頭間距離が大きいほど近心に向かう。上顎臼歯の咬頭が通過する方向はこの逆になる。
5)水平側方顆路角(ベネット角、後方の制御)
ベネット角が大きいほど側方運動中に下顎は水平方向に移動するから、咬頭は低くつくらなければならない。下顎臼歯の咬頭が通過する方向は、ベネット角が大きいほど遠心に向かう。
6)イミディエイト・サイドシフト(後方の制御)
イミディエイト・サイドシフトが大きいほど側方運動中に下顎は水平に移動するから、中心溝の幅を広げなければならない。下顎臼歯の咬頭が通過する方向は、イミディエイト・サイドシフトが大きいほど遠心に向かって彎曲が強くなる。
7)ベネット運動(後方の制御)
ベネット運動が上方に向かうときは、上下顎の臼歯は離開しにくいので咬頭は低くつくらなければならない。逆にベネット運動が下方に向かうときは、咬頭を高くつくることができる。
8)ベネット運動(後方の制御)
ベネット運動が後方に向かうときは、下顎臼歯の咬頭が通過する方向は、より遠心に向かう。逆にベネット運動が前方に向かうときは、下顎臼歯の咬頭が通過する方向はより近心に向かう。
9)オーバージェット(前方の制御)
オーバージェットが大きい場合、前方運動がはじまっても上下顎臼歯はすぐに離開しないので、咬頭は低くつくらなければならない。
10)オーバーバイト(前方の制御)
オーバーバイトが大きい場合、前歯はすぐに上下顎臼歯を離開させるので、臼歯の咬頭は高くつくることができる。
【最近の研究による知見】
保母と高山の下顎運動理論式(高山 1987、Takayama、Hobo 1989、高山 1993)に基づいたコンピュータ演算の結果、顆路と切歯路の咬頭路への影響度が次のように定量的に明らかになった(保母、高山 1995)。この結果を2元1次式で近似した理論式は小川ら(1992)が3次元6自由度の計測能力をもつ電子的下顎運動計測装置を用いて50名の正常有歯顎者の前方運動を計測したデータから統計的に推測した実験式とよく一致することが検証されている(棟久 1996)。
以下に第1大臼歯における算出結果を示す(括弧内は第2大臼歯において算出した参考値)。
垂直面投影上における咬頭路への影響度
1)前方運動(矢状面)の咬頭路への影響度
(1)矢状顆路傾斜度が標準値40度から20度減少すると第1大臼歯の矢状前方咬頭路傾斜度が約5度(7度)減少し、
(2)矢状切歯路傾斜度が標準値45度から20度減少すると第1大臼歯の矢状前方咬頭と傾斜度が約15度(13度)減少する。
以上から顆路が標準値から20度緩やかになっても咬頭路は咬合面に少ししか接近しないのに、切歯路が標準値より20度緩くなると咬頭路は咬合面すれすれに接近することがわかる。
2)側方運動(前頭面)の作業側咬頭路(咬頭沿い)への影響度
(1)歯の前頭咬頭路傾斜度が約1度(0.3度)増加し、
(2)頭切歯路傾斜度が標準値30度から20度減少すると第1大臼歯の前頭咬頭路傾斜度が約17度(16度)減少し、
(3)ベネット角が標準値15度から15度減少すると第1大臼歯の前頭咬頭路傾斜度が約1度(1度)増加する。
3)側方運動(前頭面)の非作業側咬頭路(咬頭路沿い)への影響度
(1)度減少すると第1大臼歯の前頭咬頭路傾斜度が約5度(6度)減少し、
(2)咬頭路傾斜度が約15度(13度)減少し、
(3)ベネット角が標準値15度から15度減少すると第1大臼歯の前頭咬頭路傾斜度が約1度(2度)増加する。
以上から非作業側では前方運動におけると同様に、顆路が標準値より20度緩くなっても咬頭路は咬合面に少ししか接近しないのに、切歯路が標準値より20度緩くなると咬合面にほぼ接触することがわかる。また作業側では顆路が標準値から20度緩くなっても咬頭路は咬合面の近くに貼りついたままほとんど変化せずわずかに離開するだけなのに、切歯路が標準値より20度緩くなって10度になると咬頭路は咬頭内部にくいこんでしまうことがわかる。
以上を要約すると、前方運動(矢状面)における顆路傾斜と切歯路傾斜の第1大臼歯咬頭路傾斜に対する影響度比率は25:75(第2大臼歯では35:65)であり、側方運動(前頭面)における顆路傾斜と切歯路傾斜とベネット角の第1大臼歯咬頭路傾斜に対する影響度比率歯、作業側で5:90:5(第2大臼歯では2:87:1)。非作業側で24:71:5(第2大臼歯では29:62:9)である。特記すべきことは顆路傾斜と切歯路傾斜の影響度比率は、作業側を除きほぼ1:3(第2大臼歯では1:2)で後者のほうが大きい傾向が歴然としており、従来の通念と逆になった。また作業側における顆路傾斜の影響度は切歯路傾斜のそれの6%以下でほとんど無視できる大きさであり、さらに増減の符号が逆向きになることがわかった。
水平面投影上における咬頭路への影響度
1)側方運動(水平面)の作業側咬頭路への影響度
(1)矢状顆路傾斜度が標準値40度から20度減少すると、第1大臼歯の水平側方咬頭路が約3度(3度)近心または遠心へ移動し、
(2)前頭切歯路傾斜度が標準値30度から20度減少すると第1大臼歯の水平側方咬頭路が約13度(14度)遠心または近心へ移動し、
(3)度から15度減少すると第1大臼歯の水平咬頭路が約8度(9度)遠心または近心へ移動する。
2)側方運動(水平面)の非作業側咬頭路への影響度
(1)矢状顆路傾斜度が標準値40度から20度減少すると、第1大臼歯の水平側方咬頭路が約1度(2度)遠心または近心へ移動し、
(2)前頭切歯路傾斜度が標準値30度から20度減少すると第1大臼歯の水平側方咬頭路が約10度(10度)遠心または近心へ移動し、
(3)第1大臼歯の水平側方咬頭路が約11度(13度)遠心または近心へ移動する。
以上から作業側では顆路傾斜度が標準値から20度減少しても咬頭路が第1大臼歯の舌側溝の近傍に貼りついたままほとんど動かないのに対し、切歯路傾斜度が20度減少すると咬頭路は舌側溝から大きく外れてしまうことがわかる。
以上を要約すると、側方運動(水平面)における顆路傾斜と切歯路傾斜とベネット角の水平側方咬頭路に対する影響度比率は、作業側で11:61:28(第2大臼歯では7:48:45)である。特記すべきことは水平面では顆路傾斜の咬頭路への影響はわずかで、代わりに前頭面ではあまり影響力をもたなかったベネット角の影響力が顕著になった点で、切歯路傾斜とベネット角の影響度比率は、作業側で68:32(第2大臼歯では63:37)、非作業側で58:42(第2大臼歯では52:48)となる。
表に矢状または前頭咬頭路傾斜度に顆路と切歯路が及ぼす影響の概略比を示す。
Romerowski(1990)は、スチュアート咬合器の臼歯部にタービンを取りつけ、プラスチックブロックをバーにより削る方法で、アンテリア・ガイダンスやベネット運動の顆頭路への影響を調べた。ベネット運動laterotrusionは当然そのままの大きさで咬頭路に影響するという結果が出ているが、アンテリア・ガイダンスについてはその傾斜が急になると水平側方咬頭路が作業側、非作業側ともに近心方向へ移動し、緩やかになると遠心方向へ移動するという上記解析と同様の結果が述べられている。
Price、Kolling、Claytonら(Kollingら 1988、Priceら 1991、91)は、全調節性咬合器(Denar SE)の第1大臼歯部に描記針を取りつけ、対合歯の咬合面上に咬頭路を水平面、矢状面および前頭面内でトレースする装置を製作し、(1)プログレッシブ・サイドシフト、(2)矢状顆路傾斜度、(3)イミディエイト・サイドシフト、(4)顆頭間距離、(5)咬合器の後壁と上壁の咬頭路への影響を測定した結果を図示している。Priceらは、この研究で切歯指導板に平坦な水平板を用いたため、とくに矢状面と前頭面内においてほとんどの咬合器が対合歯の咬頭内部を貫通するような奇妙な結果が図示されており、まともな比較の対象にはならないが、プログレッシブ・サイドシフト(またはベネット角)と矢状顆路傾斜度の増減が咬頭路に影響する向きについては彼らの結果も上述したコンピュータの算出結果と一部を除き、おおむね同じ傾向を示している。
⇒咬頭路