コステン症候群
- 【読み】
- こすてんしょうこうぐん
- 【英語】
- Costen syndrome
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- 耳、副鼻腔、顎関節などの機能不全を主徴とする症候群。1934年、米国の耳鼻咽喉科医Costenによって命名された。その臨床症状として、1)難聴や耳鳴り、耳閉塞感、耳痛などの耳症状、2)開口障害、顎関節部の疼痛や雑音の発生などの顎関節症状、3)後頭部や頭頂部の疼痛、副鼻腔性疼痛などの頭部症状、4)舌や咽頭の灼熱感や異和感などの口腔咽頭症状などがある。米国においては頭蓋下顎障害に系統的な考察を行なったパイオニアとされる。歯科領域では顎関節症の発生機序のひとつとして注目されてきた。
Costenは、歯の欠損や咬耗による低位咬合が原因となり、下顎頭が後上方に偏位して常に下顎窩を圧迫する結果、この部の骨の圧迫、穿孔およびこの周囲を通過する鼓室神経や耳介側頭神経を刺激して本症候群が発生するとした。そして、このような顎関節部に働く外力により引き起こされる症状は下顎窩に対する圧迫を除くことにより治癒すると考え、具体的な治療法として患者の咬合を挙上することを推奨した。この目的にはスプリントとしてコルク栓を厚さ2~3mmにスライスしたものを用いた。これはCosten’s cork discと呼ばれた。また、下顎位をX線的に観察するために8×10inchのカセッテで1枚のフィルムに左右の経頭蓋法を撮影した。しかし、Costenの考え方に対する反論も多い。Sicher(1948)は、下顎頭は関節後結節に対して、その反対方向に進む性質をもつため、下顎頭が後方へ置換することは考えられないとし、さらに、Fowler(1939)は歯の喪失が必ずしも難聴の原因にはならないと指摘している。また、無差別な咬合の挙上は非常に危険であるという考えから、Costenの治療法を疑問視するものもある。とくに、McCollum(1955)は顆頭の位置異常により、このような症候群が起こされることに疑問を抱き、無意味な咬合の挙上よりも、患者に正常な咬合を与えるほうがはるかに優れた治療法であると指摘している。今日では、コステン症候群は、解剖的および生理学的な根拠不足のため、顎関節症の原因としてはあまり重視されなくなった。しかし、上述のように比較的早い時期に頭部、顎関節の症状を咬合に関連づけて追求した業績は高く評価されている。