終末蝶番軸
- 【読み】
- しゅうまつちょうばんじく
- 【英語】
- Terminal hinge axis
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- ⇒ターミナル・ヒンジアキシス 顆頭が下顎窩内の最後退位にあるとき、左右の顆頭中心を水平に結ぶ仮想線上に生ずる下顎の開閉軸。水平基準軸のひとつ。終末蝶番軸ともいう。McCollum(1921)は、顆路と調和した補綴物を製作するには咬合器上に精密に下顎位を再現して下顎運動を正確に再現する必要があり、上下顎歯列の正しい相対的位置関係を定める基準が必要であると考えた。そのためには下顎の開閉軸を咬合器の開閉軸と一致させることが必須条件となる。McCollumは顆頭を下顎窩の最後壁にしっかりおさえつけて下顎を開閉させると、顆頭の後部は下顎窩の後壁面に固定され、純粋な回転運動が行なわれると考えた。事実、下顎にヒンジ・ロケータを取りつけ、スタイラスが顆頭部を指示するようにして上記の状態で開閉運動を行なわせると、スタイラスは円弧を描く。スタイラスの位置を円弧の中心に向かって移動させると、やがて開閉運動中にスタイラスの尖端は静止し回転のみを行なうようになる。この位置で下顎は10~13度(切歯点部の開口量にして16~20mm)の範囲で蝶番の運動に似た純粋な回転運動を行なう。McCollumはこの事実を、下顎が純粋な蝶番回転運動を行なう実験的証明であると考え、左右のスタイラスの尖端を結ぶ仮想線を下顎の回転軸とした。この回転軸は顆路の最後方の末端に現われることからターミナル・ヒンジアキシスと名づけられた。
【計測方法】
ターミナル・ヒンジアキシスの測定は、試行錯誤法により行なわれる。患者に後方境界開閉運動を営ませ、その間に患者の顎関節部をさしているスタイラスの軌跡を調べる。もしスタイラスが弧を描くようであれば、弧の中心に向かってスタイラスを移動させる。この操作をくり返しながら、スタイラスが1点上で回転するだけで、弧を描かなくなる位置を探す。
測定にはクラッチとヒンジ・ロケータとフラッグが必要である。まずクラッチを患者の歯列に試適した後、内面にユーティリティ・ワックスを貼りつけ、クラッチ撤去時に石膏が簡単に分割できるようにしておく、クラッチの内面に即硬性の石膏を盛り、下顎歯列に固定する。石膏が硬化したら、患者の顎関節部にグラフ用紙を貼る。クラッチの柄に患者の水平面と前頭面に対して平行になるようにクロスバーを固定する。クロスバーに左右のサイドアームを取りつけ、スタイラスが顆頭の中心をさすように調節する。
患者のオトガイ部がなるべく高くなるように安頭台の位置を調節して、下顎を最後退位に誘導しやすくし、試行錯誤法によりターミナル・ヒンジアキシスを求める。最後退位で下顎を1横指~1横指半開口させ、このときのスタイラスの軌道を調べる。スタイラスが下方へ弧を描くときはターミナル・ヒンジアキシスは後方に、上方へ弧を描くときは前方に、前方へ弧を描くときは下方に、後方へ弧を描くときは上方に、それぞれ存在することになる。この操作をくり返し、スタイラスが1点で回転するだけで弧を描かなくなる位置を求める。測定後、皮膚上にターミナル・ヒンジアキシスの位置を印し、再びグラフ用紙で皮膚面を隠し、同じ操作をくり返し、最低3回測定を行なう。毎回同じ位置がマークされるようであれば、正しくターミナル・ヒンジアキシスが計測されたと考えてよい。
測定後、患者をもとの姿勢にもどしグラフ用紙を外す。スタイラスの先端に鉛筆のカーボンを塗りつけ、下顎をヒンジアキシス測定中の下顎位まで後退させてから、スタイラスを皮膚面に接触させ、位置を印す。このとき患者の頭部を安頭台から離し、皮膚にストレスがかからないようにする。マークは患者の皮膚上にタトゥー(入れ墨)して、永く残しておくと便利である。これにより基準面(軸眼窩平面)をいつでも再現できるようになる。
フルマウス・リコンストラクションの治療過程で、再三再四にわたり診断模型、作業模型、リマウント模型などの模型類を咬合器上にマウントする操作がくり返される。そのつど、ターミナル・ヒンジアキシスを測定するのでは時間の無駄であり、また患者の負担も大きい。そういった意味でマークをタトゥーしておくのは実際的方法といえる。
社会通念として、患者は入れ墨という言葉には非常に敏感なので、パーマネント・マークとかヒンジ・マークといった、抵抗の少ない言葉を選んで表現するほうがよい。この操作には、27ゲージ程度の太さの滅菌された注射針と染料にする墨汁または酸化水銀が必要である。染料を適量だけダッペン・グラス中にとる。酸化水銀の場合はグリセリンを加えてクリーム状にしておく、針の先端に染料を少量つけ、あらかじめ消毒しておいたマークの周囲の皮膚を引きのばして、針を約2mm刺入する。皮膚を引きのばすと疼痛が軽減される。刺入した針をその位置で回転させ、針を皮膚から引き抜く。皮膚をアルコールで拭きマークが明確に印記されていることを確かめる。タトゥーされたマークが左右の後方基準点となる。
ヒンジアキシス・トランスファには、左右の後方基準点の他にもう1つ前方基準点が必要である。前方基準点も同様の方法で入れ墨できるが、鼻稜部の入れ墨は激しい疼痛をともない、審美的にも好ましくないので、中切歯の切端と内眼角の2か所から測定した数値を用い再現するのが普通である。前方基準点の設定法は、使用する咬合器の種類によって異なるが、石膏模型を咬合器の上下顎フレームの中間の位置に取りつけるためには、咬合器の顆頭中心と下顎フレームまでの距離を、2で除した値を上顎前歯切端から上方に求め設定するのが一般的な方法である。
バイトフォークに軟化したモデリング・コンパウンドを巻きつけ、患者にセントリックでしっかりと噛ませる。モデリング・コンパウンドが硬化したら口腔外に取り出し、咬頭頂の圧痕だけを残し余剰な部分はトリミングする。再びバイトフォークを患者にしっかりと噛ませたらバイトフォークの柄にクロスバーを固定する。クロスバーは患者の左右の瞳孔に一致し、前頭面と平行になるように固定するとよい。クロスバーに左右のサイドアームを固定し、スタイラスが後方基準点をさすようにする。スタイラスの固定ピンを締めて、スタイラスが正中方向へ動かないようにする。リファレンスポインタをクロスバーに取りつけその先端が前方基準点をさすようにする。以上の操作が終わったら、患者の皮膚を傷つけないように注意しながら、ヒンジボウを一体として口腔外に取り出す。
ヒンジボウをトランスファ・ボードに固定し、固定ピンを参考にしてスタイラスをもとの位置までもどし、左右のスタイラスの先端が患者の顔面上で測定したときと同じ幅になるようにする。ターミナル・ヒンジアキシスのトランスファには、ヒンジアキシス・トランスファ・ジグを使用する。左右のスタイラスの先端を結ぶ線がターミナル・ヒンジアキシスとなるから、もし測定後にスタイラスの位置を変えると、ヒンジアキシスは狂うことになる。そのため、計測されたスタイラス間の距離に合わせ、咬合器の顆頭間距離を変更する必要がある。これができない場合は、ターミナル・ヒンジアキシスを正確にトランスファすることはできない。目測法に用いるシンプルボウでは、測定後にスタイラスの幅を変更して、咬合器のコンダイラー・エレメントに適合させるのでトランスファの精度は大幅に低下することになる。
ヒンジアキシス・トランスファ・ジグは、エクステンションピンのついている上顎フレームと、これを支持するフィクチャー・ベースからできている。ジグをトランスファ・ボードにのせ、左右のエクステンションピンを等距離ずつ移動させて、左右のスタイラスの先端と正確に一致させる。正中を正しくトランスファするためには、左右のエクステンションピンを正中から等距離移動させる必要がある。次にスタイラスの先端がエクステンションピンのわずかに上方をさすように、ヒンジボウの位置を調節する。オービタル・ポインタの先端をオービタル・インディケータの下面に接触させれば、前方基準点は咬合器へ伝達される。患者のターミナル・ヒンジアキシスと咬合器の開閉軸とを一致させる操作は、次のようにして行なう。まずトランファ・ジグを前後的に移動し、エクステンションピンとスタイラスが前後的に一致するようにする。つづいて、フィクスチャー・ベースの後方についているエレベーティング・スクリューを上下させて、上下的なずれを調節する。エクステンションピンとスタイラスの先端がぴったり一致したら、ターミナル・ヒンジアキシスは咬合器に正しくトランスファされたことになる。
上顎模型を取りつけるときは、トランスファ・ボードの後方についているクランプでフィクスチャー・ベースをしっかりと固定する。上顎模型の重量でバイトフォークがたわまないように、バイトフォークの下面にキャスト・サポートを取りつける。セントリックの精度を確認するために、上顎模型の基底面をスプリット・キャスト用に仕上げておくとよい。バイトフォークの圧痕の上に上顎模型を適合させ、石膏で固着する。以上で、ターミナル・ヒンジアキシス・トランスファが完了する。
【目測法】
解剖的平均値を用い、目測法によりターミナル・ヒンジアキシスを求めることもできる。後方基準点は外耳道から眼耳平面上に11~13mm、前方の位置に定める。このために各種のロケータが発売されている。このようにして求めた後方基準点は真のターミナル・ヒンジアキシスと33%(Craddock、Symmons 1952、Lauritzen 1961)、87%(Beyron 1942)、95%(Schallhorn 1957)の症例において、5.0mm以内の誤差があったと報告されている。吉野ら(1970)は、50名の被験者について、100点のターミナル・ヒンジアキシスを実測し、実測値と目測値が4mm以上離れたものが30%以上あったと報告している。臼井ら(1975)は、20名の被験者について40点のターミナル・ヒンジアキシスを実測し、目測値との距離を比較し、5mm以下のものは61.5%で、実測値が目測値の後方下に位置したものが74.4%、前上方に位置したものは1例もなかったと述べている。以上の説明でも明らかなように目測法には誤差が多い。しかしGuichet(1970)は、補綴治療に先立って咬合調整を行ない、中心位と咬頭嵌合位とを一致させておけば、上下顎歯が嵌合した状態でもセントリック・バイトを採得することができ、開閉運動の誤差は精密に再現されるから、わざわざターミナル・ヒンジアキシスを実測しなくてもよいのではないかと述べている。
【ターミナル・ヒンジアキシスの変遷】
McCollumらはターミナル・ヒンジアキシスが顎関節の構造により規制されるため再現性が高いと考えた。この回転軸を咬合器の回転軸に一致させれば、咬合器上に患者の上下顎が開閉する際の下顎の回転軸を精密に再現できることになる。以上からMcCollumはこの回転軸の得られる下顎位を中心位と名づけたことは上述した。この考え方はナソロジー学派の教義としてその後数十年にわたり受けつがれたが、1973年にCelenzaにより大幅に修正された。それまでのナソロジーでは顆頭が最後退位(RUMポジション)にあるときに顎関節は生理的に安定な状態にあると考えてきたが、この位置は顆頭を最後上方におしつけて無理に純粋な蝶番回転運動を生じさせたもので非生理的な位置であり、顎関節の軟組織に不必要な緊張を引き起こすということから、批判的な態度をとる人々も多かった。Celenzaはナソロジーのオーソドックスな術式に従って、ポイント・セントリックを付与した32症例のフルマウス・リコンストラクションの術後、2~12年の咬合状態を調べ、中心位と咬頭嵌合位が一致したのはわずか2症例で、残りの30症例は術後に中心位と咬頭嵌合位との間に0.02~0.36mmのずれを生じたと述べている。このことからCelenzaは顆頭を最後退位におしつけるようにして中心位を求めても、ある年月の間にその顆頭位は生理的に是正されるのではないかと述べ、顆頭が下顎窩内の“前上方位”にある状態が中心位としてもっとも好ましいという見解を発表した。こうして中心位の定義が最後退位(RUMポジション)から前上方位へ変更されたのにともない、GPT-5(1987)からターミナル・ヒンジアキシスに代わり、トランスバース・ホリゾンタルアキシスという用語が用いられるようになり、その定義も下顎が下顎窩の前上方位に位置したときの上顎基準座標系に固定された仮想軸に変更された。
水平基準軸としてターミナル・ヒンジアキシスの代わりにトランスバース・ホリゾンタルアキシスが用いられるようになったが、トランスバース・ホリゾンタルアキシスを臨床的に実測する方法はまだ提示されていない。したがって臨床的にはフェイスボウ・トランスファに際し、後方基準点としてターミナル・ヒンジアキシスを用いざるをえない。平均値でターミナル・ヒンジアキシスを求め、その誤差を±5mmとした場合、咬合位に生じる誤差はマッシュバイトを用いた場合は最大100μmにとどまるものの、厚さ3mmのセントリック・バイトでは最大400μmに達する(保母、高山 1995)。したがって開口位で採得したセントリック・バイトを用いて下顎模型を取りつける場合には、水平基準軸の位置誤差の影響を避けるために、後方基準点は実測により求めなければならない。後方基準点を実測するときは、顆頭を関節窩の最後退位におしこみ接面回転を生じさせる必要があるため、オトガイ誘導法を用いることになるが、これにより求められる水平基準軸はターミナル・ヒンジアキシスであり、トランスバース・ホリゾンタルアキシスではない。
一方、下顎模型を取りつけるためのセントリック・バイトは、アンテリア・ジグやリーフ・ゲージを用いた前上方位で採得され、下顎をわずか開口させた状態で行なわれる。このときの水平基準軸はトランスバース・ホリゾンタルアキシスとなる。その結果、ターミナル・ヒンジアキシスでマウントした上顎模型に対してトランスバース・ホリゾンタルアキシスを用いて採得したセントリック・バイトで下顎模型をマウントするかたちになり、2つの水平基準軸を混用する結果となる。両者の差が誤差となって咬合位のずれを生じることが考えられる。
2つの水平基準軸を生じる顆頭の位置の差は平均0.25~0.30mmであり(保母、岩田 1984、Hobo,Iwata 1985)、この誤差による影響はセントリック・バイト採得時の開口量を3mmとした場合、咬合位でも最大24μm、偏心運動時における咬頭路では最大6μm前後にすぎない(保母、高山 1995)。したがって、セントリック・バイトを採得するときに2つの水平基準軸を用いることにより生ずる咬合位のずれは無視できる。このようにターミナル・ヒンジアキシスは、定義上ではトランスバース・ホリゾンタルアキシスにとって代わられたが、臨床上では今日的意義をまだ失っていない。