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神経筋機構

【読み】
しんけいきんきこう
【英語】
Neuromuscular system
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
中枢神経と末梢神経とによって筋が調節され反射的に身体の位置や運動を精密、かつ合目的に制御するメカニズム。顎口腔系における神経筋機構の役割りは、咀嚼、嚥下、発音などの諸機能をもっともストレスの少ない生理的な状態で行なわせることにある。咬合の不調和、齲蝕、歯周疾患などがあると、顎口腔系に存在する受容体が局所的に過大なストレスを感知し、その情報を求心性インパルスに変換して中枢神経に伝達する。その情報は中枢で処理されて遠心性インパルスに置換され、咀嚼筋を支配する三叉神経運動核などに働きかけ、局所の効果器である顎口腔系の筋や腱などの活動を反射的にコントロールして、下顎の位置や運動をもっともストレスの少ない状態に保つように作用する。
【受容体】
受容体は、内外の刺激を神経性インパルスに変換しそれを中枢神経に中継する役割りをもっている。受容体は、普通外受容体、内受容体、固有受容体の3群に分類され、主に外受容体と固有受容体とが下顎運動と下顎の位置の調節とに関与しているが、もっとも神経筋機構と関連が深いのは固有受容体である。固有受容体は感覚神経の終末にあり、体の位置や運動および圧の情報伝達に関与している。固有受容性感覚は筋紡錘、ゴルジの腱器官、パッチーニ小体およびある種の自由神経終末のような固有受容体にて中継される。筋紡錘は咀嚼筋の固有受容体としてもっとも重要である。これは哺乳動物では側頭筋に多くみられることから側頭筋が、下顎運動を制御する主導的役割りを果たしていると考えられている。筋紡錘は伸展筋に多く存在しており、筋の姿勢的な機能に役立っている。直列に並んでいる腱器官とは対照的に、筋紡錘は筋線維と平行に並んでいる。だから筋紡錘は筋線維が引き伸ばされるときに興奮する。また、筋紡錘からのインパルスは抑制作用を有する腱器官に比べて興奮性が高い。ゴルジの腱器官は腱に存在し、筋の伸展や収縮に反応して閉口筋の緊張を反射的に調節する役割りを果たすといわれている。パッチーニ小体は圧受容体で皮下の結合組織、骨膜、靭帯および関節包内に存在する。顎関節包内にもパッチーニ小体があり、顎関節における下顎頭の位置を反射的に調節している。歯根膜中に存在する受容体は単根歯、複根歯とも歯根膜の中間部に多い。受容体の密度は前歯で高く、臼歯では低い。前歯の歯根膜に受容体が多いということは、食物の切截や性状の識別に有利であることを示している。前歯中では犬歯にもっとも受容体が多く、このことはミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンの理論的基盤になっている。刺激は、これらの受容体で神経性インパルスに変換されて神経伝導路に伝達される。
【求心性神経伝導路】
この神経伝導路は中枢神経と末梢の受容体を接続し、求心性インパルスを伝達する働きをする。閉口筋の筋紡錘からの求心性インパルスは、三叉神経の運動根を上行し、三叉神経中脳路核を経て、また関節包にある受容体からの求心性インパルスは半月神経節から三叉神経脊髄路核を経て、それぞれ三叉神経運動核でシナップスを構成し、閉口筋支配の運動神経に対して抑制的に働く。歯根膜、歯肉、口腔粘膜、歯髄、顎関節包や三叉神経第2枝、第3枝支配の顔面皮膚領域にある受容体からの求心性インパルスは、半月神経節から三叉神経主知覚核、脊髄路核を経て、同運動核のうち開口筋支配の運動神経に対して促進的に、閉口筋支配の運動神経に対して抑制的に働く。歯根膜などにある一部の圧受容体からの求心性インパルスは三叉神経中脳路核、主知覚核を経て開口筋支配の運動神経に促進的に働き、この他中脳路核を経て直接開口筋支配の運動神経に達して、これに促進的効果を及ぼすといわれている。一方、求心性のインパルスは、さらに上位中枢へ上行して、他領域からのインパルスと統合される。
【上位中枢】
三叉神経運動核の神経細胞は、統合、調節された上位中枢からの下行性インパルスのコントロールを受けている。そして、閉口筋、開口筋、顔面や舌、頚部などの筋の協同作用により調和のとれた円滑な下顎運動が営まれ、顎口腔系の健康が保たれる。咀嚼運動に関係する上位中枢には、大脳皮質咀嚼運動領、大脳辺縁系(扁桃核‐視床下部系、飽食、食中枢)、大脳基底核および小脳と脳幹(間脳、中脳、橋、延髄)の4つの系列がある。とくに、大脳皮質咀嚼運動領と大脳辺縁系とは、それぞれ異なった経路で神経線維を顔面神経核と三叉神経運動核、舌下神経核に送っている。大脳辺縁系は食物探求動作、摂取動作、咀嚼動作などの欲求機構に関係する。大脳皮質咀嚼運動領は、主として咀嚼運動の調節に関係している。また中脳、橋、延髄は下位中枢として大脳皮質や間脳部のような上位中枢の影響を受けている。そして、これらの中枢は互に密に拮抗、協調している。感覚受容体が刺激されるとインパルスは求心性神経伝導路を通って、中枢神経に伝達される。そこで、求心性の神経線維は介在ニューロン、脊髄や脳幹内の運動ニューロン、大脳皮質への上行性のニューロンなどと、多シナプスの反射性の接続をする。繊細な触覚と圧覚とを調節する求心性の神経は、脊髄に入ると、ただちに脊髄の同側の後柱部を延髄まで上行していく。脊髄から小脳に至る固有受容性伝導路には後脊髄小脳路および前脊髄小脳路が含まれている。最近まで筋の伸展により興奮する筋紡錘と腱受容体は後柱‐内側毛帯系を介して信号を中継すると考えられていた。しかし、筋紡錘からの信号は皮質の高さまでは達せず、意識にのぼる固有受容体にはまったく関係ないことが明らかになり、現在では運動および位置の感覚はおそらく関節、靭帯、皮下組織および皮膚の受容体によって調節されると考えられている。そして、三叉神経中脳路核と主知覚核、脊髄路核から出て小脳に至る三叉神経の第2次のニューロン、すなわち小脳路がその伝導路として認められている。小脳は三叉神経主知覚核からの固有受容体の情報、インパルスを受容するものと思われる。小脳はまた、運動皮質領および感覚皮質領、脳幹の各領野からの情報を投射し受容している。このように小脳は、中枢神経系のほとんどの活動を修飾すると考えられている。
【遠心性神経伝導路】
大脳皮質と脳幹は、上行路を経て伝達された求心性インパルスによって感覚情報を受容する。そして、大脳の運動皮質と脳幹から発せられる遠心性インパルスは下行路を経て、筋などの効果器に伝達される。遠心性神経伝導路を構成しているニューロンは、通常、上部運動ニューロンと呼ばれ、その細胞体は運動皮質内にある。そして、前角細胞と末梢神経突起とからなる下部運動ニューロンが筋などの効果器に接合している。上部運動ニューロンは脳神経の運動核や脊髄の前角細胞の運動ニューロンに直接に、あるいは介在ニューロンを介して間接的に、接続している。このように運動皮質から筋に至る遠心性伝導路は上部と下部の運動ニューロンを通る。運動に関与する主な遠心性神経伝導路は三叉神経、顔面神経、舌下神経の枝である。
【効果器】
神経筋機構を構成する筋関係の効果器には、筋、腱、およびその周囲結合組織が含まれる。筋は運動神経と感覚神経とによって支配され、その生理機能が調節されている。運動神経インパルスによって筋は収縮し、筋自身のなかにある感覚受容体からの感覚神経を介するインパルスによって筋の収縮、伸展は反射的に調節されている(フィードバック機構)。咀嚼筋の場合は、延髄の三叉神経運動核中に存在する運動神経細胞の突起である三叉神経の運動神経線維が咀嚼筋組織のなかで分枝している。これらの分枝した神経線維が筋束と接合する部位は神経筋接合部、または終末部と呼ばれる。通常は1つの筋線維束は1つの運動神経細胞によって支配されている。そのため、1つの運動神経細胞の興奮は数百、数千の筋線維を同時に収縮させることになる。このような、1つの運動神経細胞と1つの筋線維束からなる機能的な基本単位は神経筋単位と呼ばれ、これが集合して神経筋系となる。神経筋系における筋の運動の精度は、運動神経が支配する筋線維の数に直接左右される。すなわち、眼球などのような微妙な運動が要求される部位では、1つの運動神経は数本の筋線維しか支配していないが、咀嚼筋のように四肢の筋に似た運動を営むものでは、1つの運動神経は数100の筋線維を支配している。たとえば、側頭筋や咬筋では1つの運動神経線維あたり、それぞれ約900~650の筋線維を支配しているといわれる。
【神経筋機構と下顎位】
早期接触があると、下顎を中心位で閉口するときに、早期接触の原因歯に閉口時の咬合力がすべて加わることになる。このような状態で下顎を閉鎖するのは危険だから、早期接触の原因歯の受容体が中枢へ信号を送り、咬頭嵌合位を調節する。