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心理社会的因子(頭蓋下顎障害の)

【読み】
しんりしゃかいてきいんし(とうがいかがくしょうがいの)
【英語】
Psychosocial factors
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
頭蓋下顎障害の心理的因子と社会的因子についての認識は国により大きな差が存在するのが現状である。なかでも米国において重要視されている。
心理的因子というと、歯科医師はとかく一部の限られた患者での特別なまたは例外的なことと考えがちであるが、頭蓋下顎障害の分野においては程度の差こそあれ多くの場合に関係しうるものである。
仕事や家庭生活での軋轢や、経済的問題、新しい環境や文化への適応、肉親の病気など日常の生活からの心理的ストレスは疾病や慢性疼痛と関係しうることが知られている。
心理的ストレスと頭蓋下顎障害との関係は、現時点においてはひとつの仮説として次のような過程によると解釈をすることができる。
心理的ストレスは不安感と精神的緊張を高くする。これにともなって咀嚼筋や頭部などの姿勢維持筋の筋緊張が亢進する。顎口腔系においては、咀嚼筋、とくに閉口筋の持続的緊張は下顎骨を上方に挙上する。この状態を受圧部である顎関節と歯列について考察すると、顎関節では顆頭が関節円板に押しつけられ、さらに関節円板は下顎窩に押しつけられる。歯列においては歯は歯槽窩に圧入され歯根膜は圧迫される。関節内の受圧部のうち、関節軟骨と関節円板は無血管性で、下顎安静位にあるときには上下の関節腔において関節円板と関節軟骨がわずかに離れるので間に介在する滑液から栄養を得ることができる。また、会話など発声時には顆頭は懸垂した状態で微小な運動をくり返し関節円板と関節軟骨の間に介在する滑液を拡散させる。さらに、咀嚼などのリズミカルな負荷と負荷解除のくり返しにより効果的に栄養を得る、と考えられるが、噛いしばりによりこのプロセスが障害され、組織の抵抗性を低くする因子として働く。これにより、噛いしばりで加わる力がマイクロトラウマの外傷力として働く。結果として顎関節に痛みを感じるかもしれないし、この痛みがさらに胸鎖乳突筋や側頭筋などの緊張を亢進し、それらの筋に痛みを生じるかもしれない。また、これらの筋の部位に関連痛として痛みを感じさせるかもしれない。
精神疾患の発病初期で、本人および周囲にその認識のない段階の患者が、激しい歯痛や顎関節痛を訴えることがあり、この場合にも上記のプロセスの関与も考慮すべきであるが、この種の患者では治療は精神科を主治医として行ない、歯科医は器質的問題の有無と疼痛発現のメカニズムや必要な所見を的確に伝えることが重要である。
また、これとはむしろ逆に、術者はスプリント治療を咬合が原因か否かを見分ける目的で使用したが、大きな原因として患者のクレンチング癖が存在し、術者がこれに気づかなかった場合には、スプリントによっては症状の改善は認められないかもしれない。このような際に、その患者の問題は歯科医にはコントロール不可能な問題(とくに精神心理的問題など)であると誤診してしまう可能性もある。