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舌顎反射

【読み】
ぜつがくはんしゃ
【英語】
Linguomandibular reflex
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
⇒顎反射 
下顎運動に関する反射をいう。下顎運動は反射によって行なわれるものと、随意的に行なわれるものとに分けられるが、咀嚼、嚥下、発音などの機能的な運動は、反射によって無意識のうちに営まれている。このことは、下顎運動が多くの反射と複雑な中枢の支配とからなり立ち、しかも、神経筋機構によって巧妙に調節されていることを物語っている。したがって、その基本となる顎反射の性質を知ることは、下顎運動や顎口腔系の諸機能を理解するうえで重要な意味をもっている。顎反射には一定のパターンがあり、加わる刺激の性質によって、生じる顎反射も異なったものになる。Sherrington(1917)は、顎反射を開口反射、閉口反射、下顎張反射に大別している。
開口反射は舌顎反射とも呼ばれ、多シナプス反射で、歯や口腔粘膜組織を障害されないようにする防御反射のひとつである。この反射は上顎神経や下顎神経の支配する口腔領域の刺激(多くは痛刺激や機械的刺激)によって惹起される。口腔周辺の皮膚、口唇、口蓋、歯肉、歯、歯周組織、舌、口腔粘膜などに強い痛刺激が加わると、口が反射的に開くことから、その存在を知ることができる。
下顎張反射は、閉口筋の伸展反射によって生じる単シナプス反射である。その反射弓は求心性と遠心性の2つのニューロンから構成されている。この反射は下顎を急に下へ押し下げたり、オトガイ部を軽打したり、下顎歯列上を軽打したりして閉口筋を急激に伸展させた場合にみられ、自己受容性(固有受容性)の刺激によって閉口筋が収縮し、口が閉じられる反射である。この反射には閉口筋中に存在する固有受容体としての筋紡錘、求心路としての三叉神経中脳根線維、反射中枢としての三叉神経中脳核、同運動路核および同核中の閉口筋支配ニューロンなどが関与している。下顎張反射は開口反射に引きつづいて起こることが多い。これは、急激な開口によって閉口筋が伸展すると、それ以上筋が引き伸ばされないように、反射的に閉口筋を収縮させるひとつの制御機構と考えられる。
下顎運動はこれらの反射によってある程度維持するが、咀嚼や嚥下など多くの目的をもった機能的運動が正確に、しかも迅速、リズミカルに行なわれるためには、各反射の相反神経支配の他に舌の動き、頬、口唇の動き、唾液の分泌など、すべての機能を統合、制御する上位の中枢の支配が必要となる。乳幼児の顎位が不安定であったり、咀嚼運動がうまくできなかったり、嚥下をあやまったりするのは、反射のための制御中枢が未発育なことに由来する。日常の下顎運動は顎反射によって構成され、歯(歯周組織)、筋、顎関節を3つの柱とする顎口腔系は、末梢感覚受容体からのフィードバックと中枢反射機構による咀嚼筋活動のコントロールによって、その機構を完遂しているが、その本能は脳の中枢に関係していると思われる。
⇒開口反射 
顎反射のひとつで、舌顎反射とも呼ばれる。多シナプス反射で歯や口腔粘膜組織などを損傷しないようにする防御反射のひとつである。この反射は上顎神経や下顎神経の支配する口腔領域の刺激(多くは痛刺激や機械的刺激)によって惹起される。口腔周辺の皮膚、口唇、口蓋、歯肉、歯、歯周組織、舌、口腔粘膜などに強い痛覚刺激が加わると、口が反射的に開くことから、その存在を知ることができる。上下顎の歯がすでに強く咬合接触しているところへ、さらに強い力が加わり、歯や歯周組織が損傷されそうになるとこの反射がおき、下顎の運動が巧妙に制御される。したがって、上下顎の歯が接触している場合は、下顎はそれ以上閉口方向へは動くことがない。そのため、このような状態では閉口筋は収縮しても、その長さを縮めず、筋緊張だけが増加し、等尺性収縮を起こす。そして腱中のゴルジ腱受容体が働いて、インパルスは三叉神経運動核中の閉口筋支配ニューロンの活動を抑制する。そして、反射的に開口筋の緊張が抑制されて口は緩む。しかし、さらに強い力が加わったり、硬い物を噛むようなことがあると、このゴルジ腱受容体を介する制御機構の他に、噛み合った歯の歯根膜(総義歯の場合は義歯床下の粘膜)の痛覚受容体が刺激される。そして疼痛のインパルスが三叉神経知覚核を介して、三叉神経運動核に働きかけ、閉口筋支配の運動ニューロン活動を抑制するとともに開口筋支配の運動ニューロン活動を刺激する。その結果、閉口筋緊張が反射的に抑制され、また開口筋が収縮して口が開くようになる。
⇒顎反射