前方顆路傾斜度
- 【読み】
- ぜんぽうかろけいしゃど
- 【英語】
- Protrusive condyler path inclination
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- ⇒矢状前方顆路傾斜度
矢状前方顆路と水平基準面とがなす角度。前方顆路傾斜度ともいう。矢状前方顆路傾斜度は、個人によってその値が異なり、また、同一人でも左右異なることが多く、下顎運動の要素のなかでももっとも基本的なものとして、古くから研究されてきた。Gysi(1929)は咬合平面を基準面として、矢状前方顆路傾斜度を測定し、その値が5~55度に及び、平均33度であったと報告している。またLundeen(1973)はアキシス・オービタル平面を基準面として、矢状前方顆路傾斜度を測定し、それが25~75度に及び、平均が40度であったと報告している。無歯顎者の矢状前方顆路傾斜度は29度である(中沢 1940)。
電子的計測による矢状前方顆路傾斜度の平均値は、カンペル平面を基準として37.5度(中野 1976)、軸鼻翼平面を基準として30.8度(西 1989)、同じく35.6度(小川 1992)、アキシス平面を基準として39.1度(保母ら 1992)である。このように基準とする水平基準面が異なる矢状前方顆路傾斜度の計測値を比較するときは、各水平基準面間の傾きの相違を補正した換算を行なわなければならない。アキシス平面基準に換算した上記4者の電子的計測データの平均値は約42度である。ちなみにアキシス平面とは、トランスバース・ホリゾンタルアキシスと上顎右切歯切端から眼窩下縁中点に向かい43mmの点を含む水平基準面をいう。アキシス平面を基準とした矢状顆路傾斜度の計測値をカンペル平面に換算するときは4.3度、軸鼻翼平面に換算するときは10.0度をもとの値から差し引けばよい。
矢状前方顆路傾斜度は、側頭骨の下顎窩の関節結節前半部の斜面に影響され、有歯顎者と無歯顎者では、その値が異なっている。有歯顎者の下顎窩は普通明瞭な下方に凸の彎曲をもっているので、矢状前方顆路傾斜度もこれにつれ大きくなる。逆に無歯顎者の下顎窩は平坦なことが多いので、この角度は一般に小さな値を示す。ナソロジーでは矢状前方顆路傾斜度の緩急は臼歯の咬頭傾斜に影響を与え、この角度が大きいときは、臼歯の咬頭を高くつくることができ、逆に、この角度が小さいときは、臼歯の咬頭は低くつくらなければならないと教えている。上下顎歯が対向関係にある中心位から2~3mmの範囲では、正常者の矢状顆路はほとんど直線的である。
矢状前方顆路傾斜度は、チェックバイト法により簡単に測定できるが、この方法は顆路を直線的に再現し、矢状前方顆路の彎曲の内側を結ぶ角度を計測するので、チェックバイト法で計測された矢状前方顆路傾斜度は、実際の顆路よりもやや緩やかな値を示すことが多い。前方顆路を直線で近似したときの前方顆路長をΛP、矢状前方顆路傾斜度をαPとしたとき、前方顆路の前後成分はΛP×cosαP、上下成分はΛP×sinαPである。