チェックバイト法
- 【読み】
- ちぇっくばいとほう
- 【英語】
- Check bite technique
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- 顆路の測定法のひとつ。生体の顆路の出発点とその顆路上の任意の1点とを結ぶ直線が、各基準面となす傾斜度を計測する方法。ちなみにチェックバイトはインターオクルーザル・レコードinterocclusal recordともいう。GPT-6では、チェックバイトを俗称とし、インターオクルーザルレコードを対合する歯列または顎の位置的相互関係の記録、と定義している。チェックバイト法はChristensen(1905)により開発されたといわれている。Christensenは偏心運動時に咬合堤の下顎臼歯部が下方へ沈下して離開する現象を発見し、後にクリステンゼン現象と名づけられた。チェックバイト法は、このクリステンゼン現象を応用して顆路傾斜度を求める方法で、Christensenと同時代のAmoedoやSnowも、総義歯の臨床にこの技法を用いた。チェックバイト法はその後Hanauによってハノー・モデルH咬合器の矢状顆路傾斜度の調節に採用され、以来無歯顎、有歯顎を問わず用いられるようになり、半調節性咬合器の運動量の調節に利用されている。
チェックバイト法は2顎位間の角度の計測法であって、パントグラフ法のように運動経路全体を記録することはできない。生体の顆路は下方への彎曲をもつのが普通だから、チェックバイト法によって計測される矢状顆路は、生体よりもやや緩やかとなる。チェックバイト法とパントグラフ法の再現性の相違を計測した研究により、両者の運動経路の差異は、両者間の立体的距離で平均が0.23mmであったと報告されている(長谷川 1972)。チェックバイト法はパントグラフほど正確ではないが、測定に特別の器具を必要とせず、またその術式が簡単で長時間を要さないなど多くの利点をもつため、実用性が高い。
反面、この方法では顆路の近似値しか計測できないから、チェックバイト法を使って半調節性咬合器に再現された下顎運動には、必ずある程度の誤差がともなう。そのため、チェックバイト法で調節した咬合器上で製作した補綴物は、偏心運動中に対合歯と衝突するか、離れるか、いずれかの誤差を引き起こすことになる。バランスド・オクルージョンでは、これらの誤差のうち、いずれも補綴としては失敗である。しかしミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンでは、補綴物が衝突するときだけが問題で、離れることは臼歯離開を意味し、むしろ好ましい。そこで半調節性咬合器の運動量を再現するときに、この好ましい状態が引き起こされるように、あらかじめ調節機構に過補償を与えておけば、正確に下顎運動を再現しなくても、ある程度目的にかなった補綴物をつくれることになる。この考え方は過補償再現の理論と呼ばれる。
チェックバイト法で計測される矢状顆路には、矢状前方顆路傾斜度と矢状側方顆路傾斜度の2つがある。矢状側方顆路傾斜度は矢状前方顆路傾斜度よりも角度的に大きいとされているが、チェックバイト法で矢状顆路傾斜度を調節するときは、角度的に少ない矢状前方顆路傾斜度を用いるとよい。咬合器の矢状顆路を緩やかにすれば、咬合器は急な顆路傾斜を与えた場合よりも緩やかな上下運動をするから、補綴物の咬頭は低くなり、口腔内でよく離開するから咬頭干渉は起こらない。非作業側の水平側方顆路をチェックバイト法で再現すると、水平側方顆路の彎曲の外側を結ぶ線を、直線的に表すことになる。そのためチェックバイト法で計測した水平側方顆路角は、生体の側方顆路よりも緩やかとなる。その結果、補綴物の咬頭は高くつくられ、口腔内で咬頭干渉を引き起こす(Guichet 1970)。この点を改善するために水平側方顆路をイミディエイト・サイドシフトとプログレッシブ・サイドシフトの2つで調節するのは好ましい。この場合、咬合器の水平側方顆路は彎曲の内側を通る線が再現されるため、補綴物の咬頭は低くなり、咬頭干渉は未然に防止される。チェックバイト法でイミディエイト・サイドシフトとプログレッシブ・サイドシフトを調節する方法には7.5度法とIPB法がある。
理論計算により側方運動において、顆路と顔形寸法のそれぞれの値が第1大臼歯の咬合面に与える影響の度合いの相対比較を行なった。その結果によると、臼歯咬合面における咬合調整量0.09mm3に相当する矢状顆路傾斜度の変化量は3度、同じくプログレッシブ・サイドシフトは6度、イミディエイト・サイドシフトは0.1mm、顆頭間距離は10mm、顔形寸法前後径は13mm、同上下径は4mmとなった(保母、高山 1983)。以上の数字は前提条件によっても変わるのでおおよその目安であるが、たとえば、イミディエイト・サイドシフトを0.1mm以下の誤差で測定せずに、プログレッシブ・サイドシフトを6度以下の誤差で測定しても無意味であることを表している。また、顆頭間距離などの顔形寸法値の誤差は、一般に信じられているほど下顎運動に対して影響力をもたない。
各要素の変動範囲を考慮に入れて測定の相対的重要度を%表示したところ、矢状顆路傾斜度38%、プログレッシブ・サイドシフト9%、イミディエイト・サイドシフト38%、顆頭間距離7%、顔形寸法前後径5%、同上下径3%の順になることがわかった。このデータから日常の補綴作業では、チェックバイトで調節した半調節性咬合器で十分なことがわかる。
【臨床術式】
有歯顎者のチェックバイト法には2方法がある。1つは口腔内にクラッチを装着した状態で、石膏コアを使い偏心位の記録を採得する方法である。この方法では、上下顎のクラッチがセントラルベアリング・ポイントを介して接触するため、歯の接触滑走のない状態で計測が行なえる。そのため下顎は誘導されやすくなり、境界運動を容易に計測できる。他の1つは、直接口腔内の上下顎歯列間にワックスバイトを介在させて、偏心位の対顎関係を記録する方法である。この方法は特別な器具を必要とせず、簡単に操作できるので、広く臨床に用いられている。チェックバイト法に用いる材料にはワックス、アルミニウム板、モデリング・コンパウンドのようなコア材と、亜鉛華ユージノール・ペースト、シリコーンなどのウォッシュ材があり、これらを単独または併用して使用する。コア材を患者の歯列模型に適合するような大きさにトリミングしバイト・レコードを用意する。あらかじめ咬合器にマウントした患者の診断模型に、バイト・レコードを介在させ、前方咬合位と左右側方咬合位で記録面に上下顎歯列の圧痕をつける。このときの顆頭の移動量は約5mmがよいとされている。正常咬合者の場合、普通5mmの前方運動により下顎は切端咬合位をとり、また5mmの側方運動によって上下顎の犬歯は尖頭どうしが向かい合うようになる。バイト・レコードの上下顎面に、ウォッシュ材を塗り、口腔内で3つのチェックバイトを採得する。咬合器上であらかじめ圧痕がつけられているため、それらの顎位へ下顎を誘導するのは困難ではない。得られた3つのチェックバイト記録は湿箱中に保存する。
咬合器の調節は次のようにして行なう。まず下顎模型上に前方位のチェックバイト記録を適合させ、上顎面に上顎模型を噛みこませる。こうして、バイト・レコードを介して上下顎の模型をしっかりと固定する。上下顎模型が前方位をとるため、アルコン型の咬合器では咬合器の顆頭球は前下方に位置し、顆頭球はハウジングから離れる。咬合器の矢状顆頭の調節ねじを緩め、ハウジングが顆頭球に軽く接触するように調節する。チェックバイト・センサを利用すると調節精度が向上する。このときのハウジングの示す傾斜度が矢状前方顆路傾斜度となる。コンダイラー型咬合器では、顆頭球は後上方に位置し動きが異なる。顆頭球がスロットの間に固定されているので、矢状顆路の傾斜度を増減して、上下顎の歯列模型によりバイト・レコードがしっかりと噛む位置を探す。
次に側方位のチェックバイト記録を下顎歯列上に適合させ、同様に上顎歯列模型を上顎面の圧痕に噛みこませる。側方位のチェックバイト記録により、アルコン型咬合器では咬合器の非作業側の顆頭球が前下内方へ移動し、ベネットガイド指導板との間に間隙が現われる。ベネットガイド指導板を外方へ寄せ、顆頭球と接触するように調節する。このときのベネットガイド指導板の示す値が、水平側方顆路角ないしはイミディエイト・サイドシフトである。コンダイラー型咬合器では、顆頭球は後上外方へ移動し動きが異なる。反対側のバイト・レコードを使って同じ操作を行ない、反対側の側方顆路を調節する。チェックバイト法によりコンダイラー型咬合器の水平側方顆路角を調節するのは非常に困難である。
無歯顎者のチェックバイト法も原理的には有歯顎者と変わらないが、歯を失っているためあらかじめ上下顎の咬合堤をつくっておく必要がある。偏心運動時に生じた上下顎咬合堤の間隙に石膏を流しこみ、偏心位の記録を採得する。
→7.5度法、アイ・ピー・ビー法、チェックバイト・センサ、過補償再現の理論