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テコ

【読み】
てこ
【英語】
Lever
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
支点で支えられた棒の一端に小さな力を加えて、他端に大きな運動を得る装置。テコは支点と力点と作用点とからなり、支点は固定点、作用点は荷重、力点は荷重を支える抵抗力である。これらの3点の位置関係によりテコは3種類に分けられる。第1種のテコは、支点をはさんでその両端に力点と作用点が位置するもので、シーソーやペンチはこれを応用したものである。第1種のテコは小さな力(抵抗力)で大きな作用(荷重)を得られるもっとも効率のよいテコである。第2種のテコは、作用点をはさんで支点と力点が位置するもので、クルミ割りや手押し車にその例をみることができる。第1種のテコよりもやや効率は劣るが、得られる力は相当に大きい。第3種のテコは、力点をはさんで支点と作用点が位置するもので、日本鋏や、はね橋はこれを応用したものである。他のテコに比べ、その効率が大幅に劣る。
テコの原理をヒトの下顎運動にあてはめることが試みられている。下顎は第3種のテコに分類され、顎関節は支点、筋は力点、歯は作用点となり、たとえ筋により大きな力が加えられても、歯には最小の力しか加わらない構造になっている。近心に植立する歯には、とくに小さな力しか加わらない。これは犬歯誘導により臼歯を離開させる咬合論の論拠とされている。
もし中心位の早期接触があると下顎は支点を変え、第1種や第2種のテコに変化し、歯や顎関節に異常な荷重を加えるようになる。たとえば、大臼歯部に中心位の早期接触があると、支点は顎関節から早期接触部へ移り、顎関節を作用点とする第3種のテコとなる。また前方運動中に大臼歯部に咬頭干渉があると、前歯が作用点となり第1種のテコが現われる。第1種のテコの効率のよさのために、上顎前歯は異常な荷重にさらされるようになる。中心位と前方位の両方で臼歯部歯列に干渉がある場合には、第1種と第3種の2種類のテコが相互に作用して、互いに支点や作用点となる。歯と顎関節は異常な荷重にさらされる。側方運動中に作業側の顎関節、筋、歯はそれぞれ支点、力点、作用点となり、下顎は第3種のテコを形成する。非作業側に咬頭干渉が現われると、作業点と力点は非作業側の咬頭干渉と閉口筋へ移り、下顎は第2種のテコに変化する。状況によっては、咬頭干渉が支点、作業側の顎関節が作用点となり下顎は第1種のテコに変化する。こうしたテコの変化によって、歯とその支持組織や顎関節、咀嚼筋は多大な損傷を被り、顎関節症を誘発するといわれている。
高山は咬合力の作用を上記のようにテコにたとえて説明するのはわかりやすいが、適正な結論を得るには次のような欠点があるとして、物理学に基づく生体力学の適用をすすめている。
1)テコのたとえでは、支点を固定点とみなし支点に負荷される応力を考慮外としているが、作用・反作用の原理に照らして支点にも応力がかかる。たとえば顎関節を支点としてテコのたとえを適用すると顎関節にいくら応力がかかってもよいということになり不条理である。
2)下顎運動や下顎の偏位は3次元的に発生するもので、咬合力の作用も3次元である。テコのたとえでは2次元しかあつかえない。