点接触咬合
- 【読み】
- てんせっしょくこうごう
- 【英語】
- Point contact
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- →3点接触咬合(トーマスの)
理想的な歯列にみられる、上下顎臼歯間の点と点の接触による咬合。従来、咬頭嵌合位では上下顎歯は面と面で接触するのが正常と考えられ、歯冠補綴物にもそのような咬合が付与されてきた。しかし面接触咬合では咬合圧は増大し、咀嚼能率が減少する欠点があった。点接触咬合では、上下顎歯の接触面積は減少し、各接触点に集約する咬合負担力も軽減されるため、咀嚼能力は向上する。このことは、歯周組織の保護にもきわめて有効である。しかし点接触咬合は面接触咬合に比べ、接触面積が小さいため安定性に欠ける欠点があった。これを補うためにThomasは3点接触咬合tripodizationと呼ぶ接触関係を考案した。これは咬頭嵌合位で、上下顎臼歯の機能咬頭が対向する窩と、3点で接触する咬合様式で、ミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンの一要件に組みこまれている。
この咬合では上下顎臼歯は1歯対1歯の関係で対向し、上顎臼歯の舌側咬頭は対合する同名下顎臼歯の遠心窩と中央窩に嵌入する。下顎臼歯の頬側咬頭は対合する同名上顎臼歯の近心窩と中央窩に嵌入する。こうして各咬頭と窩は3点で接触する。各接触点には頬側から舌側に向かい、前頭面内でA、B、Cの名称が付与されている。すなわちAコンタクトは上顎頬側咬頭の舌側斜面と下顎頬側咬頭の頬側斜面間に発生し、Bコンタクトは上顎舌側咬頭の頬側斜面と下顎頬側咬頭の舌側斜面間に発生する。そしてCコンタクトは上顎舌側咬頭の舌側斜面と下顎舌側咬頭の頬側斜面間に発生する。一方、矢状面では上顎咬頭の近心斜面と下顎咬頭の遠心斜面の接触が重視され、これにより顆頭が過剰に遠心に偏位するのを防止している。
接触する点の面積はShawによれば、1歯あたり4mm2がよいとされている。しかし面積よりも接触する位置が重要で、3点接触では3脚と同じ原理が働き歯はもっともよく安定すると考えられている。安定を得るためにはそれぞれの咬頭の3角隆腺上の近心斜面、遠心斜面、内斜面に1点ずつ接触させるのがよい。3点接触では、咬頭嵌合位で咬頭頂は一切接触しないから、咬頭頂はいつまでも鋭利に保たれる。
点接触咬合は次のようにして付与する。ファンクショナル・ワクシングの際に、窩の部分を軟化し、その表面にステアリン酸亜鉛の粉末を散布したのち、咬合器を閉じて偏心運動を行ない、対合歯の機能咬頭によりファセットを形成する。このファセットのなかに裂溝を付与し、各ファセットを8つ程度の小面に分割する。鋳造後に適当な3点を残して他を研磨し点接触咬合に仕上げる。
→3点接触咬合(ボンウィルの)
総義歯の安定を得るために用いられる咬合様式。Bonwill(1899)によって提唱された。Bonwillはヒトの偏心運動は水平的に行なわれると主張し、偏心運動中に上下顎の人工歯が常に3点で接触するようにすれば、総義歯が転覆するのを防止できると考えた。偏心運動に関するBowillの理論はWalkerらによって、覆されることになるが、3点接触の理論は総義歯の平衡を保つ優れた方法として高く評価され、今日も利用されている。側方運動時に現われる3点接触咬合は両側性平衡咬合と呼ばれ、作業側では上下顎臼歯の頬側咬頭どうしと舌側咬頭どうしが接触し、また非作業側では上顎臼歯の舌側咬頭と下顎臼歯の頬側咬頭が接触し、計3点で接触する。前方運動時に現われる3点接触咬合は前後性(的)平衡咬合と呼ばれ、上下顎切歯と左右の上下顎最後臼歯が接触し、計3点で接触する。このような咬合様式は上下顎の人工歯間に調節彎曲を与えることにより得られる。両側性平衡咬合をつくるためには側方調節彎曲を付与し、また前後性平衡咬合を作るためには前後的調節彎曲を付与する。3点接触咬合は総義歯に適した咬合であるが、有歯顎に与えるのは有害かつ危険である。