フィッシャー角
- 【読み】
- ふぃっしゃーかく
- 【英語】
- Fischer’s angle
- 【辞典・辞典種類】
- 新編咬合学事典
- 【詳細】
- 矢状前方顆路と矢状側方顆路とがなす角度。GPT-6では、前方顆路と非作業側顆路の矢状面投影が交又する角度と定義されている。下顎の前方運動中と側方運動中の矢状顆路の差によって生じ、平均5度とされてきた。しかしこの知見は複数の電子的計測データを比較解析した最近の保母らの研究により次のように改められた。
電子的計測による矢状前方顆路傾斜度の平均値は、カンペル平面を基準として37.5度（中野 1976）、軸鼻翼平面を基準として30.8度（西 1989）、同じく35.6度（小川 1992）、アキシス平面を基準として39.1度（保母ら 1992）であり、アキシス平面基準に換算した4者の平均値は約42度である。ちなみにアキシス平面とは、トランスバース・ホリゾンタルアキシスと上顎右切歯切端から眼窩下縁中点に向かい43mmの点を含む水平基準面をいう。一方、電子的計測による矢状側方運動顆路傾斜度の平均値は、カンペル平面を基準として36.0度（中野 1976）、軸鼻翼平面を基準として30.7度（西ら 1992）、アキシス平面を基準として40.5度（保母ら 1992）であり、アキシス平面基準に換算した3者の平均値は約41度である。
これらのうち共通の電子的計測データ群について比較すると両者の差の算術的平均値は－0.1度となり、フィッシャー角の平均値はほぼゼロになることが明らかとなった（保母、高山 1994）。このような結末になった理由は、従来用いられていた機械式パントグラフによる測定では顆頭の外側におかれた描記板でトレーシングが行なわれていたため、前方顆路よりも側方運動顆路のほうが経路が長く傾斜も大きめになる傾向があったためと考えられている。
全調節性咬合器では両者の区別が可能だが、半調節性咬合器ではいずれか片方だけにしか合わせられない。しかし上述の知見によりフィッシャー角の平均値は5度からゼロに修正されたので、平均的には矢状前方顆路傾斜度と矢状側方顆路傾斜度を区別する必要がなくなった。ただし個体ごとの計測結果においてはフィッシャー角はプラスかマイナスかの値を示すことが多く、その点であいまいな部分が残るが、1）フィッシャー角は顆路の往路と帰路の差より小さく、かつ2）顆路の臼歯離開量への影響度が切歯路に比べてはるかに小さい、という2つの理由から咬合器の矢状顆路傾斜度に前方運動と側方運動の差を考慮する必要はないと考えられる。したがってこの点に関する限り、咬合器は全調節性咬合器ではなく、半調節性咬合器でよいことになる。