専門情報検索 お試し版

ベイロンの研究

【読み】
べいろんのけんきゅう
【英語】
Beyron’s study
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
1964年、Beyronにより発表された、オースリラリア原人の村落に同居して46名の咬合を詳細に調査した報告。Beyronはこの報告により、今世紀最大の咬合学者の1人と目されるようになった。彼はその調査結果につき次のように述べている。
1)他の原始人の頭蓋骨と同様に、現存するオーストラリア原人の歯列にもひどい咬耗が左右対称に認められた。2)中心位(最後退位)と咬頭嵌合位が一致したのは10%にすぎず、2つの咬合位間の前後距離は平均1mmであった。3)ほとんどの症例の咬頭嵌合位において、上下顎切歯の間にはわずかな隙間しか認められなかった。4)側方運動時には例外なく、作業側では数本の歯が接触し、非作業側では接触が認められなかった。5)作業側の対合する小臼歯と大臼歯は側方偏心位から咬頭嵌合位まで接触滑走し、咬耗のない若年者でも犬歯による誘導は認められなかった。オースリラリア原人は中程度の硬さの肉を常食し、シネマトグラフで計測したチューイング・サイクルは楕円形状で、ヨーロッパ人のそれより幅広く、規則的な形状をしていた。6)チューイング・サイクルの上端部は空口時の接触パターンと一致し、グラインディング・タイプであった。7)接触滑走しないときのチューイング・サイクルも接触滑走時のそれと一致し、チューイング・サイクルが咬頭誘導cuspal guidanceであることを示した。8)側方偏心位から咬頭嵌合位までの接触滑走距離は平均2.8mmであった。文明人はこの値に達しないが咀嚼中にある程度の接触滑走が行なわれることは、常態であることが示唆された。
Beyronの研究は、現存する原人の咬合を詳細に調査することにより、一種の極限状態における咬合の態様を明らかにした点で、今日の眼からみても示唆に富んだ内容のものとなっている。