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偏心位の咬頭干渉

【読み】
へんしんいのこうとうかんしょう
【英語】
Deflective occlusal contact in eccentric position
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
偏心運動中に臼歯部歯列に発生する咬頭干渉。円滑な下顎の偏心運動を妨げ、これを避けるために下顎が無理な運動を強いられるため、筋を疲労させる。干渉部には絶えず側方圧が加わるため、歯周組織に与える損傷も大きい。また干渉部を支点としてテコの作用を発生するため顎関節に為害作用を加える。ちなみに、偏心位の咬頭干渉は従来cuspal interferenceと呼ばれていたが、GPT-6で(中心位の)早期接触premature contactとともにdeflective occlusal contactと呼称を統一したうえ、歯を偏位させ下顎を本来の運動から偏向させる接触、または可撤性義歯をもとの位置から偏位させる接触と定義されている。偏心位の咬頭干渉は、中心位の早期接触とともに咬合障害の原因とみなされている。
前方運動中の咬頭干渉と側方運動中の咬頭干渉の2種類があり、側方運動中の咬頭干渉は作業側で発生しするものと、非作業側で発生するものとに分けられる。前方運動中の咬頭干渉は、普通上顎臼歯の遠心斜面と下顎臼歯の近心斜面との間に発生する。この干渉は前歯誘導が欠如している症例に多くみられる。
側方運動中の作業側の咬頭干渉は上下顎臼歯の頬側咬頭どうしの衝突により発生する。しかし作業側では歯は側方運動中にあまり大きく移動しないため、その為害作用は軽度である。作業側の咬頭干渉を有害視するか否かは、理想咬合の考え方により異なる。グループ・ファンクションでは、作業側の咬頭干渉のうち、頬側咬頭どうしの接触は生理的で、舌側どうしの接触(クロス・トゥース・バランス)は病的としている。一方ミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンではいずれの咬頭干渉も有害視されている。非作業側の歯は側方運動中に大きく移動するため、干渉部に加わる水平的な圧力は大きくなり、為害作用は大きい。非作業側の咬頭干渉(クロス・アーチ・バランス)は上顎臼歯の舌側咬頭の頬側斜面と下顎臼歯の頬側咬頭の舌側斜面との間に発生し、その好発部位は第2大臼歯である。非作業側の咬頭干渉が有歯顎にとって有害であるという意見は広く支持されている。
Krogh-Poulsen(1968)、Posselt(1971)、関(1968)、Shore(1967、76)、中村(1976)、Dawson(1974)らは、顎関節症患者にみられる咬合異常症状として、非作業側の咬頭干渉がその主なものであることをあげている。河野ら(1988)は、顎関節症患者のうち、非作業側咬頭干渉を咬合調整により削除することによって症状の治癒をみた20症例につき、側方運動中の作業側および非作業側の咬合接触状態を調査している。その結果に基づき、非作業側咬頭干渉の発現要因として、1)天然歯列において矢状方向の咬合彎曲(スピーの彎曲)が急な場合、2)歯列内臼歯部に生じた欠損部位を長期間放置したため、対合歯の挺出や隣接歯の近心傾斜を生じた後に、補綴処置が行なわれた場合、3)犬歯の低位唇側転位や小臼歯の頬舌側転位が天然歯列の前方に存在し、それにともない生じた歯間空隙のために後方臼歯群が近心傾斜した場合の3つをあげ、これらの要因によって後方歯の矢状有効咬頭傾斜角が急になると臼歯離開量が減少し、矢状有効咬頭傾斜角が対合歯の矢状咬頭路傾斜度より大きく(急に)なると非作業側干渉を生じる、という内容の知見を述べている。
通常、非作業側の咬頭干渉は取り除くように指示されているが、皆木ら(Minagiら 1990)は、1)犬歯切端咬合位で噛みしめを行なった場合にのみ発現する非作業側(平衡側)咬合接触をもつ患者群、2)噛みしめをともなわない側方運動中に作業側の咬合接触と同時に発現する非作業側咬合接触をもつ患者群、3)噛みしめ時にも非作業側咬合接触を発現しない患者群の3者間において、顎関節雑音の発生率を疫学的に比較した。その結果、患者群1)の発生率が統計的に有意に少なかったと報告し、非作業側の咬頭干渉を一律に有害視することには疑問を投げかけている。
偏心位の咬頭干渉は、咬合器上に装着した歯列模型を用いて診断することが多い。上下顎歯の間に厚さ12.5μmのオクルーザル・レジストレーション・ストリップスを介在させた状態で、咬合器に偏心運動を行なわせ、このときストリップスが保持されるか否かにより、咬頭干渉の有無を調べる。その後にカーボン紙を噛ませ、接触部位を確認する。第一に診査しなければならないのは非作業側の咬頭干渉である。咬合器に側方運動を行なわせ、非作業側の大臼歯部に咬合接触があるかどうかを調べる。もしあればその部位や量を調べ、同時に反対側の犬歯の誘導状態を調べる。同じ要領で作業側の咬頭干渉と前方運動時の咬頭干渉を調べる。
偏心位の咬頭干渉は、臼歯部の歯質が過剰なために起こることもあるが、偏心運動をガイドする前歯の誘導機能が欠如するために発生することもある。そのため前歯の誘導機能も忘れずに調べる必要がある。偏心位の咬頭干渉は咬合調整により取り除くことができるが、歯の削除量があまりにも大きい場合には、修復処置が必要になる。もし前歯誘導が欠如している場合は修復処置を考えなければならない。
臼歯の健康を維持するうえで、適量の臼歯離開が必要なことは通念となっている。一方咬合調整時や補綴物の試適時に、患者に偏心運動を行なわせ咬頭干渉の認められる部位を削合することは日常臨床のなかで一般化した術式であるが、その削合作業は咬頭干渉が除かれたところでとどめるのが常識になっている。そうするとその削合部位の臼歯離開量はほぼゼロになり、いわばニアミスの状態にとどまるはずである。このことは咬合器上で補綴物を製作する場合についても同様である。そうかといって咬頭干渉部位を余分に削合すればよいというものでもない。どのくらい削合したらよいかその程度がわからないからである。また仮にその部位の削合が適量に行なわれたとしても、その他の(咬頭干渉の認められない)部位の臼歯離開量が適量であるという保証はない。従来この矛盾点にどのように対処すべきかの明確な指針は提示されていなかった。最近になって保母と高山(1995)は独自の下顎運動理論式と実験方法により得られたデータに基づき、臼歯離開のメカニズムと必要理由を解明し、新しい補綴臨床術式ツインステージ法を開発した。この術式を用いて製作された補綴物は咬合器上において均一な臼歯離開量を発現するとともに、患者の口腔内においても0.1mm以内の精度で咬合器上で付与したのと等しい臼歯離開量を再現することが確かめられている。
→咬頭干渉、ツインステージ法