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ホール

【読み】
ほーる
【英語】
Rupert E.Hall
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
アメリカの補綴学者。シカゴ大学総義歯学教授。今世紀初頭に活躍。円錐説の提唱とノン・アナトミカル陶歯の開発で有名。Hallの咬合に関する業績は、次の3項目に要約される。
1)1914年、円錐説を発表。下顎の側方運動は、顆頭の後方にある軸(セントラル・バーティカル・アキシス)を中心として、ボンウィル三角が重なり合うような立体的な円錐面上に起こるとした。また下顎運動は歯の咬合面によって誘導され、顆路には誘導されないとし、歯の咬合面形態を重視した。そして、第1小臼歯の咬頭傾斜が下顎運動を指導する鍵になるとし、その角度が45度であるときに咀嚼効率は最高になると主張。円錐説は、同時代のわが国の矢崎に大きな影響を与えた。
2)機構の異なる2種類の咬合器を開発。1つはA.A.咬合器(1920年代初頭)と呼ばれ、円錐説を再現するためにつくられた。他の1つは、3次元的咬合器(1920年代後半)と名づけられ、トリポッド型咬合器に属する。これら2器種の咬合器は、その背景になる理論に共通性が欠けており、これをHallの欠点とする人もいる。
3)インバーテッド・カスプ・ティースと呼ばれる陶歯の開発。この陶歯は円錐説とは無関係につくられたもののようである。小臼歯の咬合面に1個、大臼歯の咬合面に2個の皿状の凹みが与えられ、咬頭や小窩のような解剖学的形態は付与されていない。そのため、Hallはノン・アナトミカル陶歯の創始者とされている。
このように多方面にわたる業績を遺しているが、円錐説は科学的根拠に乏しく、また、理論と臨床を結びつけるのに一貫性のないことが指摘されている。同時代にヨーロッパで活躍したGysiとは、信奉する下顎運動理論や開発した咬合器の機構などの点で意見が合わず、互いに論敵となっており、アメリカ歯科医師会誌上での2人の論争は有名である。主論文に、An analysis of the work and ideas of investigators and authors of relations and movements of mandible、JADA(1929)がある。