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ホビー咬合器

【読み】
ほびーこうごうき
【英語】
Hoby articulator
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
→デンタルホビー咬合器 
1978年、保母により開発されたアルコン型平均値咬合器。日本人の顎と近似した大きさをもち非調節性咬合器ながらフェイスボウ・トランスファが可能である。ボックス型顆路をもち、矢状顆路傾斜度は30度、プログレッシブ・サイドシフトは7.5度と15度の2種があり、イミディエイト・サイドシフトは与えられていない。顆頭間距離は105mmに固定されている。上下顎フレーム間距離の大きいL仕様と小さいS仕様がある。前者はダウエル・ピンを用いるときに適している。後者は模型の固着時に小量の石膏しか必要としないことを特徴としている。セントリック・ロックは板ばねでつくられ、顆頭球を前下方から包むように作動する。セントリック・ロックはワン・アクションでリリースされ、上顎フレームと下顎フレームを簡単に分離することができる。この板ばねは関節部に内蔵されているため、咬合器の後方視界は良好である。
切歯指導桿(インサイザルポール)は太く頑丈である。切歯指導板(インサイザルテーブル)はプラスチックでつくられ、取り外し可能である。片面は平坦で有歯顎用に用いる。もう一方の面は傾斜をもち、義歯用に適している。切歯指導板のこの面には、矢状傾斜度10度、側翼角10度、が与えられている。マウンティング・リングはプラスチック製のディスポーザブル・タイプでは石膏の固着面に十字型のアンダーカットがもうけられ、これにより石膏を保持するようになっている。その他金属性のものもある。
ホビー・エキザクタ・フェイスボウ・マークII、エキザクタ・フェイスボウ・マークIII(スムースマチック)と組み合わせることができる。いずれもイヤーボウタイプで後方基準点は解剖的平均値により求める。前方基準点は上顎右側中切歯切縁より上方43mmの位置を用いる。水平基準面はアキシス平面となる。小範囲の日常臨床補綴に適しているが、学生実習用としても多くの利点を備えている。デンタルホビーは解剖的咬合器が具備すべき基本構造を備えているので、学生はこの咬合器をマスターしたあと、半調節性咬合器、全調節性咬合器へと抵抗なくレベルアップできる。(株)モリタから市販されている。
→サイバーホビー咬合器 
1983年、保母により開発された全調節性咬合器。サイバーホビー・コンピュータ・パントグラフの計測データを再現するように設計されている。保母は6自由度計測可能な電子的下顎運動計測装置を開発し、下顎運動の基礎的研究を行なった。それらのなかでサイバーホビー咬合器の開発に参考とされた知見を列記する。
1)非作業側の矢状側方顆路は、特異凹彎曲型、凹彎曲型、直線型、凸彎曲型、特異凸彎曲型の5つの典型的なパターンに分類される。
2)イミディエイト・サイドシフト、プログレッシブ・サイドシフト、水平側方顆路角(ベネット角)の間には弱いながら相関関係が認められ、これを用いることにより水平側方顆路を数種類のパターンに分類できる。
3)側方運動時に作業側顆頭近傍に回転中心が存在し、側方運動中にこの中心は3次元的な回転を行なうとともに、ターミナル・ヒンジアキシス上を外側方に向かってほぼ真横に移動する。この中心は運動学的顆頭中心と名づけられている。
サイバーホビー咬合器はこれらの最新の下顎運動の知見に立脚して開発され、その機構には独自の工夫が凝らされている。それらを列記すると以下のようになる。
1)この咬合器の運動はコンピュータ・パントグラフの計測データによって調節されるが、コンピュータ・パントグラフは顆頭中心の運動路を直接コンピュータによって演算するため、従来の機械式パントグラフのようなトランスファ操作を一切必要としない。そのため、咬合器の調節操作を非常に短時間で完了することができる。
2)最新の咬合理論に基づき作業側顆路の再現機構が設計されているため、従来の全調節性咬合器にみられるような複雑なベネット運動調節機構は不必要となった。スチュアート咬合器では非作業側顆路の調節機構と作業側顆路の調節機構を分離するために2軸性機構を採用し、またデナーSE咬合器では同一フォッサ・ボックス内で矢状面、水平面、前頭面の顆路を調節するため、フォッサ・ボックスには複雑な構造が与えられている。そのため咬合器の操作性が犠牲にされ、またセントリックの再現性に問題を生じることがあった。サイバーホビー咬合器では作業側顆路は外側方に向かって真横に動くという単純な機構になっているので、作業側顆路の調節が不必要なだけでなく、咬合器のガイドが確実に行なえるため下顎位の再現精度が向上した。
3)咬合器の顆路はアナログインサートの組み合わせにより再現されるため、顆路の彎曲形状の近似が簡単に行なえ操作ミスもない。
4)アナログインサートは水平側方顆路12種、矢状顆路5種を備え、独自の解析結果に基づき計測結果が顆頭中心の運動路に忠実に再現されるようになっている。
5)上下顎フレームをセントリックに固定するために独自のラッチ機構が採用され、セントリックの再現精度が非常に高くなっている。
6)偏心運動中に上下顎フレームが離開するのを防止するために、顆頭球を常時フォッサ・ボックスにおさえつけるためのレバー機構を備えている。そのため咬合器のハンドリング・エラーが未然に防止されている。
【セントリック保持機構】
セントリックは咬合器の生命で、仮に偏心運動が正確に調節できても、セントリックが正しく再現されなければ、その咬合器は実用性を備えているとはいえない。サイバーホビー咬合器のセントリックラッチ機構は上顎のハウジングの左右両端に内蔵されたロックレバーが、下顎の顆頭球の軸の根元を左右両側でしっかりと保持することにより確実に保持されるようになっている。セントリックラッチは咬合器の上顎フレーム後方のロックレバーを下方へ降ろすことにより簡単に解除できるが、この機構は全ホビー咬合器シリーズに共通のものである。
このセントリックラッチはフォッサの調節機構と独立した構造になっているため、アナログインサートを交換してもセントリックの再現性は影響を受けない。そのため下顎模型の取りつけ時に、従来の全調節性咬合器のように咬合器の顆路を顆頭球が安定しやすい位置(ゼロ・セッティング)に調節する必要はない。このラッチは下顎模型の取りつけ時や、補綴物のセントリック確認時などに用い、通常はリリースしておく。
セントリックラッチとは別に左右のフォッサ・ボックス内に顆頭球おさえ用のレバーが取りつけられている。これは偏心運動中に顆頭球がフォッサから離れないように、常時顆頭球をフォッサの誘導面におさえつける働きをしている。そのため偏心運動時のハンドリング・エラーは未然に防止されている。おさえ用のレバーに加わるばねの力で顆頭球は常時セントリックに保持されているが、技工操作中にもし上下顎フレームを分離したいときは、咬合器を上下方向に引っ張ればワン・アクションで簡単に分離できる。逆に咬合器を組み合わせて一体にしたいときは、顆頭球をハウジングに重ねて強くおしこめば、おさえレバーが前方に移動し咬合器は合体される。手さぐりでこの操作が行なえるように、おさえレバーの下面には顆頭球を位置づけるためのノッチが刻まれている。
【コンピュータ・パントグラフ】
サイバーホビー・コンピュータ・パントグラフは、下顎前歯部の前方に取りつけられた点光源の発光を3本の光ファイバーを利用して3方向に照射し、点光源の3次元変位を上顎に取りつけた3本のCCD線状光電素子により検出する電子的顆路計測装置である。検出された点光源の3次元変位からコンピュータ演算により算出した顆路データをプリンタ上にデジタルおよびグラフィック出力する仕組みになっている。出力されるデジタルデータは、運動学的顆頭中心間距離(KCD)、アナログインサート番号、左右の矢状前方顆路傾斜度(LPSI/RPSI)、左右の矢状側方顆路傾斜度(LLSI/RLSI)など17項目である。
【運動学的顆頭中心の調節】
デジタルデータのKCD欄には左右の運動学的顆頭中心間距離が示されている。咬合器の回転中心を設定するときはその1/2の値に合わせる。たとえばKCDが110mmの場合は110(mm)÷2=55(mm)が調節値となる。KCDが奇数の場合は1を差し引き、その1/2の値に設定する。運動学的顆頭中心間距離は従来の顆頭間距離とは異なるものである。従来の顆頭間距離は顆頭の解剖的位置関係から割り出された顆頭中心間距離であり、個人差が大きい。運動学的顆頭中心は3次元的な下顎の回転軸により発生するので比較的狭い範囲内に分布している。サイバーホビー咬合器の運動学的顆頭中心の調節範囲が従来の全調節性咬合器の顆頭間距離の調節範囲に比べ狭いのはそのためである。この咬合器の調節範囲はあらゆる患者の運動学的顆頭中心値に十分対応できるように余裕をもって設計されている。
運動学的顆頭中心を調節する場合はフォッサ・ボックスに“0番”のアナログインサートを固定する。KCD値から求めた運動学的顆頭中心値に上顎フレームのハウジング前方の目盛りを合わせ、咬合器の上下顎フレームを一体に組み合わせセントリックラッチをかける。顆頭球の固定ねじを緩め顆頭球がアナログインサートの近心壁に接触するまで正中方向へ移動させ、固定する。以上で咬合器の運動学的顆頭中心の調節が完了する。“0番”のアナログインサートではイミディエイト・サイドシフトとプログレッシブ・サイドシフトはそれぞれ“0”に設定されているため、このインサートを用いると上下顎フレームを正確に位置づけることができる。
【アナログインサートの取りつけ】
使用するアナログインサートには60通りの組み合わせがある。出力されたデータにより矢状顆路用と水平顆路用のアナログインサートを選択し、矢状顆路用のインサートの側面にある鳩尾形の溝に水平顆路用インサートを挿入して一体に組み合わせる。上下顎フレームを分離して“0番”のアナログを取り外し、そこに一体に組んだ矢状顆路用と水平顆路用のインサートをさしこむ。ハウジングの前面には前方に向かってスロットが切りこまれているので、これにインサートを挿入してねじを締めればインサートは固定される。
【矢状顆路傾斜度の調節】
矢状側方顆路傾斜度を調節するときは咬合器のフォッサ・ボックスの上方にある矢状顆路傾斜調節ねじを緩め、デジタルデータのLSI欄の数値に合わせる。この操作により、水平基準面に対するハウジングの傾斜度が調節される。
【切歯指導桿と指導板】
切歯指導桿(インサイザルポール)は太く頑丈である。切歯指導板(インサイザルテーブル)はプラスチックでつくられ、取り外し可能である。片側は平坦で有歯顎用に用いる。もう一方の面は傾斜をもち、義歯用に適している。切歯指導板のこの面には矢状傾斜度10度、側翼角10度が与えられている。
【石膏模型の固着】
咬合器の調節の終了時に、上下顎石膏模型を固着する。上顎模型のトランスファには専用のキネマティック・フェイスボウを用いる。患者の顔面に左右の後方基準点と前方基準点、計3つの基準点をマークする。後方基準点はキネマティック・ボウを用い実測しターミナル・ヒンジアキシスを求める。前方基準点は上顎右側中切歯切縁、または安静位における口唇裂より上方43mmの位置にマジックインクで印記する。
軟化したモデリング・コンパウンドを巻きつけたバイトフォークを患者にしっかりと噛ませた状態で、バイトフォークの柄にキネマティック・ボウを固定する。そしてスタイラスの先端がヒンジアキシスのマークをさすように調節し、またリファレンス・ピンの先端が前方基準点を指示するようにする。以上の操作が終了したら、フェイスボウとバイトフォークを一体にして口腔外へ取り出しトランスファ・ボードに固定する。
計測したターミナル・ヒンジアキシスを咬合器に伝達するためにサイバーホビー咬合器には専用のアキシス・ジグが用意されている。アキシス・ジグは咬合器によく似た器具で、調節可能な開閉軸指示針をもち、上顎フレームの後方に取りつけられているスライディング・スクリューを回転させることにより、正中から左右側方へ等距離だけ指示針を移動できる構造になっている。上顎フレームの前端にはリファレンス・レベラーが取りつけられ、前方基準点の伝達に利用される。
アキシス・ジグをトランスファ・ボードにのせ、リファレンス・レベラーをフェイスボウのリファレンス・ポインタの上にのせる。つづいて、左右のスタイラス先端の幅とアキシス・ジグの開閉軸の指示針の先端を一致させるために、スライディング・スクリューを調節する。つづいてアキシス・ジグのフレームの後方についているエレベーティング・スクリューを回転させて、スタイラスと指示針が上下的にも一致するように調節する。指示針とスタイラスの先端が正確に一致したら、開閉軸はアキシス・ジグに正しくトランスファされたことになる。
上顎模型をバイトフォークの圧痕に一致するようにのせ、上顎模型を固着する。石膏の硬化後、マウンティング・リングごと上顎模型をアキシス・ジグから外し、サイバーホビー咬合器の上顎フレームに固定する。アキシス・ジグは、サイバーホビー咬合器と同一規格で製作されているので、開閉軸と上顎模型の位置的関係は模型を移し変えても誤差を生じることはない。
下顎模型は、セントリック・バイトを使って固着する。このとき切歯指導桿はセントリック・バイトの厚さを補償するために2~3mm程度長めにしておく。セントリックラッチをかけ咬合器が正しく位置づけられたら、下顎模型とマウンティングとの間のスペースを練和した石膏で満たし下顎模型を固着する。なお模型の固着後にアナログインサートを入れ変えたり顆頭中心の調節などを行なうと、上下顎フレームの位置関係に誤差を生ずるので、下顎模型の固着後には咬合器の運動量の調節を行なわないように注意する必要がある。
【計測精度】
サイバーホビー咬合器の再現精度を評価するために、5名の被験者の下顎運動をサイバーホビー・コンピュータ・パントグラフにより計測し、サイバーホビー咬合器を調節した。次にスチュアート・パントグラフを用い同じ被験者の下顎運動を描記しこれを調節の完了したサイバーホビー咬合器に固定した。そして咬合器の動きとスチュアート・パントグラフの描記ラインとの一致度を調べた。スチュアート・パントグラフの弾筆の直径は約0.2mmであるが、これを直径0.05mmの細さのものに交換し評価試験を行なった。その結果、運動開始点から3~5mmのところまで描記ラインの幅の範囲内で弾筆の動きがよく一致することがわかった。描記ラインは約0.2mmの幅を有しているから、弾筆の動きがラインの幅の範囲内でよく一致するということは、描記ラインの中心線に対して誤差(ぶれ)が±0.1mm以内であることを意味している。以上から本システムは計測範囲内において±0.1mmの下顎運動再現性をもち、十分な臨床精度を有することが確認された(保母、岩田 1984)。(株)モリタから市販されている。
→ツインホビー咬合器 
保母・高山による最新の咬合研究成果に基づき、保母が1995年に開発したアルコン型ボックスタイプの咬合器。調節性を有するが、咬頭傾斜角の付与(条件1)用と前歯誘導の付与(条件2)用にそれぞれ各1組の基準値を用いるツインステージ(2段階)方式の調節操作を用いることを特徴としている。保母・高山は咬合器の使用目的を従来の“下顎運動の再現”から“下顎運動の模擬(シミュレーション)”へと変更すべきだと考えた。それにともない、従来の個体ごとの顆路の計測データ依存から標準的な咬頭傾斜を基準とする考え方へ移行し、咬合器の設計も大きく変化した。この咬合器はツインステージ法専用に設計されており、顆路と切歯指導板を一体として使用するようにシステム化されている。
ツインホビー咬合器は、顆路と切歯指導板を一体として使用するようにシステム化されているという点で世界ではじめての咬合器である。一般的な分類からするとアルコン型の半調節性咬合器に属し、その矢状顆路傾斜度の目盛りは条件1と条件2に対応する25度(赤線)と40度(青線)の2か所だけに付されており、前者は咬頭傾斜角の付与に後者は前歯誘導の付与に対応して限定使用されるようになっている。またイミディエイト・サイドシフトはゼロに設定され、水平側方顆路角(ベネット角)は15度に固定されている。一方、切歯指導板の矢状傾斜度は0~70度、側翼角は0~45度の範囲に調節可能で5度刻みの目盛りが付されているが、それぞれの25度と10度の目盛りは赤字、45度と20度の目盛りは青字で記され、赤字は条件1を青字は条件2を表示している。切歯指導板に赤字と青字だけでなく5度刻みの目盛りを付してあるのは、切歯指導機構の影響度が大きいことを勘案し、グループ・ファンクションを与える場合など臨床の場における条件設定に融通性をもたせるためである。
このように従来の咬合器に比べツインホビー咬合器は顆路調節機構が簡略化された反面で、切歯指導機構が完備され比類ない特徴を備えている。これは下顎三角の後方2頂点の運動路である顆路に偏重して前方の1頂点を軽視していた従来の通念を破棄し、前方頂点である切歯路の制御を重視する方向へと発想を転換することにより、バランスよく下顎三角の3頂点を制御する方式へと抜本的に改善した新臨床術式のコンセプトを、咬合器上に具体的に結晶化したものといえよう。
ツインホビー咬合器を用いることにより、新臨床術式は次のように簡潔なものとなる。
1)顆路と切歯指導板を赤線および赤字(条件1)に合わせ、臼歯の咬合面をワクシングする。これにより基準値の咬頭傾斜角をもった臼歯の咬頭形態が形成される。
2)次に顆路と切歯指導板を青線および青字(条件2)に合わせ、前歯部を補綴する。これにより標準的な臼歯離開量を発現する前歯誘導が付与される。
従来の補綴臨床において患者の顆路を正確に計測して咬合器を調節してもあまり顕著な効果が認められなかったのに対し、ツインホビー咬合器を用いると顆路の計測を行なわないにもかかわらず、術者の意図する通りの臼歯離開量をきわめて高い精度で発現できる。これは従来の術式では顆路という1項目だけに注目していたのに対し、ツインホビー咬合器では顆路と切歯路と咬頭傾斜角の3項目を同時に考慮に入れているためであろう。ツインホビー咬合器は、上述したように簡略化された顆路調節機構と完備された切歯指導機構を備えているという特長に加え、以下のような機構を有している。
1)フロント・フリー機構:抜工作業時、とくに前歯部のワックスアップ、ポーセレン築盛、そして形態修正などを行なう際に便宜上、咬合器の前方(フロント)部が広くあいている必要がある。ツインホビー咬合器では切歯指導板(インサイザルテーブル)と切歯指導桿(インサイザルポール)が容易に着脱でき、広い自由空間が確保されるようになっている。これはフロント・フリー(F・F)機構と呼ばれ、これをサポートするため切歯指導桿の先端と切歯指導板の中心が精確に一致するよう各咬合器ごとに微調整されており、切歯指導板には咬合器と一致したIDナンバーが刻印されている。切歯指導桿の着脱時に垂直顎間距離に狂いを生じないようストッパーが備えつけられ、また切歯指導桿が切歯指導板に精確にガイドされるように、ブレード状になっている指導桿の先端は刃面の向きを正中に直角に合わせられるように、指導板の中心に指標ラインが刻印されている。
2)切歯指導板角度目盛り機構:ツインホビー咬合器の調節のための基準値はコンピュータ演算により算出されている。切歯指導板の目盛りを調節するときには1度以上の狂いを生じないように注意する必要がある。市販の咬合器の切歯指導板の矢状傾斜度の調節範囲は40度以下のものが多いが、基準値に基づいて調節するには、45度の範囲まで調節可能な必要があり十分なゆとりが与えられている。市販の咬合器ではいずれも前方基準点はそれぞれメーカーによって異なり、デナー社製のもの以外ではアキシス平面は用いられていない。そのためツインステージ法の基準値を用いるときは水平基準面の補正計算をするか、水平基準面をアキシス平面に合わせるようにしなければならない。なお水平基準面をアキシス平面に合わせるには、前方基準点を上顎右中切歯切端から内眼角に向かい43mmの点にとればよい。(株)モリタから市販されている。
→パナホビー咬合器 
1981年、保母により開発されたアルコン型ボックスタイプの半調節性咬合器。矢状顆路傾斜度、イミディエイト・サイドシフト、プログレッシブ・サイドシフトの各調節機構を備えチェックバイト法により調節する。姉妹器として普及型の非調節性のデンタルホビー咬合器がある。いずれも同一規格で製作されているため、フェイスボウ、マウンティング・リング、切歯指導板(インサイザルテーブル)などを共用でき、補綴治療の難易度に応じ最適の器種を選択できる。(株)モリタから市販されている。
パナホビー咬合器の顆頭球は水平方向に取りつけられているため、上顎フレームの開閉を妨げるものはない。そのため咬合器は135度まで開閉させることができる。顆頭球はセントリックラッチにより常にフォッサ・ボックスの内面に圧接され、ボックス型の顆路をもつ咬合器に起こりやすい顆頭球の離脱を防いでいる。セントリッククラッチにより上下顎フレームをセントリックにしっかりと保持する機構は、ホビー咬合器の全シリーズに共通である。セントリックラッチを解除すると、上下顎フレームは簡単に分離できる。チェックバイトにより咬合器を偏心位に保つときはセントリックラッチはリリースする。切歯指導桿は太く頑丈である。切歯指導板はプラスチックでつくられ、取り外し可能である。片側は平坦で有歯顎用に用いる。もう一方の面は傾斜をもち、義歯用に適している。切歯指導板のこの面には矢状傾斜度10度、側翼角10度が与えられている。
パナホビー咬合器ではチェックバイトの調節精度を向上させるために、チェックバイト・センサと呼ぶ特殊な器具が用意されている。チェックバイト・センサはプラスチック製の箱の中に水銀電池をおさめたもので、上面に金属性の電極板とダイオードがついている。これを咬合器のインサイザルテーブルの位置に取りつけ、切歯指導桿の先端をセンサの電極板に接触させると、咬合器の上下顎フレーム間に電気回路が形成され、顆頭球とフォッサ・ボックスがスイッチの役割りを果たすようになる、顆頭球とフォッサ・ボックスの内壁を接触させると電流が流れダイオードが発光する。チェックバイト・センサを利用すると顆路が正しく調節されたことが視覚的に確認できる。これにより咬合器調節時の精度が約2.5倍高められる。
矢状前方顆路の調節は次のようにして行なう。咬合器の矢状顆路を0度に合わせ下顎模型に前方チェックバイトを適合させる。上顎面の圧痕に上顎模型を噛みこませ、ワックスバイトを介して上下顎の模型を前方位に固定する。前方運動中に患者の左右の顆頭は前下方に移動するため、チェックバイトを介在させると、咬合器の顆頭球はフォッサ・ボックスから離れ前下方に固定される。ここで矢状顆路調節用のねじを緩め、フォッサ・ボックスの上面が顆頭球と軽く接触するように調節する。このときフォッサ・ボックスの示す傾斜度が矢状前方顆路傾斜度となる。
ついで側方顆路を調節する。チェックバイトで調節できる非作業側の顆路には、矢状側方顆路と水平側方顆路の2つがあるが、咬頭干渉を避けるためには、矢状側方顆路は調節せず傾斜の緩やかな矢状前方顆路を咬合器に再現するほうがよい。一方、水平側方顆路は水平側方顆路角(ベネット角)により再現するのが古典的手法であるが、この場合、咬合器の運動路は生体よりも外側方に向かうため、人為的な咬頭干渉がつくられるおそれがある。そのため水平側方顆路をベネット角で再現する方法はあまり好ましくないとされてきた。水平側方顆路はイミディエイト・サイドシフトとプログレッシブ・サイドシフトから構成されている。最新の高性能の半調節性咬合器は、これら2つのサイドシフトの調節機構を備えたものが多い。チェックバイト法は、セントリックと顆路上の1点を結ぶ角度を再現する方法であるため、1つのチェックバイトで同時に2つ以上の顆路調節機構を調節することはできない。そのため半調節性咬合器には装備されたイミディエイト・サイドシフトとプログレッシブ・サイドシフトの2つの調節機構をチェックバイトで調節するには特別な工夫が必要である。
【7.5度法】
1つのチェックバイトでイミディエイト・サイドシフトとプログレッシブ・サイドシフトを調節するためには、それら2つの顆路要素の間に存在する特別な関係をみつけるのが最良の方法といえる。Lundeen、Wirth(1973)は50名の被験者を使い、正中より110mm外側方の位置に固定したプラスチック製のブロック(顆路間距離220mm)にエアタービンで偏心運動時の軌跡を掘りこませた。そして、水平側方顆路のうちプログレッシブ・サイドシフトは矢状面に対して常に7.5度の角度を有し、ほとんど変化が認められなかったが、イミディエイト・サイドシフトには個人差が認められたと報告している。もしプログレッシブ・サイドシフトが7.5度で個人間に差異がないのであれば、咬合器のプログレッシブ・サイドシフトをこの値に固定し、チェックバイトでイミディエイト・サイドシフトを調節すれば、2つの調節機構を有効に活用できることになる。この方法は一般に7.5度法と呼ばれ、チェックバイトにおける水平側方顆路の調整法として広く普及した。
非作業側の運動軌跡は顆頭の外側で測った場合と、顆頭の中心で測った場合では異なる。運動学的には側方運動は作業側顆頭を中心とする回転rotationと、ヒンジアキシスに沿って作業側方向へ向かう平行移動translationの2つの成分からなり立っている。回転の孤は回転中心から離れるほど長さを増すが、平行運動は顆頭間軸上のどこで測っても常に同一量になる。そのためプログレッシブ・サイドシフトは顆頭の外側で測るほど小さくなり、ある距離を離れるとほぼ一定値をとるようになる。電子的下顎運動計測装置を使い、側方運動時の正中から55mmの点(顆頭間距離220 mm)の運動軌跡を算出したところ、プログレッシブ・サイドシフトはLundeenらの報告どおり約7.5度となり個人差のないことが確認された。しかし同じ患者の顆頭中心(顆頭間距離110mm)の運動軌跡には個人差が認められ、その平均は12.5度となり、Lundeenらの値との間に約40%の差を生ずることがわかった。以上から顆頭の外側で測った7.5度という値をそのまま顆頭中心の運動にあてはめられないことがわかり、水平側方顆路の調節方法を見直す必要が出てきた。
【IPB法】
電子的下顎運動計測装置を用いた研究から、イミディエイト・サイドシフト(ISS)、プログレッシブ・サイドシフト(PSS)、ベネット角(BA)の三者間に相関関係が存在し、ベネット角が増加するに従ってイミディエイト・サイドシフトも増加し、この間にプログレッシブ・サイドシフトも増加することがわかった。これはイミディエイト・サイドシフト、プログレッシブ・サイドシフト、ベネット角がゼロに近づくと側方運動のなかに占める回転の割合が高くなり、逆にこれらの値が大きくなるほど側方運動に占める平行移動成分の割合が高くなるためと考えられる。
上下顎歯接触滑走条件下で求めたイミディエイト・サイドシフトとプログレッシブ・サイドシフトの相関係数は0.46であった。両者の実測データから求めた回帰直線式を用いベネット角からイミディエイト・サイドシフトとプログレッシブ・サイドシフトを求める相関式を導出した。この式を用いれば、チェックバイトで求めたベネット角からイミディエイト・サイドシフトとプログレッシブ・サイドシフトを算出することができる。この方法はIPB法と名づけられている(保母ら1984、Hobo、Iwata1986)。この相関式を使って算出した値をもとにIPB相関表I型およびII型を作成した。IPB相関表の妥当性を評価検討するためにIPB法、7.5度値を用いる方法(7.5度法)、ベネット角により調節する方法(BA法)の3つを使って求めた水平側方顆路を、コンピュータ・パントグラフで計測した顆路と統計的に比較した。その結果、IPB法の精度がもっとも高いことがわかった。
側方チェックバイトを咬合器の上下顎の模型の間に介在させ第1ステップとしてベネット角を求める。この操作に先立ち、咬合器のイミディエイト・サイドシフトは0mmに固定し、プログレッシブ・サイドシフトは最大値の25度になるように正中方向へいっぱいに回転させておく。右側方運動のチェックバイトを用いると、咬合器の左側の顆頭球が前下内方に位置しガイドウィングとの間に空隙ができる。まず咬合器の矢状顆路傾斜度を調節しフォッサ・ボックスの上壁と顆頭球が接触するようにする。このときフォッサ・ボックスの傾斜度が矢状側方顆路傾斜度になる。つづいて、ガイドウィングを外側へ回転させ顆頭球に接触させる。このときのガイドウィングの回転角度がベネット角になる。
矢状側方顆路傾斜度とベネット角が計測されたら、IPB相関表I型を用いイミディエイト・サイドシフトとプログレッシブ・サイドシフトを求める。IPB相関表の左欄に示された数値のなかから計測したベネット角に対応するところを探し、上欄の数値のなかから矢状側方顆路傾斜度と一致する部分を探し、両者の交差するところに記された数値を読み取る。これが患者のイミディエイト・サイドシフトとプログレッシブ・サイドシフトとなり、上段に前者、下段に後者が示されている。矢状側方顆路傾斜度は5度刻みに表示されているが、値が中間の場合はいずれか近いほうを選べばよい。
プログレッシブ・サイドシフトは水平面に投影した角度によって定義される。パナホビーのようなボックス型顆路をもつ咬合器ではプログレッシブ・サイドシフトの調節機構はフォッサ・ボックスに取りつけられているため、咬合器の矢状顆路を変化させると目盛りの示す値と定義値との間にくい違いを生ずるようになる。そのため、それぞれの矢状顆路傾斜度ごとにプログレッシブ・サイドシフトの定義値を得るための目盛りの調節値を計算し直す必要がある。IPB相関表の上欄に矢状側方顆路傾斜度が示されているのはこのような理由による。
患者のイミディエイト・サイドシフトが特別に大きいときは、ガイドウィングが顆頭球に衝突し、側方チェックバイトをうまく上下顎の石膏模型の間に固定できないことがある。そのような場合は咬合器のプログレッシブ・サイドシフトを10度に固定し、イミディエイト・サイドシフトを最大値の4.0mmに仮りどめした状態で咬合器を固定しガイドウィングを調節するとよい。このようにして求めた仮のイミディエイト・サイドシフトの値を使い、IPB相関表・型により真のイミディエイト・サイドシフトとプログレッシブ・サイドシフトを求める。それぞれの値を咬合器に付与すれば水平側方顆路の調節は完了する。なお、イミディエイト・サイドシフトは副尺により0.2mmまで合わせることができる。
IPB法により求めた値と7.5度法やBA法により求めた値とが大幅に異なることが予測される。この差はチェックバイトの計測点をセントリックから正確に5mm離れたところにとった場合にはさほどでもないが、計測点が5mmから外れたところに求められた場合は、かなり大きなものになるはずである。チェックバイトを採得する点がセントリックから離れるほど、7.5度法ではイミディエイト・サイドシフトが大きく計測され、逆にBA法ではベネット角が小さく計測される傾向がある。セントリックから7mm離れたところでチェックバイトを採得した場合、IPB法で求めたイミディエイト・サイドシフトと7.5度法で計測したイミディエイト・サイドシフトとの間に100%程度の差が生ずることが考えられる。このような差はBA法についてもいえる。それはこれらの方法では調節値が1つしかないため、計測点の誤差がダイレクトに測定値に現われるためである。この点IPB法はイミディエイト・サイドシフトとプログレッシブ・サイドシフトの2つのパラメータを有するため、計測点が変わっても誤差はあまり大きく現われない。しかし、IPB法においても5mmの点でチェックバイトを採得することが、計測精度を高めるうえで望ましいということに変わりない。IPB法を用いることにより、チェックバイトを使いイミディエイト・サイドシフトとプログレッシブ・サイドシフトの両方を調節することが可能になり、水平側方顆路の再現精度は飛躍的に向上したといえる。