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マンディブラ・キネジオグラフ

【読み】
まんでぃぶら・きねじおぐらふ
【英語】
Mandibular Kinesiograph
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
Jankelsonによって考案され、1975年、マイオトロニクス社から発売された電子的下顎運動計測装置。MKGと略称されている。これに似た装置は以前にも数多く開発されてきたが、いずれも大型で取りあつかい操作が複雑なため実験用として使われ、日常の臨床に利用されることはなかった。マンディブラ・キネジオグラフはこの点を改良し、この種の測定装置ではじめて実用価値をもつものとなった。同じ原理に基づく器械にシロナソログラフがある。これらは下顎切歯点の3次元的運動路を時間的要素とともに記録し分析するものである。
マンディブラ・キネジオグラフは、患者の下顎前歯部に固定した小型マグネットの動きを磁場の強さの変化として、上下、左右、前後で感知し、オッシロスコープに波形として表すことができる。この波形を分析することにより、患者のチューイング・パターンや下顎運動の異常が診断できる。具体的には、補綴や歯列矯正の術前、術後の下顎運動経路の比較、総義歯製作時の下顎位の決定、顎関節症の診断などに使われている。
この装置は、下顎運動を矢状面、水平面、前頭面の3つの平面に、同時または個別に3次元的な投影図形として描くことができる。従来の下顎運動の測定装置はクラッチのような固定器具を必要としたり、また下顎に測定装置の重量が加わるようなことがあるため自然な咬合状態を測定するのが困難であった。マンディブラ・キネジオグラフでは、下顎とその動きを感知するセンサが機械的に連結せず、小型マグネットの磁場を介して非接触的に測定できるため(三谷 1977)、このような問題は起こらない。さらに下顎運動の研究で重視される咬頭嵌合位付近の再現精度がとくに優れているため、臨床診断や研究目的によくマッチしている(山下 1977)。
また、下顎運動を60倍に拡大して表すことも可能で、下顎運動路上の微細な変化を発見するのにも適している。しかし、マンディブラ・キネジオグラフによって得たデータを利用して、下顎運動を再現することはできない。
マンディブラ・キネジオグラフの問題点として、矢状面、前頭面上で測定される下顎運動路が特有の歪みを示し、マグネットの移動量が大きくなるほど、その歪みが大きくなること(三谷 1977)、地磁場の影響に対する処理法、センサの固定方法、頭位によってデータが変動すること、測定部位が切歯点に限られていることなどが指摘されている。
マンディブラ・キネジオグラフは、小型マグネット、磁気トランスデューサ、電子的回路部、ディスプレー装置の4つの部分から構成されている。小型マグネットは患者の下顎とともに移動し磁場の変化を起こすために用いられる。磁気トランスデューサは、眼鏡のフレームのような器具によって患者の頭部に固定され、1個のバーチカル・センサ、2個のアンテリア・ポステリア・センサ、2個のラテラル・センサ、そして、1個の地磁気センサの計6個のセンサによってつくられている。バーチカル・センサは患者のオトガイ部下方におかれ、磁場の上下方向の変化をキャッチする。アンテリア・ポステリア・センサは患者の頭部の左右側方におかれ、磁場の左右方向の変化をキャッチする。そして、地磁気センサは、患者の頭頂部前方におかれ、地上の磁場をキャッチする。
各センサは磁場の変化に比例したパルス状電圧を発生し、これを電子回路に送る。電子回路部は、パルス発信回路、復調器、補正回路、主増幅器、微分器の5つの部分から構成されている。パルス発信回路は各センサに駆動用パルスを送るかたわら、復調器にサンプリング用のパルスを送る。電子回路部で復調された電圧は、マグネットの移動にともなう磁場の変化に比例するが、実際の下顎の移動距離とは比例しないため、IC演算回路によって補正される。そして補正された出力電圧は主増幅器で増幅され、微分器によって下顎運動の速度、加速度を加味した時間的対応変化を示す波形として、オッシロスコープ上に3直交座標成分として表示される。