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無咬頭人工歯

【読み】
むこうとうじんこうし
【英語】
Monoplane artificial tooth
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
咬頭斜面のない平坦な咬合面形態を有する人工歯。総義歯に用いられる。GPT-6では、モノプレーンmonoplane(形容詞)を“左右的medial-laterallyおよび前後的anterior-posteriorlyに平坦な義歯排列のための特殊平面”と定義し、さらに無咬頭咬合monoplane occlusionを“後方歯posterior teethが、いかなる咬頭隆起cuspal heightをも欠く咀嚼面をもつ咬合排列”と定義している。関連用語としてリニア・オクルージョンlinear occlusionがあり、“義歯の咬合排列の一形態で、水平面に投影してみた場合、下顎の後方歯の咀嚼面が細長い綿状の咬合形態を有するもの、通常無咬頭歯と対合する”と定義されている。
以下小林(小林:デンタル・ダイヤモンド10:274-281、1985)の記述に基づいて要約することとする。
欧米において使用される人工歯の約半分は非解剖的人工歯、とくに無咬頭人工歯であるが、わが国では一般に総義歯にはバランスド・オクルージョンの咬合様式がとられ、解剖的(有咬頭)人工歯が使用されている。これはGysi理論の影響や、平坦な無咬頭での咬頭接触では咀嚼能率が悪いのではないかという懸念などに起因していると考えられる。しかし有咬頭(解剖的)人工歯では、咬頭斜面が存在するため咀嚼時や空口の嚥下時に側方咬合圧を生じ、義歯床が移動や動揺をきたして顎堤の呼吸を促進する。これがくり返されると、下顎位が変化して顎関節や咀嚼筋にも影響を及ぼすおそれがある。これに対し咬頭斜面のない平坦な無咬頭人工歯を使用すれば、咬頭力を顎堤に垂直に作用できるというのが、無咬頭人工歯の適用についての基本的な考え方である。
【適応症】
無咬頭人工歯の適応症は無歯顎症例のすべてであり禁忌症はないが、とくに効果が得られる場合として以下の適応症があげられている。
1)良好な顎堤を保存したい場合。
2)顎堤の吸収が顕著で、できる限りその状態を維持したい場合。
3)下顎義歯の安定を求める場合。
4)上下顎堤の対向関係が平行か、またはそれに近い場合。
5)臼歯がクロスバイトの場合。
6)ゴシック・アーチ描記によりアペックスが不明確か、またはタッピング・ポイントのバラツキが大きい場合。
7)顎関係がII級の場合。
8)ブラキシズムの習癖が強い場合。
9)咀嚼系に機能障害がある場合。
【排列様式】
無咬頭人工歯のおもな排列様式を列挙すると、次の通りである。
1)Sears法
これは、無咬頭人工歯の適用を主張する立場では代表的な排列法である。平坦な咬合平面を付与するとクリステンゼン現象が発現し、前方または側方運動において両側または非作業側の後方で臼歯離開するが、両側の最後臼歯の歯軸を傾斜させ、その咬合面を通法の矢状および側方の咬合彎曲に沿うように傾斜させる。この様式は、前歯と両側最後臼歯(バランシング・ランプ)の3点でバランスをとるので、スリーポイントバランスとも呼ばれている。通常、バランシング・ランプは上顎歯を排列せずに下顎最後臼歯または義歯床で付与する。
2)Hardy法
これは、下顎堤が左右非対称性でSears法の適用が難しい場合、下顎堤が極度に吸収している場合、あるいは咀嚼系機能障害症例に適している。臼歯をすべて平坦に排列する咬合様式である。
3)Jones法
これはもっとも臨床的な排列法で、日常臨床でしばしばみうけられる下顎堤の後方部が斜面を呈し、下顎義歯が前方への推進現象を起こしやすい症例に適用される。Hardy法と同様に下顎歯切縁、尖頭、臼歯咬合面を咬合平面に一致させて平坦にするノンバランスド・オクルージョンであるが、下顎後方の斜面部には咬合接触を与えず、この部の上顎臼歯は咬合平面より約2mm挙上して排列し、舌や頬粘膜に対する“場ふさぎ”の役割りをさせる。
上述のように、無咬頭人工歯は広く無歯顎症例に適応症するが、咬合接触面が平坦となるので、成功させるには咬合採得を的確に行ない、かつ入念に削合調整することが肝要とされている。