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6自由度

【読み】
ろくじゆうど
【英語】
Six degrees of freedom
【辞典・辞典種類】
新編咬合学事典
【詳細】
3次元空間内における剛体の運動がもつ自由度の数、物理学のなかの力学には物体の運動を対象とした運動学という分野があり、その基本定理のひとつに“3次元空間における剛体のいかなる運動も、その剛体上に定めた任意の1点の3次元変位とその点を回転中心とした3次元回転で表すことができる”と記述されている。運動学ではこれをオイラの定理という。3次元変位と3次元回転はそれぞれ3つの自由度をもっているので、合わせて6自由度となる。しかし6つの自由度は、3次元変位と3次元回転からなるとは限らない。
一般に剛体の位置は、剛体内の一直線上にない3つの点の位置(たとえば下顎三角の3頂点)で定められる。それは剛体内の任意の点の位置は3つの点からの距離で決められるからである。3つの点の3次元変位の統計は9つなので、9つの自由度があるようにみえるが、3つの点を結んだ三角の3辺の長さがそれぞれ一定という3つの制約条件があるため自由度が3減って6自由度となる。この場合は計9つの変位のうちから選んだ6つの変位が6自由度に対応する。ただしこの6つの自由度を3つの点のうち2つに集めることは禁忌で3つの点に分割して割りあてなければならない。
下顎運動の解析においては下顎運動の法則性を浮き彫りにするためどこに標点を設定するかがキーポイントになる。下顎骨は生体上で2つの関節が1つの運動に関与する唯一の骨とされている。したがって下顎運動解析のための標点を設定するに際し、左右の顆頭に注目するのは当然であろう。河野(1968)により矢状面内境界運動に対応して発見された全運動軸、ならびに保母(1982、Hobo 83、84、84)により側方運動に対応して発見された運動学的顆頭中心はそのような観点に立って選択された下顎運動の特定点である。両特定点を組み合わせた顆頭中心をオイラの定理に適用すると、3次元では“いかなる下顎運動も顆頭中心の3次元変位と顆頭中心を回転中心とした3次元回転で表すことができる”と書き替えられ、2次元では“いかなる(矢状面内の)下顎運動も顆頭中心の2次元変位と顆頭中心を回転中心とした1次元回転で表すことがきでる”と書き替えられる(2次元平面内における運動の自由度は3である)。
ここで顆頭中心の3次元変位とその回りの3次元回転をそれぞれ変位ベクトルと回転ベクトルに置き換え、回転ベクトルを除外して考えると、顆頭中心の変位ベクトルは下顎(全体)の平行移動に他ならない。したがって上記の3次元および2次元における2つの法則はそれぞれ、“いかなる下顎運動も下顎の3次元平行移動成分と顆頭中心の回りの3次元回転成分で構成される”、および“いかなる(矢状面内の)下顎運動も下顎の2次元平行移動成分と顆頭中心の回りの1次元回転成分で構成される”と書き替えることができる(ただしこの表現には、それぞれの平行移動ベクトルはそれぞれの回転中心の変位ベクトルに等しいという付帯条件がともなう)。保母、高山(1995)の提案した下顎運動の運動学的構成はこのような知見に基づいて考案されたものである。
3次元または2次元の下顎運動解析の際に下顎運動を1つの回転で表すため特定の回転中心または回転軸を探索する試みが行なわれることがある。そのような試みが非生産的であることを2次元平面内の運動を例にとって以下に説明する。
Gysi(1929)が軸学説のなかで求めた側方咬合軸はこの瞬間回転軸であったため、普遍的な実効性を発揮するには至らなかった。
下顎運動の解析研究において、出発点と終点の2つの顎位のみを対象として回転中心を求めると瞬間回転軸の性格を有するものとなるが、これは上述の理由により運動中のすべての顎位に適用しうる回転軸にはならない。
→平行移動と回転、下顎運動の運動学的構成